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亜里野ストーリー  作者: 与志野 音色
2章 体育祭編
18/39

18話 体育祭、開戦


——二ヶ月後。


涼しい風が吹き抜ける早朝の校庭。

テントが並び、まだ人の少ない体育祭会場には白線が静かに伸びていた。


翔馬は校門前で深呼吸する。


(……二ヶ月、やれるだけやった)


そこへ与志野が自転車で現れ、軽く手をあげる。


「おはよ、翔馬。

……覚悟は出来てるみたいだな。」


少し遅れて田野も走ってきた。


「はぁ……はぁ……ごめん!家の手伝いあって遅れた!」


翔馬は二人に向き直る。


「行こう。……今日が決戦だ。」


その表情は、以前の弱さを微塵も感じさせない。

三人は並んで校門をくぐった。


⸺⸺


体育祭 開会式。


生徒達が入場し、音楽が鳴る。

保護者席も盛り上がり、仮設校舎の寂しさとは違う、明るい空気が満ちていた。


校長先生がマイクの前に立つ。


「……これまで色々あった。けど今日は、

みんなで前に進むための一日にしよう。」


その声に、生徒や保護者達の拍手が広がった。


だが——

翔馬たち三人だけは、その空気を静かに見つめていた。


(……この平和を、壊させるわけにはいかない)


開会式が終わる。


生徒たちが種目の準備に走り出す頃——


空気が変わる。


「よぉ」


校舎裏の影から、まるで散歩ついでのように現れた。


黒い制服、無機質な瞳。

二ヶ月経っても変わらない殺気。


抹殺斗。


その後ろからフンペチも姿を現す。


「久しぶりです……準備はできてますか……?」


その瞬間、風が止まったような緊張が走った。


だが翔馬は一歩、二人の前に踏み出す。


「……ここじゃやらない」


抹殺斗の眉がわずかに動く。


「……フン、周りを巻き込みたくないってか?」


与志野も横に並び、言い放つ。


「ここは……体育祭の会場だ。

一般人ばっかりだ、ここを戦場にしたら……また同じことになる。」


田野も震えながらも言葉を続ける。


「お願いだ……場所を変えてくれ」


抹殺斗は沈黙し、三人を順に見た。


フンペチが抹殺斗にボソッと呟く。


「フーン……抹殺斗さん……どうしますか?」


抹殺斗はフンペチの言葉を遮るように手を上げる。


そして不敵に笑った。


「いいだろう」


翔馬たちの心に緊張が走る。


抹殺斗は続けた。


「俺達もなるべく目立つ真似はしたくないんでな、

好きにするといい」


与志野は翔馬を見る。


「翔馬……行く場所は」


翔馬は僅かに息を吸い、二人と目を合わせた。


「……二ヶ月、俺たちが修行した——廃工場跡地だ。

そこなら……誰にも迷惑かけない。」


抹殺斗は薄く笑った。


「案内しろ」


風が吹き、旗が揺れる体育祭のグラウンド。

その明るさの裏で、本当の戦いが今、始まろうとしていた。


三人は振り返らず、廃工場へと歩き出す。

抹殺斗とフンペチが静かにその後を追う。


——全ての決着が、今日つく。


翔馬たち三人が歩く音が、静かな朝の路地に響く。

抹殺斗とフンペチは数歩後ろを、影のように付いてきていた。


やがて、学校から離れた先にある巨大な鉄柵が見えてくる。入口にはもう誰もいない。

十年以上前に閉鎖された、ひび割れたコンクリートの敷地。


与志野が一歩止まる。


「……ここだ。」


錆びついたゲートを押し開けると、

廃工場跡地が静かに広がっていた。


屋根は半分崩れ、鉄骨は曲がり、

風が吹くたびに古びた鉄板がギィィ……ンと鳴る。


翔馬は深く息を吸い、鉄の匂いを胸に刻む。


「場所は……ここで間違いない。」


抹殺斗は辺りを見回し、まるで実験を観察する研究者のように言った。


「悪くないな、広いし人気もない……」


フンペチも無言で辺りを見回す。


与志野は背筋を伸ばし、抹殺斗を真っ直ぐに睨みつける。


「……ここなら誰も巻き込まれない。

文句はないだろ。」


抹殺斗はニッと笑う。


「成程な……墓場としては丁度いいだろう……」


その瞬間、空気が変わる。


翔馬が一歩前に出た。

その目には恐怖も迷いもない。


「抹殺斗……」


抹殺斗の黒い瞳がまっすぐ翔馬に向けられる。


「今日、ここで……全部終わらせる。」


抹殺斗は軽く首を鳴らし、手袋を締めるように拳を握った。


「やっとだな。

二ヶ月……待ちくたびれた。」


フンペチが目線を上げる。


「抹殺斗さん……開始のタイミングは……そちらで……」


抹殺斗は右足を半歩前に出し、腰を沈めた。


音も殺気もない。

ただ、圧倒的な“死の実力”だけが空間を満たす。


翔馬、与志野、田野は三角形に散開した。


鉄骨の影が揺れる。

風が吹き抜け、砂埃が舞った。


抹殺斗がゆっくり口を開く。


「——始めようか。」


その声が落ちた瞬間。


翔馬の足が、地面を爆ぜさせる。


「double step!!」


音色の指先には青白い光が集まり、


「thousand finger……!!」


田野の背後から、彼を支える少女がふわりと顕現した。


「my only girlfriend」


そして。


抹殺斗が微動だにしないまま、呟いた。


「なるほどな、悪くない……が」


鉄骨が震え、空気が裂けた。


「俺の敵じゃないな。」


——決戦が、始まる。


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