第7話:共犯者(パートナー)
バクスたちを置き去りにして、俺たちは深層からの帰路についていた。
行きは荷物持ちを演じていたが、帰りは違う。
襲い来る魔物は、俺の【剛力】による一撃か、シルヴィアの影によって瞬殺される。俺たちはピクニックのような足取りで階層を戻っていた。
「……ふぅ。そろそろ限界か」
中層あたりまで戻ったところで、俺は立ち止まり、こめかみを押さえた。
ズキズキと脳が痛む。
バクスから奪ったユニークスキル【音速加速】。やはり、こいつは少し「クセ」が強すぎた。
「カナメ様、顔色が真っ青ですわ。そろそろ『排出』してしまいましょうか」
「ああ、頼む。オークの脂身とバクスのスパイスが混ざって、最悪の食い合わせだ。吐きそうだ」
俺たちは人気の少ない小部屋に入り、腰を下ろした。
シルヴィアが俺の胸に手を当てる。
「では、いただきますね。……んっ」
宿屋以来、二度目となる口づけ。
シルヴィアの唇が重なり、俺の体内から暴れ回るエネルギーが吸い出されていく。
相変わらず、脳の中身を直接撫でられるような奇妙な感覚だ。
「……ん……ふぅ……」
唇を離したシルヴィアが、恍惚とした表情で頬を染めた。
「凄い……。これがユニークスキルの味……。濃厚で、ピリピリして……最高です」
「味わってる場合か。とにかく。……ありがとう、だいぶ楽になった」
頭痛が引いていく。これで一安心だ。
そう思って立ち上がろうとした俺を、シルヴィアが制した。
「待ってください、カナメ様。……この『音速加速』と、さっき食べたオークの『剛力』。風味が似ていますわ」
「風味?」
「ええ。これなら、お腹の中で混ぜ合わせられるかもしれません。……試してみてもよろしいですか?」
シルヴィアが上目遣いで尋ねてくる。
――スキルの合成。
昨日の夜、宿屋で彼女から、スキルを合成が出来るという話を聞いてはいたが、試すのはこれが初めてだ。
「ああ、任せる。失敗しても文句は言わないさ」
「あら?ご安心くださいませ。別に材料にしたスキルがなくなるわけではございませんわ。スキルとは物体として存在しているわけではございませんから。概念と概念の融合でございます」
「なんだかよく分からないが、とにかく頼むよ」
「ふふっ、腕によりをかけますわね」
シルヴィアが両手を組むと、彼女の手の中で赤と青の光が混ざり合い、紫色のスパークを放ち始めた。
彼女の体内という「炉」を使って、二つの異なるスキルを融合させる。
暴食の眷属でも最上位の個体でしか出来ない芸当らしい。
俺が【万能強奪】して、シルヴィアが【融合】させる。
これこそが、彼女と俺だけの「共犯者」としての力。
「美味しくできましたわ、カナメ様」
シルヴィアの手のひらには、まるで宝石のように輝く光の球体が浮かんでいた。
さっきまでの荒々しい「生肉」のようなスキルとは違う。甘く、芳醇な香りが漂ってくるようだ。
「……あーん、してくださいますか?」
「おいおい、流石に一人で食べることくらいは出来るさ」
「いけませんっ!王子様のお口に私が運ぶことこそが、一番のスパイスですから」
俺は苦笑し、彼女に言われるがまま、その光を口に含んだ。
舌の上で転がした瞬間、溶けるように喉の奥へと滑り落ちていく。
――美味い。
バクスの薄汚い執念や、オークの獣臭さは綺麗サッパリ消え失せている。
あるのは純粋に濾過された、上質な魔力の旨味だけ。
これぞまさに、至高のフルコースだ。
「……軽いな」
さっきまでの、脳を万力で締め付けるような重圧がない。 俺が捕食った時よりも、強い魔力を感じる。
恐らくシルヴィアの魔力も合わさったことにより、スキル自体の威力は上がっているはずなのに、負荷は激減している。
「ええ。バクスの手癖といった『不純物』は、私がすべて消化しておきましたから」
シルヴィアがぺろりと唇を舐める。
「今のそれは、純粋な魔術式として圧縮・最適化された状態です。これなら、カナメ様の器を圧迫することもないでしょう?」
「なるほど……。ただ排出するだけじゃなく、『調理』もしてくれるってわけか」
奪ったままの「生のスキル」は不味くて重いが、シルヴィアを通せば「栄養」だけを美味しく摂取できる。それどころか、シルヴィアの魔力で元のスキルよりも栄養価を高めてくれる。
やはり彼女は、俺にとって欠かせない共犯者だ。
『――スキル合成完了。オリジナルスキル【音速の重砲】を獲得しました』
【音速の重砲】
効果:音速移動の運動エネルギーを、攻撃力へと一転換して叩き込む必殺の一撃。
「すげぇな……。これなら、ドラゴンの鱗だって素手でぶち抜けるぞ」
「ふふっ、私の愛の結晶ですもの。大切に使ってくださいね?」
最強の矛を手に入れた。
俺は拳を握りしめ、確かな手応えを感じていた。
◇
夕日が沈む頃、俺たちは【ルルデン】の冒険者組合に戻っていた。 ボロボロの服に、疲労困憊の表情。いかにも完璧な見た目だ。
俺たちはフラフラと受付カウンターへ向かった。
「あ、あれ? アンタたち……生きてたの?」
昨日Fランク認定をした女性職員が、幽霊でも見るような目で俺たちを見た。
「バクスさんのパーティと一緒にダンジョンへ行ったって聞いたけど……バクスさんたちは?」
「……うぅ……」
俺は拳を震わせ、涙声を作る。
「し、死にました……。深層で、魔物の巣に遭遇して……」
「えっ!?」
「バクスさんが……『俺が囮になるから、お前たちだけでも逃げろ!』って……最期まで立派に戦って……!」
俺の迫真の演技に、ギルド内が凍りついた。
数秒の静寂の後、爆発したような騒ぎが巻き起こる。
「おい嘘だろ!? あの『疾風』が全滅だって!?」
「深層で魔物の巣!? すぐにギルドマスターを呼べ!」
「騎士団にも連絡だ! Aランク冒険者たちが全滅するような魔物の巣だ!もしかしたらダンジョン外まで魔物が溢れてくるかもしれねぇぞ!」
ギルド中が蜂の巣をつついたような大騒ぎになる。
当然だ。街の最高戦力が消えたのだから。
受付嬢も顔面蒼白で立ち上がり、奥へ走ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってて! 今マスターを呼んでくるから、詳細な報告を……!」
「す、すみません……俺たち、もう怖くて……少し休ませてください……!」
「え? あ、ちょっ……!」
パニックで指示系統が麻痺している今がチャンスだ。
俺はシルヴィアの肩を抱き、混乱する冒険者たちの隙間を縫って出口へと急いだ。
誰も、Fランクの荷物持ちごときには構っていられない。
これで「完全犯罪」の成立だ。
◇
ギルドを出た頃には、すっかり日が落ちていた。
喧騒が遠ざかる。夜風が心地よい。
俺は大きく伸びをした。
「さて、と。これでこの街での用事は済んだな」
「ええ。バクスという大きな獲物も食べ尽くしましたし、そろそろ次の狩場へ?」
「ああ。騒ぎが落ち着く前にずらかるぞ。この街のダンジョンじゃ、もう物足りない」
俺は夜空を見上げた。
手に入れたのは、最強への切符と、最高の相棒。
だが、これはまだ始まりに過ぎない。
この世界には、まだ見ぬ強力なスキルを持った勇者や、魔王軍が蔓延っている。
俺の視界に、月明かりに照らされたシルヴィアのステータスが映る。
その【強奪可能】の欄には、まだ『???』と表示されている部分が多い。
俺が彼女のすべてを知り、彼女を満たせるほどの主になるには、まだまだ力が足りない。
「行くぞ、シルヴィア。世界中の理不尽を、俺たちで食い尽くす旅だ」
「はい。どこまでもお供しますわ――私の最強の王子様」
俺たちは並んで歩き出す。
二人の影が、月明かりの下で一つに重なっていた。
(『第一章 異世界転生者と神話の暴食姫』 完 )
【第一章 完結!】
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
明日からは毎日投稿になります!
第二章からは、いよいよ「最強の家族」の結成に向けて物語が加速します。
「ケモ耳の娘」や「口の悪い妖刀少女」など、魅力的な新キャラクターも続々登場しますので、絶対にお見逃しなく!
最後に、作者からのお願いです。
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