001
僕の高校時代について語らせてもらう。
それは悲報でもあり、悲痛でもあり、悲愁でもある。
いたって普通の高校生だった。
思い出だって女子と手をつないだり、一緒に家まで帰ったくらいである。
青春なんて瞬きのようなものだ。
そんな僕が一人の女性に魅入られるようになるまでのお話だ。
将来、成功者になると確信していた。
なぜなら僕は常に一人でいるからだ。
選んで一人になっているということでもある。
六月、梅雨の時期。
お気に入りの西尾維新先生の本を読む。
本を読んでいるからといって、将来のことは考えてはいなかった。
なぜなら、誰かが僕を見いだして成功するか、専業主夫になると考えていたからだ。
顔はいいと自覚している。
まあ、東大の女性が狙い目だな。
そんなくずみたいな空想をしていた。
商業高校なのでみんなが将来を決めていく。
僕だけはそんなことにはおかまいなしだった。
だから目をつけられたんだとおもう。
コミュ力はそこそこあった。
三年間片思いしていた子に手を握られたからだ。
このまま結婚していいなと思った。
この高校を出ているからお互い将来は貧乏になるんだな。
それも悪くない。
簿記の点数が三十点だった。
二級なんてそんなもんだろ。
まあそんなことは置いておいて、食事の時間だ。
モンストのログインと、毎日五百円という超貧乏生活をしている俺だ。
菓子パンと野菜ジュースと相場が決まっている。
好きだった子は、頭は良くて日商の簿記検定を受けると言っていた。
入る就職先がその検定を取らないといけないらしい。
その子は将来のことをよく考えていた。
俺にはどうでも良くなっていた。
将来はひもになると言ったからだ。
その気になっている子が、俺のために強い女性になるとその友達の男と話していた。
男はあいつだけはやめておけ、依存がなんになると言っていた。
うむ概ね合っている。
そんな日が続いて。
俺は衝撃的な出会いをしたのだった。
彼女は可憐であり、完璧であり、突然であった。
どうやって出会ったのか。
それは登下校中である。
「君はパン派か」
突如現れたのであった。
こんな出会い方間違っていた。
「見つけたところだ。ああ“どうと”でもなる男だ」
彼女は通信機のようなものを持っていない。
いったい誰としゃべっているんだ。
どうと……
なにを言っているんだ。
「すまないが君に頼みたいことがある」
突如目の前に立って……
いきなり彼女は僕の胸ぐらをつかんだ。
そして――
「Hallo World」
何を言っているのかわからないと思うが、突然と世界が変わったような気がした。
時空と言って良いものか。
何か決定的なものが欠落したようなそんな感覚。
現実感か。
それが薄れていくのを感じた。
すると目の前には、美熟女が立っていた。
「ようこそ世界の裏側へ」
なにを言っているのか。
たしかにここは。
ってあれ、いつもの四十分かかる登校路はどうなったんだ。
いや確かにある。
曖昧だが、たしかにそこは登校路だった。
「疑問は」
「ふだんライトノベルを読んでいるのでないです」
「さすがはどうとでもなるな、吸収が早い」
「統合失調症になったかと」
「ふざける余裕も出てきたらしい」
おいと誰かを呼んだ。
すると地面からぬるりと顔なしの男たちが出てきた。
彼女の方にお辞儀をするとこちらを見た。
「SSSレートの男がこんな感じとは……」
なにそれ、切れそうなんだけど。
まあいいか、それからなにも言ってこないし。
「こんな感じの男ですが、この状況ビビってますよ」
僕はそう言った。
「紹介を遅れてすまない、私の名前…… この場合コードネームと言ったらいいな。ショウコだ、よろしく」
「ショウコさんの配下です」
一人の男?がそう言った。
「八咫烏の命によって参上した。君をこのファルス世界の王になってもらう」
どういうことだ。
俺が王になる?
いくら吸収が早くてもこんなことはお断りですよ。
「王ですかまあ僕みたいな人間がトップに立てますかね」
「私の見込みが甘いとでも言うのかね」
「でも、いきなりこんなへんな世界に連れてこられてね」
「さっそくだが、トゥーザーの登場だ」
「なんだって、総員戦闘配備」
「そんなものはない」
「王ってからには配下が必要でしょ」
「初戦で訓練もなしに戦って勝利して、王ということをこの世界に知らせるんだよ」
「ショウコさんもそうやって?」
「私は自ら集めた」
「僕も集めさせろぉおおおお」
トゥーザーが水面上から豪快に現れた。
人型でもあり、人型でもなかったりする箇所があるが、いいやあれは間違いなく人型だ。
そして中世の鎧をまとっておりスライムのような、箇所が至る所にある。
スライム鎧といったモンスターの名前をしていそうな怪物。
手には剣、そしてその大きさに驚いた。
「これが徳之島サイズか」
そしてショウコさんは捨て台詞をはいて消えた。
「んな無責任な」
武器もなにも持ってない。
どうやって戦えというんだ。
――。
そうだ旅のはじめは棍棒って相場が決まってるじゃないか。
トゥーザーはまだこちらに向かってきてない。
さっそく木の枝を。
いやまてよ、あんなサイズ――
――どうやって倒すねん。
斬撃。
線を交わす。
その一撃は、天へと突いてしまった。
その一瞬、時空は割れた。
ゴオと音がなる。
まるでラッパのようだとショウコさんは言っている。
こんな調子だと、、、
彼女は泣いていた。
それは……
「バ、バケモノメッ!!」
よくわからなかった。
彼女が泣いている理由も。
おおよそわかった。
それは、彼女が、その敵の彼女だったからだ。
そんな一撃を持ってして、俺は別世界の、人間として生きていく。
時を感じる。
その刹那、たまらず衝動が走る。
激情、葛藤、そして混沌。
すべてが入り混じった、すべての言葉が放たれる。
「ありがとう」
そうなんだ。
別れたかったのか。
視界が黒に染まっていく。
きずけば、病院にいた。
光が見える。
その状況は、果てしなく、先のような気がしていた。
どんな状況でも必ず助かると医者が言っている。
だれだ、俺は一人で暮らしていたのにも関わらず――
――ショウコさんがそばにいたのか。
彼女は泣いていた。
俺を見つめては泣いている。
医者は言う。
「もう、彼は死んでいます」
言うのだ。
敵に回しても彼女は言うのだ。
そんなすがた見たくないと医者に言っている。
ん?
俺の……
「……お母さん?」
白に包まれていく。
現実感がわからない。
そんな状況の中、誰にも見られていない俺だけの世界化も知れない。
「タスク、生きて、みんな救うのよ!!」
誰だこの顔。
その顔は、かなり老けていた。
そうか、昔のお母さん。
大丈夫だと笑顔を送る。
もういいんだ。
これでいいんだ。
何回もこんなことがあるかのように広がっていく。
そうだ。
いつもの夢だ。
そんな夢を見ていた。
長いのか短いのか、そんな悲しい夢を。
☆
白が見える。
今度は視界に入ってくる。
いい夢だ。
光がわかる。
ここは現実だと体が言っている。
ゆっくりと体を上げる。
すると、感覚が言っていた。
ここは死人のベットであると。
そんな状況の中――。
――言葉が聞こえる。
それも二重に。
「生きていたか」
ショウコさんだった。
ん? なんだか彼女についてわかったことがあった。
でも何かは思い出せない。
自分のそんな状況が浮かぶ。
大好きになった。
四十代の女性を。
「大丈夫です」
「状況を教える」
「はい」
「神祖を倒した」
「神祖?」
「この世界の理だ」
「へえ」
「そんなお前が新戦力……」
懐かしむように見ていた。
その瞼は明るい。
「いいんですか?」
「いいよ」
泣いていた。
孤独だったのに、自分を待っていた人がいた。
自分はだれにでも救われない人間だったとわかっていたからだ。
そんなことを何回も考えていた。
自分が嫌いで嫌いで仕方なかった。
うれしかった。
大好きになった。
「こんなオバサン」
「なんだあ、お前は!!」
神話のようなことを口走る。
病院の音が聞こえるくらいに、二人は静かになった。
となりからは、夢を見ているのかグググ言っている。
「何時ですか?」
「あれから二日後だ」
「ことわりってなんですか」
「キマリのようなものだ」
「へえ、大好きですそんな展開」
「まあな、アンパンマンのようだ」
何かを見ている。
「通常と考えて、因果律魔力じゃない……」
眼鏡をはずす。
「メガネはかけておいてください」
「なぜだ?」
「かわいいからです」
「そうだな」
「うん」
曲が流れる。
病院じゃない、隣からだった。
誰かが取る。
トランペットの音だった。
「天国かもなお前の感じだと」
「そうですね」
「選ばれたということでもある」
「そうですね」
「私はうれしい」
夢を思い出す。
ちょっとだけど。
「現実は私たちは神社のものだ、親せきに神事にかかわる人物はいるか?」
「いないです」
「弱さはお前を変える」
手を伸ばす。
その手がどんなに暖かいか、考えた。
自分にはなかったものだ。
「教えてくれてありがとうございます」
「そうだな」
くちがこぼれる。
そんな状況のなか、一人歩いて行った。
ジュースを買うらしい。
でも何かが消えてしまったのかのような衝撃があった。
実感か…… 天国か……
こんな自分になってどんなに報われるのが嫌いなのかわかる。
大好きになってしまう自分自身がどれだけ愚かなのかわかる。
そんな世界だ。
うれしくもない。
どんなにそんな世界を歩いても待っているのは地獄だけだ。
でも、でも。
彼女のことを知りたい。
たとえ地獄に行ったと――
――しても。
天井を見る。
目を閉じる。
鼓動を感じる。
身を揺らしながらこんな現状をずっと味わっている。
いらないと昔の自分ならいらないと言っているそんな暖かな現状。
彼女。
うれしいのか、そんなものを味わっていいのか。
揺れる。
孤児とこの世界に生まれた。
必要な条件があった。
日常を謳歌して、他人とあるけるかそれだけを、政府と会話しながら生活する人生だった。
彼女にそばにいてと言ってもそれもできないのか。
夕立……
寒い。
春だ。
こんな季節だ。
他人を求めたくなるものだ。
『タスク、生きて!! あなたはみんなを救うのよ!!』
言葉がよみがえる。
じゃあ他人のそばにいて良いって意味なのか。
円がある。
じゃあ。
「起きながら寝ろ」
ジュースを頭にたたきつけられる。
横にはショウコさん。
「はい」
「今日はもう帰ろうかと思う」
「じゃあさよなら」
「TVは見たいか」
券を見せる。
「見たいです」
そうやって今日は終わった。
☆
病院からは貧血だと言われて帰ってきた。
状況を話すと、「よくわからないから週一で通え」と言われた。
世論人の顔をしている。
白髪の爺さんだ。
家のとなりの人だった。
テクテクと歩く。
ゆらゆらと揺れる人生だ。
ショウコさんはどうしているだろうか。
見透かしているような人間だ。
俺をだ。
そんな人まったくといない。
そんな人生の結末だ。
授業を過ごす。
何も変わらない。
裏の世界だとしても、何もだ。
大好きだそんな現実感がなくなった人生なんて。
歩く。
裏の世界も知っているかのように歩く。
無敵になってしまったような感じだ。
存在の証明をしているかのような過ごし方だった。
目の前の二人の女子が蹴りあっているのが見える。
あっちのほうがいい人生なのか!?
誰か教えてくれ!!
手書きです。