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聖女の陰として生きてきた私が、廃太子と幸せになるまで  作者: 三羽高明@『廃城』電子書籍化


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14/50

今なら何でもできてしまえそう(1/2)

「まさか! そんなことってあるのですか!?」


 食堂へ戻り、先ほど玄関ホールで体験したことをバスティアンに話すと、彼は目を丸くした。料理の乗った皿を脇に押しのけ、身を乗り出す。


「魔力が発現するのは十三歳までです! もしシャーロット様が本当に魔法が使えるようになったとしたら、きっと魔法史がひっくり返りますよ!」


「ええ……そうですよね」


 シャーロット自身も信じられなかった。


 昨日まで何の力も持たなかったのに、急に治癒能力に目覚めたのである。我が事ながらに実感が湧かない。何もかもが、まるで奇跡のように現実味のない出来事としか感じられなかった。


「たとえば、こういうのはどうでしょうか」


 先ほどの「奇跡」を目の当たりにしていたオラフが、何とか納得のいく説明をしようと首を捻る。


「あの少年は補佐官殿を聖女だと勘違いしていた。その思い込みが、彼のケガを治した……」


「なるほど……。何の効果も無い錠剤を『お薬です』と言って与えたら、何故か効き目が現われた、なんて話を聞いたことがあります。今回もそれと同じことが起きたのでしょうか?」


「ですが、シャーロット様はご自分の体から不思議な力が放たれるのを感じたのでしょう? それも想像の産物だったというのですか?」


「うーん……」


 この心理効果は信じる心が無ければ生まれない。自分には魔力が無いと思っているシャーロットが、体の内側から力が湧いてくる幻の感覚を体験するだろうか?


「こうなったら、試してみるよりありませんね」


 オラフが思案顔になる。


「何かしてみてください、補佐官殿。魔法を使うのです」

「え、ええ……」


 頷いてはみたものの、どうしていいのか分からない。魔法なんて今まで一度も使ったことがないから、それで何かしようだなんて想像したこともなかったのだ。


 シャーロットはしばらく考えた末、姉はよく力の誇示として空から花を降らせていたと思い出した。


「……花よ」


 シャーロットは天井に手のひらを掲げる。少年を治療した時と同じ感覚が体を駆けた。


 その力が外側に放たれた瞬間、頭上から何かが落ちてくる。


 それは一輪のカモミールだった。


 シャーロットたちが見守る前で、白い花は貴婦人が椅子に腰掛けるように優雅にテーブルに着地した。バスティアンが花を手に取り、「本物だ……」と呟いた。


「すごい……」


 シャーロットは唖然となったあと、体中から希望がふつふつと湧いてくるのを感じた。


「すごい、すごい、すごいです! 私、魔法が使えるようになったんですか!? ……花よ!」


 シャーロットが両手で空気を掻き分けるような仕草をすると、今度は何百ものカモミールが天井から落ちてきた。


 心臓が早鐘を打つ。呼吸が浅くなり、急速に体温が高くなるのを感じた。


「花よ、花よ、花よ!」


 シャーロットは食堂を飛び出し、廊下を駆けながら詠唱を続ける。彼女が通ったあとは、真っ白な花びらの道が出来上がっていた。


「花よ!」


 正面玄関から外に出たシャーロットは、天高く叫んだ。すると、まるで土砂降りの雨のように頭上から花びらが降り注いでくるではないか。


(ああ……何でしょう……この感覚は……)


 シャーロットは顔中で白い花の雨を受け止めながら、天を仰いだ。甘酸っぱい香りが鼻腔を満たす。


(体が軽い。今なら何でもできてしまえそう……)


『そうとも。お前はありとあらゆることを可能にする力を得たのだよ』


 長い眠りから覚めた魔力が、シャーロットにだけ聞こえる声でそう言った気がした。

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