第一章_2[スキル解放の洗礼式の朝]
今朝はなんだかいつもよりも、俺たち母娘が細々と暮らしている村が、活気だっている気がする。
それもそのはずで、今日は今年で六歳になる子供を対象に、村の広場にて『スキル解放の洗礼式』が、執り行われることになっていた。
この世界では、一人一つ固有スキルを授かって生まれるのだが、スキル解放の洗礼を受けるまでは、何のスキルなのかは、誰にも分からない仕組みだ。
ただ、生まれ持った属性は誕生時に判明する為、それに関連するスキルや魔法などは、六歳以下でも習得する事が理論上は可能だ。
俺みたいに前世の記憶を持ったままなら、習得するのも容易い筈なのだが、結構なお金が必要な為、ようやく極貧から抜け出せた位の家計では難しい。
今日の洗礼式は、村に住む今年で六歳になる子供であれば、誰でも参加できるという話を聞いており、実際俺の家にも招集案内がきている。
言い忘れていたのだが、俺も今年で六歳になる。去年の五歳目前から今日に至るまで俺は、フィリシアさんが騙されたりしないよう、まだ五歳児である事を念頭に置き、遠回しに言葉を入れ見守った。
徐々にではあるが、俺の陰ながらの努力の成果が、出てきたような気配はある……と思いたい。
洗礼式を受けた子供は、固有スキルが解放されるため、それが能動スキルにせよ受動スキルにせよ、その効果の恩恵を受ける事が可能になる。その為、ただの子供ではなく、成人した大人たちに混じって、ある程度の発言権を持つ事になる。
だから、俺はこの日が来るのを首を長くしながら、待ち侘びていたのだ。ようやく俺も、フィリシアさんに対して、ダメなことはダメだと、ヤバいことはヤバいと、回りくどい言い方をしなくて済むようにれなるのだ。
「ユレシアちゃーん!!」
「はぁい?」
──ガシッ……!!
「へっ……!?」
「あいつはいいから……ユレシア、いこうぜ?」
「えぇ……?!それはぁ、ダメだよぉ……。」
村の大人たちにとって俺は、魔王と特徴が似たハーフダークエルフの為、忌み嫌われる存在だったのだが、同い歳の子供たちには関係なかったようだ。
最初に俺の名を呼んだのは、母親が村で宿屋兼食事酒場を営む人間の女の子、ミュレナ・リーレンドだった。彼女も母子家庭なのだが、俺の家とは違って母親目当ての客が非常に多く、繁盛していて生活に困っている様子など微塵も感じられない。
家庭事情は似ているが、生活レベルが全く違う俺とミュレナが友達となったのは、去年の俺の五歳の誕生日だった。あの日、誕生日と言えどご馳走など買える余裕もない我が家では、普段通り森へとフィリシアさんと狩りに出掛け、無事獲物を捕らえ帰宅した。
そして、店舗兼自宅の裏庭で、獲物をフィリシアさんが解体していた際、俺が店番している店の方へとミュレナが訪ねてきたのだ。
それまで周囲の大人たちに、ハーフダークエルフの俺について、有る事無い事吹き込まれたミュレナだったが、目が合った瞬間それが氷解したようだ。
そんなわけで、『ユレシアちゃん、すき!!おともだち、なって!!」などという、ミュレナからの俺への告白にもとれる第一声から、始まったのだ。
その日から、ミュレナは周囲の大人の言葉はガン無視するようになり、今では俺の家まで遊びに来てくれるようになっている。
「あー!!てをにぎっちゃ、ダメーっ!!」
──ギュゥッ……!!
「ユレシアは……お、おれのもんだからな!!」
さっきから俺の手を掴んだり、握ったりしてきているのは、村で両親が魔武具屋を営んでいるハーフエルフの男の子で、ベルカ=アルスティーンだ。
コイツの父親はオーガなのだが、鍛治師としての腕前は名工の為、討伐対象から外されている。そして、母親がハイエルフでフィリシアさんとは同郷だった事で、この村に俺たち母娘が住ませてもらってるのも、彼女のおかげだった。
そんな背景もあり、コイツの方が数ヶ月早く生まれている為、俺が生まれて間もない頃からの付き合いなのだ。そして、俺に対する独占欲が非常に強く、『ユレシアとけっこんする』だの『ユレシアはおれのもの』だの、近づく者全てに言って牽制するのだ。
別に、母親同士でそんな話を結んでる訳ではないようで、コイツが勝手に言っているだけらしいが、忌み嫌われている俺の事など、大人は興味がない。
「ねぇ……ベルカ?ミュレナちゃんとぉ、なかよくしてねぇ……?」
「ユレシアがそういうなら……しかたないな!!」
「よかったぁ……。ベルカ、やさしいもんねっ?」
「お、おい……!!おれは、あいつのためにはしてないぞ!!ユレシアのために……しただけだからな?」
とりあえず、俺には友達と呼べる同世代の子供は、コイツとミュレナしかいない。例えそれが、俺への淡い慕情からくるものだとしても、いざという時に、自分を慕ってくれている相手がいれば、頼れる可能性があるので大事なのだ。
他の子供たちは、周囲の大人の言葉を鵜呑みにして、俺に近づいて来ようともしない。それは、コイツとミュレナが俺と一緒にいる時も同様で、二人とも他の子供たちを誘うことはせず、割り切っている感じにも見える。
「ミュレナちゃんっ!!てぇ……つなごぉ?」
──パシッ……!!
「あんたがユレシアちゃんのて、にぎってるのきにくわないけど……わたし、ゆるしてあげるわ!!」
「おれだって……きにくわないが、すべてはユレシアのためだからな!!」
「はぁ……。ふたりともぉ、なかよくしようよぉ……?」
六歳程度の子供の茶番劇を、同じ目線に立って俺は温かく見守りながら歩いていたら、村の広場まで辿り着いてしまっていた。もう既に『スキル解放の洗礼式』の準備は出来ている様子で、訪れた子供たちをある程度のグループ毎、執り行う流れのようだ。
「まだ、できないんですかー?」
「おぉ!!これは、ミュレナちゃんじゃないか!!それに、ひぃっ……?!フィリシアさんとこの……えっと、」
「おっさん!!このこは、ユレシア!!」
「あぁ、ユレシアちゃん……ね。それと、ベルカ。もう準備は出来てる、それに……その子がここに居座られると困るからな?一番手って事で、ミュレナちゃんたち三人、済ませてしまおうか?」
招集案内は来ているものの、いざ式を受けようとしたら、門前払いされるのは俺の中では覚悟していた。実際には、そんなことはなさそうで、多分『スキル解放の洗礼式』はこの世界の決まり事になっていて、誰にも受ける権利があるのだろう。
「おい!!ユレシアにむかって、そんないいかたないだろ!!」
「ベルカ?ありがとう。もうっ……いいからぁ、はやくうけちゃおうよぉ?」
「おう、わかった!!じゃあ、うけてこようぜ?」
まるで借りてきた猫のように、ミュレナはコイツのように俺を庇うこともせず、会場にいた大人たちの前で、良い子アピールしているように見えた。母親の営む食事酒場の常連なのだろうか、何かしらの配慮をしているようにも見えたが、正直ミュレナの行動には俺はガッカリしてしまった。
「まずは、ユレシアからだ!!早くこっちに来なさい!!」
──グイイイイッ……!!
「きゃあっ!!」
「ユレシア!!」
──バタンッ……!!
祭壇の前へと立たせるためとはいえ、明らかに悪意のこもった大人の手が伸び、強引に俺の手を思い切り引っ張ってきたのだ。
しかも、引っ張るだけ引っ張ったところで、急に手を離された事で、祭壇の前で俺は思い切り転んでしまった。
「ゆ、ユレシア?だいじょうぶか?!けがしてないか……?」
「いっ……いたたぁ……。ベルカ、ありがとうねぇ?わたし、だいじょうぶだからぁ……。」
「おい!!おっさん!!ユレシアにあやまれ!!」
一番に俺のところに飛んできたのは……自分の中ではコイツ呼ばわりしていた、ベルカだった。まだ六歳程なのに、こんな男気溢れる姿見せられたら、俺も少しだけだが……ベルカを認めざるを得ないだろう。




