17話 密会
薄暗い教室。
蛍光灯が一つだけ点滅し、
金属の机が冷たく光っている。
その机を挟んで、二つの影が座っていた。
一人は男、気配すらないほど静かで呼吸すら聞こえない。
何野四天王の一人、無闘。
もう一人はフードを深くかぶった小柄な人物。
机に置いたヘルメットには、ポツリと赤い点、血の跡。
無闘が口を開いた。
「……YOU died が死んだ。」
フードの人物がヘルメットを指で弾く。
「知ってる!抹殺斗がやったんでしょ?」
その声は落ち着かず、どこか跳ねるような癖があった。
無闘は感情を見せないまま続ける。
「いや……トドメを刺したのは抹殺斗だが……追い詰めたのは一年の亜里野翔馬、与志野音色、田野恵那の3人だ。」
フードの人物は足をブラブラ揺らしながら言った。
「え!何で!?誰それ!」
無闘がゆっくりと視線を向けた。
「亜里野翔馬……どこかで聞いた事ある名だ。」
「それは違うと思うよ!私は知らない!」
フードの人物はそう言うと——
フードを外した。
バサッ。
現れたのは、寝癖でボサボサの髪。
制服の上着はしわくちゃ。
顎を指でこすりながら、目にかかった前髪を上げた。
否定者F——正体は朝、翔馬たちとぶつかりかけたあの女子高生だった。
無闘が目を細める。
「……どうするつもりだよ」
Fはスッと立ち上がる。
「ちょっと闘い見てくる!」
無闘は静かに言う。
「抹殺斗は体育祭を選んだらしい」
Fはそれを聞くなりがっかりした顔をした。
「えー……二ヶ月も先じゃん、何でそんな間空けるの?」
「あんな事が起きて二週間ちょっとでおっ始める訳ねえだろ、そこまで抹殺斗も馬鹿じゃねえって事だ」
そう言うと、再びヘルメットをかぶった。
カチッ。
ボサボサの髪が隙間から飛び出る。
無闘が問う。
「帰るのか?」
Fは軽く手を振り、ドアへ向かう。
「バイバーイ」
細い肩がゆらゆら揺れながら、暗闇へ消えていった。
無闘は一人、ぼそりとつぶやいた。
「確かに二ヶ月か……少し不自然だな。」
——そして文化祭崩壊からニ週間後。
翔馬は放課後与志野と田野とともに、いつもの特別棟の訓練場に集まっていた。
体育祭の発表から数日。
抹殺斗が体育祭を“決戦の日”と宣言してから、まだ混乱が続いていた。
窓から入って来る夕方の風が少し冷たい。
田野が腕を組む。
「……今日集まった理由、わかってるよな?」
翔馬は静かに頷いた。
「抹殺斗に言われた蒼の気。
あれを使いこなせるようにならないと……絶対勝てない。」
与志野は不安げに辺りを見回す。
「でも……蒼の気って祝福を発動させる時に出るあの蒼いオーラだろ?ただのオーラに使いこなすとかあんのか?」
「分からん……でも抹殺斗はYOU diedに蒼の気もろくに使いこなせないって言ってた……YOU diedでも蒼の気は使いこなせない……それほど難しいんだ。」
翔馬は続けた。
「YOU diedを仕留めた抹殺斗の力……あれを見て、嫌でもわかったよ、今のままじゃ俺たちは一瞬で殺される。」
空気が重くなる。
だが与志野は逆に踏み出した。
「だったら一つしかねえな、二ヶ月修行して強くなる」
田野も拳を握りしめる。
「場所は……どうする?最近は警備員が見回りしてるしここも多分巡回するだろ」
翔馬はポケットから、地図のプリントを取り出す。
「ここの廃工場地帯、町外れの立ち入り禁止区域。人はほぼ来ないし……本気を出せる。」
田野が地図を覗き込む。
「ここなら確かに誰の目にも触れないな……本気でやり合っても大丈夫だ」
与志野はごくりと喉を鳴らした。
「……俺たち本当に……抹殺斗と殺し合うんだな。」
翔馬はゆっくりと頷いた。
「もう逃げない、YOU diedが目の前で殺られちまったあの日から……俺は後悔し続けてる。
これ以上、誰も死なせたくない。」
与志野はその言葉を聞き、少しだけ柔らかく笑う。
「翔馬らしいな」
そして三人は同時に視線を合わせる。
「二ヶ月後——体育祭。
抹殺斗に勝つ為に……やるしかないんだ。」
翔馬は息を吸い、夕焼けを背に宣言した。
「今日から修行を始める」
与志野、田野の目に決意の火がともる。
その瞬間——
風が吹いた。
三人の影は長く伸び、まるで未来へ向かって引き伸ばされるようだった。
「来いよ、抹殺斗……」




