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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
1章 神界高校、文化祭編
2/16

2話 祝福


入学から早三週間が過ぎようとしている四月の昼下がり。教室には小テストの答案が返され、ざわざわとした騒ぎが広がっていた。


「お、翔馬!何点だよ!」


エルサが背後から答案を覗きこんでくる。


「うるせぇな……まあまあだよ。お前は?」


「俺?ほれ!」


満面の笑みで差し出された答案には 74 の数字。

エルサらしい、適度にやって適度にミスる点数だ。


だがやけに嬉しそうな大井史と何かを話し答案を受け取った与志野がいかにも自信ありげな顔でにやけて言った。


「そんなもんか〜、まあお前ら馬鹿だからなー。」


「うわ、100点!?すげぇじゃん与志野!」


「大井史がこの学年で満点は俺だけだってさ。」


田野も静かに答案を見せる。


「僕はこんなもんだね。満点じゃないけど」


相変わらず淡々とした声だが、どこか翔馬を見る目が鋭い。


翔馬はふと、クラスの端を見る。


そこには誰も居ない空席がいくつもある。

本来ならクラスを牛耳っていた山愚痴達の席。


先週起きた謎の集団暴行事件により山愚痴達は病院送りになり、一度は警察が動く事態となったが山愚痴達が恐れて与志野の名を口にしないのもあり、翔馬達が怪しまれる事はなかった。


(あれから5日か……案外バレないもんだな……)


田野に言われた言葉が突然胸の奥でよみがえる。


――“君たち、目覚めたんだね”


翔馬はペンを置き、気づけば田野の横顔を見つめていた。


その瞬間、意識がふっと揺らぐ。



5日前。


校門の前。

夕暮れの風の中で、田野はただ静かに言った。


「この学校には秘密がある、それはごく少数の才能ある生徒達に授けられた異能...…祝福だよ。」


「祝福……?」


与志野は息を呑んだ。


田野は続ける。


「与志野の蒼い暴走。

 そして翔馬、君のあの瞬間移動みたいな動き。

 あれは偶然やまぐれじゃない」


翔馬の背中に冷たいものが走った。


「あれは……俺の気のせいなんかじゃなくて……」


田野が見せるわずかな笑みは、どこか寂しげだった。


「僕も……持ってる、だからこそ気づけるんだ」


翔馬と与志野が顔を合わせる。


「持ってるって……その祝福っていう超能力をか?」


「ああ。」


「じゃあ……山愚痴達のあれも……」


「そう、あれは与志野の祝福の暴走によって起こった事だよ」


「……やっぱり……俺が……」


与志野の顔が青くなる。


「与志野には悪いけど……正直あの程度で済んで良かったよ、ていうか祝福者の覚醒被害被害の中ではあんなの可愛い方だと思う」


「あれが可愛いって……他の奴らはそんなに酷いのか?」


翔馬も額から汗を流しながら言う。


「まあ……そうだね、死人が出る時もある」


「死人って……やばすぎんだろ!そんなの……じゃあ何でニュースとかにならないんだよ!?」


「揉み消されるんだよ……何者かによってね、最も僕も誰が揉み消してるのかは分からないけど、でも……あいつらには何故だかその情報が届く」


「揉み消し……って……てかあいつらって誰だよ?」


「新しい祝福者の覚醒暴走は、あいつらにとって最も厄介な問題なんだ」


翔馬と与志野の顔が歪む。


田野が振り返り、はっきりと言った。


「何野四天王だよ。」


「何野四天王...?何だよそれ」


「数年前...…この学校に通う一人の生徒がある異能に目覚めた、そして彼だけじゃなく同じ時期に何人も似たような現象が起きたんだ、そのうち彼らは力に溺れ、自分に目覚めた異能を他人を傷つける為に、誰かを支配する為に使い始めたんだ。」


与志野が絶句する。


「この学校で...…そんな事が...…」


田野は続けた。


「その時祝福者達は誰が一番の支配者か、誰が一番優れているか決める為殺し合いを始めた。その時祝福者達のほとんどは死ぬか消息不明になってしまったが....…その壮絶なバトルロワイヤルに勝ち残った猛者達四人、それが何野四天王だ。」


翔馬は困惑しながらも言った。


「田野...…教えてくれ。

何でお前はそんな事知ってんだ?お前がその祝福ってのに目覚めたのはいつなんだよ」


「目覚めたのは入学後すぐ。

俺も最初は困惑した、でも...…」


田野が顔を歪め苦しそうな顔をした。


「何野四天王の一人、YOU diedの部下が祝福を発現したばかりの俺に接触してきた。そして全てを教えてくれたんだ。初めは親切な人達だと思った、でもあいつらは...…またこの学校で殺し合いを始めるつもりだ。」


「YOU died...…?殺し合いって...…嘘だろ?」


「翔馬、信じられないかも知れないけど...…祝福に目覚めた以上お前らももう戻れない、この学校の裏口に入っちまったんだ。」


「裏口……って……」


「この学校の影で行われている何野四天王の座を争う熾烈な殺し合い……」


「バトルロワイヤルだよ」



「翔馬?どうした?」


エルサが覗き込む。


「いや、なんでもない」


そう言いながら、翔馬は昨日の田野の言葉が頭から離れなかった。


「何だよ、悩み事か?なんかあったら俺に言えよな!」


エルサは爽やかな笑顔で翔馬にそう言った。


「……ああ、ありがとう」


そう言いながら、翔馬は昨日の田野の言葉が頭から離れなかった。


(祝福やら何野四天王やら……くそ……訳わかんねえ)


そして放課後。


人気の少なくなった特別棟へ翔馬、与志野、田野の3人は向かった。


鍵のかかったはずの扉が、ギィ……と勝手に開く。


「ここは……?」


「昼でさえ誰も寄りつかない秘密の場所だよ、ここで俺も色々と祝福を試したんだ。」


田野が淡々と言う。


(この学校に……こんな場所が……)


薄暗い空間に、簡易的なマットと、衝撃吸収用の壁。

まるで秘密の武道場のようだった。


「じゃあ……ここで俺らの力を教えてくれるってことか?」


「教えるっていうか……制御しないと危険だからね」


田野はまず与志野の前に立つ。


「君達の祝福は見た感じフィジカル系なんだ。僕とは少しタイプが違う、だから教えられることは少ないかもだけど...」


与志野の顔がこわばる。


「前みたいなのがまた起きたら……俺……」


「だから今日制御する。

 大丈夫、僕も最初は暴走した」


田野が静かに与志野と翔馬に語りかける。


「この前の感覚を思い出すんだ、自分の中の核を思い浮かべる感じ」


「……っ!」


与志野の体がびくりと震える。


「落ち着け、吸って……吐いてを繰り返すんだ」


田野の声は不思議なほど落ち着いていた。

そのうち与志野の指先に蒼い揺らぎができた。


「君の祝福はその指先みたいだね、昨日山愚痴達を指で突いて吹き飛ばしてたし」


「指先に……何か光が……これが俺の力……」


翔馬が驚いて田野を見る。


(指で……そうだったのか……速すぎていきなり吹き飛んだ様に見えたけど……)


「指先...…指で....…突く。」


与志野は人差し指を上げたまま拳を思い切り正面に突いた。


ドン!


空気が裂けるような風が翔馬達に吹きつけ翔馬達は後ずさった。


「……できた……?」


「今のは成功だよ、よく頑張った」


与志野の表情にわずかな自信が灯る。


「なあ……俺の指先にあったあの青いモヤって何なんだ?」


「それは蒼の気って呼ばれてて祝福を発動する時に消費するエネルギーみたいなもんだよ、蒼の気が無くなったら祝福は使えなくなるんだ」


「蒼の気……成程」


与志野は自分の手を見ながら呟いた。


「蒼の気って……どれくらい体にあるんだ?てかそういうの計測できるのか?」


翔馬が聞くと田野は少し困った様な顔をした。


「実は僕もあんまりそれは分からないんだ、僕自身まだ発現してから時間経ってないしYOU diedの部下から聞いただけだしね」


「そっか……」


「じゃあ次は翔馬」


「俺は……何ができるんだ?」


「簡単だよ、この前の跳躍。

あれは瞬間的に身体能力を極限まで引き上げる祝福っぽいね」


「俺もフィジカル系……ってことか?」


田野は頷く。


「ただしコントロールできなきゃ危険だよ。

 多分骨とか筋肉が悲鳴をあげる」


田野はマットの中央を指さした。


「じゃあ翔馬、さっき与志野に言ったのを意識しながら軽く前へ跳んでみて」


「軽く、か……?」


翔馬が地面を蹴る。


ドッ!


空気が一瞬歪み、視界がぶれた。


「うおっ……!」


ほんの1メートル跳んだだけで、まるで全速力で加速したような反動が来る。


「ほら、これ。

制御しないと、勢いが殺しきれない」


田野が苦笑する。


「凄え……何か……足にバネがついてるみたいだ」


「でも……なんかやれそうだよ、翔馬」


与志野が笑って言った。


その声に、翔馬の胸の奥がまた熱くなる。


「慣れてきたら技名でも決めようか。」


田野の言葉に2人は笑った。



練習を開始してから早二時間。

翔馬達は休憩を取り、外で飲み物を買っていた。


「……なぁ田野」


自販機で飲み物を選ぶ与志野を見ながら翔馬がふと、口を開く。


「俺たち……これからどうすりゃいいんだ?」


田野は少し考えてから答えた。


「まずは祝福をコントロールする。

 そして……いつか来る本物の危機に備える」


「本物の……?」


「この前の事件は間違いなく何野四天王達に届いてる。俺にもまたYOU died達の手が伸びるかもしれない。君たちの力は間違いなく、その渦中に巻き込まれる」


静寂が三人を包む。


だがその中に、不思議な高揚感もあった。


翔馬は思う。


(俺達なら……きっと……)


心が少しだけ前へ踏み出す。


夕日が差し込む特別棟の一室で、

2人は初めて自分の力と向き合った。


そして、それぞれの胸に小さな決意が生まれた。


そしてこの時、翔馬達を影で観察している何者かをその三人はまだ知るよしもなかった。

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