第一章_3[魔王をも超越する魔を束ねる者、ユレシア]
「我、女神『ヴェルシズ』の名のもとに汝、『ユレシア=ニールベルカ』のスキルを解放する!!」
──「ユレシア=ニールベルカの固有スキル『魔束者:真が解放されました。」
「な……なんじゃと?!そ、そなたは……本当はどなた様なのですかな……?」
「わたしはぁ……ユレシアですっ!!まそくしゃ……?しん……?」
まさか、固有スキルが解放される際、それが周囲にも聞こえる程の大きさの声で、天の声的な自動アナウンスがされるとは、俺も思ってもみなかった。
見た目だけで言えば、今年で六歳になるハーフダークエルフの女児である為、俺はすっとぼけてみせたが、確かに『魔束者・真』と聞こえた。
固有スキルの『魔束者』とは、その名の通りで『魔を束ねる者』であり、当代の魔王が有していると、去年より彼女を調べ始めた俺は知っている。
この世界で、スキルの後に『偽』、『極』、『真』とつくものがある。
まず、『偽』はいわばジェネリックで、ほぼ同等の効果を発揮するが、使用後のデメリットが大きく、スキルの後につく確率もそれなりに多い。
『極』については、元々のスキルの限界突破、上限突破された効果を得られるが、使用者の負担も通常よりも増えるが、そもそもつく確率は極少だ。
そして、『真』についてなのだが、天文学的確率でしかつくことはなく、現在までに確認されているスキルについても、効果までは文献に記載がない。
そんな伝説級スキルを、俺はあろう事か……当代の魔王が有する『魔束者』の最上位互換を、固有スキルとして与えられ、転生してきたことになる。
それより、先程まで俺に対し酷い態度を取り続けていた大人たちは、『スキル解放の洗礼式』どころではない様子で、何やら話し合いを始めている。
「おい……!!どうすればいいんだ?!あの子のひと言で、魔王の軍勢が来てしまうんだぞ……?」
「これまでの非礼、詫びるしかないだろう!!」
「災厄を招く存在は、この村から出てって貰えばいい!!」
「な、何て不敬な事言っておるんじゃ!!あ、あの方こそ、魔王など足元にも及ばぬ……女神『ヴェルシズ』にお近い……尊き存在なのじゃ!!」
先程、俺のスキル解放を行った後、態度を改めた神官のご老人の言うことが正しいとすれば、魔王を足元に平伏させる事など容易ということだ。
今の俺を分かりやすく表現すれば、ファンタジー作品でよくある、満身創痍でボスを倒した後に、悠然と現れ絶望を与えるラスボス的な感じだろう。
「ユレシア様、万歳!!」
「我が君、ユレシア万歳!!」
よく考えれば、この村にはオーガやオーク、ゴブリンなど、元々は魔王の支配地域の者たちも多く暮らしている為、このままでは収拾がつかなくなる。
徐々に『魔束者:真』の効果により、今まで迫害を恐れるあまり抑え込んでいた、本音や感情が解放され、魔王を超越した存在の俺を推し始める。
そうなれば、村の意見は真っ二つに分かれることとなり、最初は些細ないざこざから、抗争なども起き始め、やがては崩壊の一途を辿ることになる。
「ゆ、ユレシア……。お、おれは……ユレシアがすきだ!!」
「ベルカ、いつもぉ……そういってくれて、ありがとうねっ?」
「お、おれは……ほんきだぞ!!ユレシアと……けっこんしたいんだ!!」
「わたしのことぉ、ベルカこわくないのぉ?」
さっきから俺は、ずっと考えていたのだが、この事態を収拾するのに一番被害が少ない手段は、いくら思いを巡らせても、一つしか見当たらなかった。
本来であれば、こんな六歳程度の女児が思いつくはずないのだが、固有スキルの解放を根拠として、急成長を遂げたとでも言えば通ると俺は判断した。
そして、話し合いがもつれ始め、不穏な空気が流れ始めた大人たちが集まっている所へと、ゆっくりと近づいていった俺は、一人その前に立った。
─_─_─_─_
「かあさま、ごめんなさいっ……。わたしのせいでぇ……。」
「もぉーっ!!ユレシアったらぁー!!母の可愛い娘なんだからねぇー?そんなことはぁ、全然気にしなくても良いのっ!!」
「だってぇ……かあさまのぉ、おみせがぁ……。」
少し前、俺は『スキル解放の洗礼式』の広場で、話し合いの最中揉め始めた大人たちに向かい、『わたし、こんやむらをでてくんで!!』と叫んだ。
すると、六歳程度の俺の言葉に対しても、村の大人たちの意見は割れに割れたが、意思を尊重する派、居て欲しい派、排除したい派に落ち着いた。
既に神官たちや、魔王の支配地域出身の大人たちは、俺のことを神格化しており、意思は尊重したいが、村の平和のために居て欲しいと、言っていた。
ただ、三つの派閥の中で、以前よりハーフダークエルフを一掃したいと豪語する、村の有力者が属した排除したい派の声が大きく、決まってしまった。
そういった、保守的な考えも決して悪いという訳ではないが、そのせいで失うものが色々とあることを、決めた者たちは覚悟しなければならない。
自分から切り出したことだが、フィリシアさんに相談もしないまま、決定してしまったことに俺は失意の中、広場から店舗兼自宅に向かい歩き始めた。
すると、先程から俺のことを崇めたり、推していた大人たちが、同じく後に続くように歩き始めたのだが、それは店舗兼自宅に着くまで続いた。
「ユレシア様!!これは……我々からの、心からの気持ちになります!!何卒……黙ってお納めいただければと……!!」
「はぁいっ……。」
「えっ!?ユレシア?!」
「うぅんっ……?かあさま、だぁめっ!!」
この件については、フィリシアさんには悪いが、これは俺宛に大人たちの気持ちが込められた、今までの贖罪とも……餞別とも呼べるようなものだ。
それを無碍に断るというのは、目の前にいる大人たちが其々どんな思いで、気持ちだと言って出してくれてるかも分からないのに、失礼にあたる。
「いつかぁ、わたしとかあさまにぃ、みんなあいにきてぇ?」
「はいっ!!ユレシア様、母君のフィリシア様、お二人のご武運とご健勝を、我々はお祈りいたしております!!いつの日か、また……お二人にお会いできること、心より願っております!!」
「はいっ!!」
気付けば、俺のフィリシアさんへの申し訳ない気持ちは、どこかに吹き飛んでしまっていたが、『全然気にしなくて良いの』と言われた気もする。そんなことを俺は考えながら、広場から自分について来た、大人たち一人一人と握手などを交わしていたのだが、その最後尾にベルカの姿を見つけた。
暫く経つと列は消え、大人たちは名残惜しそうにしながらも、我が家の前を後にし始めたのだが、ベルカはなかなか俺の前へと来ようとしなかった。
「うにゅぅ?」
「ベルカぁ……?」
得意の可愛さアピールした後で、ベルカの名前を呼んで手招きしてみたが、ジッとこちらを見たまま立ったまま動かない。この場合、自分の意中だった女子が、突然村から居なくなってしまうと聞いて、ショックを受けない方が異常だろう。だから、ベルカの反応はごく自然と言うか、俺のことを本当に想っていてくれたのだろう。
前世で約四十五年生きた俺だが、恋愛経験などゲームでの擬似的なものや、TVや映画などを見ての追体験くらいしかしていない、レベル0だった。
なので、この世界ではベルカが……知らぬうちに、俺の恋愛経験のレベリングをしてくれていた事になる。
「お、おれ!!ぜったい、ユレシアをさがす!!」
「うんっ!!ならぁ、ベルカがねぇ……?わたしをさがせたらぁ……つきあってもいいよぉ?」
「ほ、ほんとうか?!ぜったい、おれ……ユレシアをさがすから!!いつになるか……わからないけどな?」
「せいじんするまでぇ、わたしぃ……ベルカまってるからぁ!!そのあとはぁ……わたし、すきにするねぇ?」
別にベルカのことは嫌いではないし、六歳程度の男児がここまで、俺を想って言ってくれるのであれば、こちらも筋を通そうとつい約束してしまった。まぁ、これで、俺の初体験は最長で成人を迎えるまでお預けというか、それまで猶予が出来て少しホッとしている。
この世界はかなり広いと聞いているので、恐らくだが……俺たちのことをベルカが探せる確率は、かなり低いと思っている。




