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第24話:妖刀・刹那


 妖刀はまるで自分の手足のように手に馴染んだ。

 その妖刀から出てきた美少女・刹那は、俺の背後につくように浮かんでいた。



「……チッ。得物が増えたところで、FランクはFランクだ」



 ガランドが舌打ちし、再び構えを取った。

 武器は持っていない。だが、その両手には、どんな名剣よりも凶悪な「死」が宿っている。



「得物を頼りにした素人が、俺に勝てると思うなよ」



 フッ。


 ガランドの姿が()()()

 先ほどから使っているガランドの技。恐らく、認識を阻害する特殊な歩法で、俺の視界から完全に消失する。


 不味い。


 さっき俺の内臓を潰した動きだ。目で追っていては間に合わない。


 だが。



「――ボサッとするな、ウスノロ!」



 グイッ!!



「ぐえっ!?」



 俺の襟首(えりくび)が、背後から強引に引っ張られた。

 刹那だ。彼女が俺の首根っこを掴み、無理やり身体を真横へとスライドさせたのだ。


 その直後、鼻先数センチを、ガランドの(こぶし)が通過していく。

 風圧だけで皮膚が切れるほどの鋭さ。もし刹那が引っ張っていなければ、今頃俺の顔面はトマトのように潰れていただろう。



「あ、危ねぇ……! おい、首! 首が締まってる!」



「黙れ! 貴様がトロいのが悪いのであろうが!」



 刹那は俺の背中にぴたりと張り付き、耳元で怒鳴り散らす。



「よいか小僧! わらわの操縦(ハンドリング)に身を任せろ! 下手に抵抗したら舌を噛むか、頭をぶち抜かれるかで死ぬぞ!」



「チッ、好きにしろよ!」



 俺は全身の力を抜く。

 直後、俺の身体は俺のものではなくなった。



「右じゃ! 45度、払い上げろ!」



 刹那が俺の右腕を、見えない糸で操るように強引に引き上げる。

 俺の意思とは関係なく、筋肉が駆動し、妖刀が正確無比な軌道を描いて跳ね上がった。


 キィィィンッ!!


 硬質な金属音が響き、火花が散る。

 何もない空間を切り上げたはずの刃が、不可視の速度で追撃を仕掛けていたガランドの小手(こて)(はじ)いていた。



「左下じゃ!!薙ぎ払え!!」



 再び俺の意思とは関係なく体が動く。


 キィィィンッ!!


 自分の体なのに、完全に刹那に制御されていた。

 更にそこから、五度、弾く。



「な……ッ!?」



 ガランドが驚愕きょうがくに目を見開き、バックステップで距離を取る。

 彼には、俺が「見えない拳」を完璧に見切って防いだように見えたはずだ。



「見えているのか……? いや、ただのFランクに俺の動きが見切れるはずがない……」



「俺には見えてないさ。でも、俺の『背後霊』にはお見通しらしいぜ?」



 俺は肩をすくめ、背中の刹那を親指で指した。

 すると刹那は、すかさず俺の後頭部を(はた)いた。



「誰が背後霊じゃ」



 冷や汗を流すガランド。

 無理もない。彼の動きは完璧だった。

 俺自身、なぜ俺が生きているのかも、分かっていないのだから。



「それよりも、その剣技はなんだ? Fランクの分際で勇者様みてぇな剣技じゃねーか。あまりにも洗練されすぎている。達人の域を超えているぞ……」



「さぁな。それも俺の『背後霊』に聞いてくれ」



 刹那の切れ長の瞳が、ガランドを値踏みするように細められた。

 彼女はペロリと唇を舐める。



「……それにしても、あの男。……熟成された、なかなかいい技術(シノギ)を持っておるのう。特にあの『防御無視』の拳……あれは美味じゃ。小僧、メインディッシュはあれにするぞ」



「了解だ。……じゃあ、いただきますとするか」



 俺は地面を蹴った。

 【音速加速(ソニックアクセル)】全開。

 刹那が俺の髪を(つか)み、手綱(たづな)のように操る。



「ヒャハハハッ! もっと飛ばさんか小僧ォ! 乗り心地が悪いぞ!」



「髪を引っ張るな! 禿()げるだろ!!」



 俺たちは騒ぎながら、弾丸のようにガランドへ肉薄(にくはく)する。



「ふざけやがってッ! ()めるなァァァッ!」



 ガランドが激昂(げきこう)し、迎撃の構えを取る。

 両手の拳に、ドス黒い殺気と魔力を集中させる。最強のカウンターを合わせるつもりだ。



「――これで終わりだ! 奥義『浸透勁・螺旋(しんとうけい・らせん)』ッ!」



 ガランドの腕が(ねじ)れ、ドリルのような回転を伴った拳が繰り出される。

 シルヴィアに放った技。いや、それよりも回転が鋭くキレがある。恐らく、触れれば全身が雑巾のようにねじ切られる、ガード不能の即死技。


 ――だが、刹那は笑った。

 楽しそうに、獰猛(どうもう)に、口元を三日月のように(ゆが)めて。



「カッカッ! 上等じゃ! ――褒美(ほうび)に、わらわが直々に『つまみ食い』してやる!!」



 俺は回避も防御も捨て、ガランドの拳に向かって、真っ向から突っ込んだ。

 自殺行為に見える突撃。



「死ねぇぇぇッ!」



 ガランドの拳が俺の胸に迫る。

 その瞬間。


 俺の背後から、刹那が身を乗り出した。

 そして彼女は人間離れした大きさまで、その(つや)やかな口をガパリと開けた。



「――『魔技喰らい(アーツ・イーター)』」



 ガブゥッ!!


 空間ごと()(くだ)くような、生々しい音が響いた。



「な……!?」



 ガランドの腕から、「何か」が消失した。

 腕そのものはある。魔力も残っている。だが、ガランドの拳に(まと)わりついていた「必殺の威力」と、それを成すための「技術の概念」そのものを、刹那が食い千切ったのだ。


 ペチッ。


 ガランドの掌底が、俺の胸に当たる。

 だが――衝撃(しょうげき)はなかった。

 ただの老人の、か弱い張り手。回転も、浸透する力も、すべてが消え失せていた。



「……え?」



 ガランドが呆然(ぼうぜん)と自分の手を見る。彼が数十年かけて磨き上げてきた「武術の(ことわり)」が、ごっそりと脳と体から消え失せていた。

 今の彼は、ただの腕力自慢の老人だ。



「俺の……浸透勁が……!? 身体が、技を覚えていない……!? なんだ、何をしたぁぁぁッ!!」



「数十年練り上げられた鋼のような硬さと、喉を焼くような老酒の辛み……! 噛み砕くたびに、達人の技量(うまみ)が脳髄に染み渡る!」



 刹那が口をもごもごと動かし、ゴクリと何かを飲み込んだ。

 そして、俺の耳元で盛大なゲップをした。



「……ゲフッ。さっきのゲテモノの口直しには丁度いいわ!」



「汚いな。お前、レディとしてどうなんだそれは……」



「やかましい! 戦闘(カチコミ)の最中じゃ!」



 俺たちは軽口を叩き合いながら、絶望に顔を歪めるガランドを見下ろした。

 武人にとって、腕を切り落とされるよりも残酷な結末。

 積み上げた全てを「食事」として消費される屈辱。



「な、なんなんだお前らは……! 化け物かッ!!」



 最大の武器を失ったガランドが、半狂乱になって殴りかかってくる。

 先ほどの達人のような動きとは打って変わり、素人のようなテレフォンパンチだ。



「悪いな。この背後霊がお前の技術(スキル)を食っちまったみたいだ」



 俺は冷酷(れいこく)に告げ、妖刀を横に()いだ。



「――ご馳走様(ちそうさま)



 黒い閃光(せんこう)が走り、ガランドの首が宙を舞った。

 血飛沫(ちしぶき)が舞う中、元Sランク冒険者の胴体が、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


 決着だ。



「ふぅ、食った食った。……で、次はどいつじゃ? まだデザートが入るぞ?」



 刹那が満足そうに着物の(そで)で口元を(ぬぐ)う。

 俺は刀を振って血を払い、視線を転じた。


 そこには、結界から出たシルヴィアと、怯えるルナ、そして魔族マルバスの姿があった。




VSガランド決着!!

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