第一章_1[ハーフダークエルフ、ユレシア]
謎の美女からの二択で、『美女に育つが娼婦に堕ちる程極貧』を敢えて選んだ、極道だった俺だが、異世界転生して五年の歳月が過ぎようとしていた。
今や俺も、畑松淳士などという名の極道ではなく、来月五歳の誕生日を迎える、ユレシア=ニールベルカという名のハーフダークエルフの美少女だ。
転生する際、『娼婦に堕ちる程極貧』などと、謎の美女に言われたものの、前世で極道生活が長かったせいか、実際それ程でもなく拍子抜けしている。
まぁ、順風満帆な人生だった人間からすれば、相当キツいのだろうが、前世の俺は児童養護施設育ちで、スタートからハードモードだった経験がある。
そもそも、何故俺が前世の記憶や意識を持ったまま、転生出来たのか神様の意図は不明だが、昔取った杵柄ではないが、母親の為に役立てるつもりだ。
そういえば、俺の種族はハーフダークエルフなのだが、母親はハイエルフという高貴な上位の種族の為、親娘なのに肌の色が全く違っていて面白い。
因みに、俺の家庭環境について説明しておくと、母親が小さな薬屋を営んでいる母子家庭故、収入は厳しく極貧生活ながら、二人で健気に生きている。
そんな俺の母親は、面倒見が良くてお人好しで、他人をすぐ信用してしまう為、騙されることが非常に多く、最近まで損ばかりしてきたようだ。
まぁ、それが母親の良いところでもあるので、別に俺はそれを咎めたりはしていない。そもそも、人の優しさにつけこむ奴が悪いのだが、悠長にそんな事も言ってはいられない台所事情なので、極道だった俺が母親を導いていくしかない。
このままの状態で打ち手もなくいけば、俺が謎の美女に言われた『美女に育つが娼婦に堕ちる』が、現実のものとなり、親娘共々人生終了となるのだ。
一度堕ちてしまえば、這い上がることは難しく、仮に元の生活に戻れたとしても、過去を知る者たちに脅され利用され、元に戻るのを俺はよく見た。
だからこそ、前世では孤児だった俺にとって、この世界に転生して初めて触れた母親には、そんな目には遭わせたくはない。
幸いなことに、我が家は借金こそないものの、日々の暮らしは極貧そのもので、店などで食料を買った記憶はなく、森や川へと狩りに行き賄っている。
元来、エルフ自体が自然に囲まれて暮らす民である為、元来狩猟などには長けており、母親曰く今の暮らしは苦ではないと、よく俺に言っている。
ただ、俺の母親はハイエルフである為、どちらかといえば居城や神殿などでの、近代的な暮らしをしてきている種族のはずだ。恐らくは、愛娘である俺に極貧生活をさせてしまっているという、負い目を母親は感じていての発言なのだろう。
「ユレシア……?」
「なあにぃ?フィリシアかあさまぁ?」
「良かったぁ……。急に……ユレシア、動かなくなっちゃったからぁ……。」
「うにゅぅ?」
前世での極道時代の俺を知る人間なら、こんな可愛い声で母親との会話を聞いたら、唖然として声も出ないだろう。
だが、この世界で前世の俺を知る者など居るはずがない為、一人のハーフダークエルフの美少女、ユレシアとしての人生を、楽しむ事に決めたのだ。
なので、俺ことユレシアはまだ四歳児なので、可愛い声などを出したりすることもあるし、母親のフィリシアさんに甘えたりもする。
前世では与えられなかったものが、この世界では極貧生活ながらも、確かに俺の目の前には存在するのだ。それが、俺にとってはどんなに幸せな事か、順風満帆に生きてきた人間には理解出来ないだろう。
「もぉー?また可愛い子アピールしちゃってぇ……。」
「うにゃぁ?」
「はい、はいっ……ユレシアは可愛いですよー?」
「ぶうぅっ!!フィリシアかあさまのほうが、びじんさんですぅっ!!」
言っていなかったと思うが、フィリシアさんを『美人』という一言だけで片付けるのは勿体無い程、長身の上にメリハリボディで容姿端麗な美女だ。
こんな美人さんを放っておくのが、この世界の怖いところで、ハーフダークエルフである娘の俺を連れていることが、大きな要因となっているらしい。
言わば俺は、絶世の美人とも呼べるフィリシアさんに寄って来ようとする、害虫たちの忌避剤となっているのだが、それは良くもあり悪くもある。
どうしてハーフダークエルフの娘がいるとダメなのか……それは、この異世界の何処かにいる当代の魔王が、俺と同じ組み合わせの混血で女性なのだ。
この世界では、種族分布的に言えば多い順に、人間、オーク、エルフ、ゴブリン、ドワーフとなっており、その中での組み合わせの混血は多種多様だ。
ハイヒュムと呼ばれる俗に言えば、賢人的な上位の人間も存在しており、同様にハイオーク、ハイエルフなど頭に『ハイ』がつく上位種も存在する。
そして、オーガという人間が堕落した種族で、前世の日本で俗に言う『鬼』や、エルフが変貌を遂げたダークエルフは、都市伝説レベルの存在なのだ。
ただでさえ、ダークエルフは都市伝説レベルなのに、その血を引く娘を連れている上位種のハイエルフなど、怖くて声が掛けられないのが実情だろう。
悪いことに、当代の魔王と俺が、父親はダークエルフ、母親がハイエルフという組み合わせで、更に肌や目、髪の色までも似ていると聞いている。
頑なにフィリシアさんが語ろうとしない、俺の父親についてだが、その家系が魔王と繋がっている可能性だってあり得るし、母親側だって同様だ。
ただ、この世界はどうなのかは不明なのだが、遺伝子の組み合わせで、偶然似たような外見をもって生まれただけで、遺伝的な繋がりはない事もある。
「もぉーっ……母を揶揄うんじゃありませんよー?」
「うにゅぅ?」
もしも、俺がフィリシアさんの娘などでなかったら、自身の性別などは関係なく、絶対……口説き落とせるまで、何回でも口説き続けていると思う。
前世では極道という立場上、浮いたことなど考えることをしなかった、そんな過去の俺でも思うくらいに、魅力的で心が澄んでいて可愛い女性なのだ。
「ふふっ……ユレシアのそういうところ、一体誰に似たんでしょうねぇ……。」
「うにゃぁ?」
俺と同じ目線まで屈んで微笑んでみせた、フィリシアさんの表情はいつも以上に優しいもので、まるで誰かを俺に重ねて想っているように見えた。思わず俺は、『とおさま?』と聞いてしまいそうになったが、咄嗟にお得意の可愛さアピールをして、気持ちを誤魔化すしかなかった。
「あぁ……でもですよー?いくらユレシアが可愛いからって、魔王みたいになっては困りますよー?」
「まおうさん!!わたし、あってみたいっ!!」
「こら、こらぁ……ユレシアは、魔王のこと怖くないのですかー?」
肌や目、髪の色が魔王に似ていると言われ、四歳児ながら周囲の大人たちから、忌み嫌われている俺だ。しかも、俺と同じ稀有なハーフダークエルフという事もあり、当代の魔王が在位の間に、一度くらいは会って話してみたいと思っている。
まぁ、片田舎で極貧生活を送る、ちっぽけな存在の俺のことなんて、当の魔王の耳には届いていないかもしれないが。
「まおうさんとわたし、ほんとうにそっくりぃ?」
「私も今の魔王の姿、見たことがないんですよ?」
「えぇっ!!フィリシアかあさま、だれにきいたのぉ?」
これは不可抗力というか、そういう話の流れだから仕方ないのだろうが、俺はフィリシアさんに喋っている最中に、誰から聞いたのか読めてまった。
「まだぁ……ユレシアには少し早いかもねー?」
「うにゅぅ?」
これまでも、俺の父親については、フィリシアさんもひた隠しにしてきていることを踏まえ、そういった事なのだろう。こういう時は、可愛さアピールして誤魔化すに限るのだ。




