14話 病院
——白い天井。
ゆっくりと意識が浮かび上がり、
翔馬は重いまぶたを持ち上げた。
(……ここは……病院……?)
身体はまだ痛む。
すると、ベッド横の椅子に座っていた男が勢いよく立ち上がった。
「おお!起きた起きた!!」
やたらと声が大きい。
クラスメイト——エルサだった。
「……エルサ……?」
「おう!お疲れ!とりあえず……生きててよかった!!」
重症の翔馬にも遠慮のない明るさ。
それがエルサらしかった。
翔馬はかすれた声で訊く。
「……みんな……無事なのか……?エルサも……怪我は?」
その問いに、エルサは一度息を吸い、
真剣な顔で言った。
「俺は大丈夫!あとさ……信じられないかもしれないけどな……死者ゼロだったってよ。」
翔馬の表情が固まる。
「……なっ……」
校舎の七割が崩壊したあの惨状。
無事なわけがない。
だがエルサは続けた。
「マジで奇跡だよなー、どうも二人の生徒が倒れてる人を片っ端から運び出してたらしいぞ。
見た人は全員速すぎて顔が見えなかったって、何かヒーローみたいだな!」
「……誰が……そんな……」
エルサは肩をすくめる。
「わかんねぇ、けど……そいつらのおかげで助かったのは確かだ。」
翔馬の胸に複雑な感情が広がる。
そこへ——
コン、コン。
ドアをノックする音がした。
エルサが振り向く。
「あ、どうぞー!」
入ってきたのは、優しい雰囲気の大人だった。
「失礼します……。えっと……君が翔馬くんの……?」
エルサは立ち上がって頭を下げる。
「クラスメイトのエルサっす!初めまして!」
「あ、初めまして。私は青木といいます。
翔馬と音色が暮らしていた施設の……先生です。」
青木先生はエルサに会釈し、そのまま翔馬のそばへ歩み寄った。
心底ほっとしたような顔だった。
「翔馬……本当に良かった。
大きな事故に巻き込まれたと聞いて……ずっと心配でね。」
その声は震えていた。
祝福を知るどころか、
事件の真相を何一つ知らない一般人の顔。
ただ、大切な教え子の命を案じている人の顔だった。
翔馬は思わず目を伏せる。
「……すみません先生……心配かけました……」
「謝る必要なんてないよ。」
青木先生は優しく微笑む。
「君は被害者なんだ。
最近、学校でトラブルが続いていたんだろう?
本当に……危ない目に遭ったね。」
(……そうか、先生は……全部事故だと思ってる……)
祝福の存在も、
自分が何と戦ってきたかも知らない。
それでも、心配して駆けつけてくれた。
蒼気先生は続けた。
「もう無茶はしないでね、命は一つなんだから。」
翔馬は苦く笑う。
「……はい」
先生はもう一度翔馬の頭を軽く撫でた。
「また来るから、ゆっくり休むんだよ。」
青木先生が部屋を出ていき、
エルサもそれに合わせるように立ち上がった。
「じゃ、また来るわ!なんかあったら言ってくれよ!」
二人が出ると、病室には静寂が戻った。
翔馬は天井を見上げ小さく呟いた。
「……先生、本当に……ありがとう。」
そして拳を握る。
(でも……これからも戦わなくちゃ、俺のせいで誰かが死ぬのは……もう絶対に嫌だ)
そして二週間後、仮設校舎の裏。
田野の祝福、my only girlfriendによる治癒で
怪我の多くが回復し、翔馬は退院していた。
与志野と田野が待っている。
翔馬は二人にYOU diedの死、
そして抹殺斗の登場を話した。
与志野の顔色が変わる。
「……マジかよ……もう次の敵が……」
田野は目を細めた。
「迎え撃つしかないってことか……」
翔馬はゆっくりと頷く。
「……ああ、準備しよう。
抹殺斗を……必ず倒す。」
三人の影が夕日に伸びる。
その影の先で——
新たな闘いの幕が静かに上がろうとしていた。




