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その2(ランスロット視点)幸せの魔法

「ランスロット様、夕飯の支度が終わりましたよ!」


 扉の外からアリスの大声が聞こえた。返事をするよりも先に、扉を開けてアリスが室内へ入ってくる。


「一回休憩して、ご飯にしませんか?」


 満面の笑みで見つめられたら、断れるはずがない。

 俺はそっと絵筆を置いて立ち上がった。


 今描いているのは、結婚式の時のアリスの絵だ。

 記憶が薄れないうちに描いておきたくて、ここ最近はずっとこの絵を描いている。


 実は貴族たちに依頼された絵がかなりたまっていて、仕事以外の絵を描いている場合ではない。

 けれど、どうしてもあの日のアリスを肖像画にして残しておきたいのだ。


 最近はエリーでの販売だけでなく、絵の依頼を受け付けるようになった。

 ありがたいことに、かなりの注文を受けている。


「ああ」

「じゃあ、居間で待ってますから!」


 耳の上で二つに結ばれた髪を揺らし、アリスが部屋を出て行った。

 どたばたと階段を下りる足音が聞こえてきて、思わず笑ってしまう。


「相変わらず、騒々しい奴だな」


 伯爵夫人となり、アリスはパーティーやお茶会によく参加するようになった。

 貴族としてのマナーも着実に身に着けつつある。


 けれど、落ち着きはないままだ。俺にとっては、変わらないその部分がたまらなく愛おしい。





「見てください、ランスロット様! 今日の夕飯は、アリスもかなり手伝ったんです!」


 アリスが得意げな顔で胸を張る。

 その横で、ヴァレンティンが楽しそうに微笑んだ。


「そうです。アリスさんには、とても助けられましたよ」


 テーブルにおいてある夕飯はパンとステーキ、それから野菜がたっぷりと入ったスープだ。


「どれを手伝ったんだ?」

「これです。めちゃくちゃかき混ぜたんですから!」


 アリスがスープを指差した。

 おそらく、ヴァレンティンが具材を切り、調味料を加えて味を調えた後に、焦げつかないようひたすらかき混ぜていたのだろう。


 料理の技術はいらないが、時間のかかる大変な作業である。


「ほら、冷めないうちに食べてください! 私とヴァレンティンさんが協力して作ったんですから、絶対美味しいはずです!」

「味付けはヴァレンティンがやったんだろう?」


 わざと意地悪なことを口にしてしまう。頬を膨らませて拗ねるアリスが可愛いからだ。

 案の定、アリスはふくれっ面でそっぽを向いた。


「確かに味付けは私ですが、じっくり煮込んだことにより素材本来の旨味がよく出ているんです。

 間違いなくそれは、アリスさんのおかげですよ」


 ヴァレンティンが微笑みながらアリスのフォローをする。

 すると、ヴァレンティンさんの言う通りです、とアリスが勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


 本当に、アリスがきてから、ここは明るくなったな。


 初めてきた時はやかましいメイドがきたと思ったが、今はもうアリスがいない屋敷なんて想像もできない。


 感情表現が豊かで目が離せない。なぜか目が離せず、アリスが落ち込んでいると焦ってしまう。

 気づいた時にはもう、アリスのことを好きになっていた。


「アリス。食べる前に、いつものを頼む」

「はい、分かりました。いつもの、ですね!」


 アリスは満面の笑みを浮かべ、両手でハートの形を作った。


「ではいきますよ? ランスロット様も、一緒にやってくださいね?」


 アリスに促され、仕方なく俺も両手でハートを作る。

 こうして一緒にやるようになったのは最近のことだ。


 初めてやられた時は、意味が分からなすぎてひたすら混乱したが、今はすっかり慣れた。


「美味しくなあれ、萌え萌えずっきゅん!」


 さすがに恥ずかしくて同じ言葉を口にすることはできない。けれど、アリスと一緒に手を動かす。


「これで、ご飯がもーっと美味しくなりましたよ!」


 アリスはこれを、美味しくなる魔法と呼んでいる。

 だが、この魔法を唱えてもらうといつも以上に美味しく感じるのは、単純にアリスの笑顔が好きだからだろう。


 この魔法を唱え終わった後、アリスは上目遣いで俺をじっと見つめるのだ。

 美味しい、という俺の言葉を期待して。


 スープを口に入れる。思わず笑ってしまうほど美味しい。


「どうですか、ランスロット様!」


 きらきらと目を輝かせるアリスの後ろで、ヴァレンティンもちらちらと俺に視線を向けている。

 ヴァレンティンが作った料理が美味しくなかったことなど、一度もないのに。


「美味しい。おかわりをもらいたいくらいだ」

「ぜひぜひ。いっぱいありますから! ねえ、ヴァレンティンさん!」

「ええ。いくらでも食べてくださいね、坊ちゃん」


 今日はおかわりをした方がいいかもしれない。


 二人の幸せそうな顔を見ながら、俺はそんなことを考えた。

最後までお読みくださり、ありがとうございます!

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