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4話:もう一度! サブマッチ!

「っくっくっく、そうかそうか! オメー、ダーリックホエール解体に参加しようとしたら、即木っ端みじんにされたって、要はマティアスに出番取られちまったわけだ! それでやり直しと! カッハハハハ!!!」


 食堂にデスティの爆笑が響き渡る。

 ガーネットから『やり直し』の理由を聞いて、その時の情景を想像し余程滑稽に思えたのだろう。実に酷い性分である。


 そう、ガーネット・トウニーは今朝のサブマッチに参加しそびれていたのだった。

 なんでも、1番目立ちそうな最終種目に意気揚々と参加表明しようと準備をしていたら、気づけば一瞬で標的のダーリックホエールは粉砕されていて、自分の出る幕もなくサブマッチが終わってしまった。

 このままではあまりにも不完全燃焼なものだからサブマッチをやり直してもらいたい、そういうわけで彼女はデスティを探しまわっていたとのこと。


「もーッ! 笑いすぎデス!」

「んもがっ。ごふっ…………!?」

(チキンで物理的に黙らせた!?)


 デスティがあまりにも大笑いするものだからか、マティアスの隣に座るガーネットは羞恥心で顔を真っ赤にする。

 そのまま照れ隠しと言わんばかりに、テーブルの上にある料理のチキンをデスティの口へ突っ込み、見事にクリーンヒット。デスティは静かになった。

 間違いなく呼吸器官がチキンで詰まってしまっているが、自業自得な上この程度で死ぬような人間に見えないため、マティアスは見て見ぬふりをする。


「フゥ……。ワタシのカッコワルイとこ、あんまり言い触らさないでクダサイ!」

「あのっ、ごめんなさいガーネットさん」

「ウン?」

「僕、そのつもりは無かったけど、ガーネットさんの出番を取っちゃったから……」


 マティアスはガーネットに謝罪をする。出番を奪うつもりでやったわけでは決して無いが、結果的にそうなってしまったのは事実なのだから。


「ンン〜〜……?」

「ええと、ガーネットさん? どうかしたの……?」


 対するガーネットはというと、謝罪を受け入れるわけでもなく、かといって怒っているわけでもなく、いぶかしげな表情でマティアスを見つめている。


「……ソコも。気になってるんデスヨネ〜」

「はえっ!?」


 マティアスがその態度を不思議に思っていると、ガーネットはマティアスの左腕をひょいと掴んで、何かを探るようにモニモニと触り始めた。

 袖の上からとはいえ突然の接触(それも女子から)にマティアスはドギマギとするも、ガーネットはお構いなしに触れ続ける。


「ウーン、このウデにもパワーがある感じはしまセンし……」

「ななな、何の話ですか……?」

「マティアス。アナタ一体、どうやってアノ魔物を粉砕したのデスカ?」

「えっ?」


 一頻ひとしきり触れられた後、ガーネットは小首を傾げながらそう問いかけてきた。

 彼女はマティアスがダーリックホエールの死体を破壊した瞬間を認識できなかったらしい。

 まあそれも仕方のない事でもある、ワイバーンの最高落下速度を目で捉えることなど、常人では不可能なのだから。


「それは、その」


 ただ、マティアスは返答に躊躇する。千変万化流や変身魔法の事を下手に話せば、答えたくない体質の話に触れてしまうかもしれないからだった。


「モシカシテ…競技が始まる前に爆弾を仕掛けたんデスカ?」

「爆弾!? そっ、そんなことしないよ!?」

「……っくっくっく、競技開始前の仕込みは禁止行為だ。そう疑わなくても最終種目をクリアしたのはマティアスで間違いねえ。俺には見えたからな、それは保証する。――だ、が!」


 答えることに躊躇していたらとんでもない疑惑をかけられそうになり、大慌てで否定したその時だ。

 ばり、ごきんとチキンの骨を噛み砕く音の後、デスティはマティアスの活躍を肯定しつつも、さらに言葉を続けた。


「速すぎて観客の大半が見れなかったのも事実だ。それじゃあオメーみたく納得しない連中が出てくんのも当然だな」

「……じゃあ!」

「ああいいぜ。放課後にもう一回サブマッチを行う。場所は同じく校庭だ」


 デスティはガーネットの訴えを受け入れて、サブマッチをもう一度開催することを決めたらしい。


「よかったね。ガーネットさん」

「ハイ! コレでワタシの実力を披露できマス!」

「っくっくっく、そうと決まりゃ善は急げだ、俺は今から席を外す。オメーら、出された料理は全部食っといていいぞ」

「オゥ! ワタシも良いんデスカ? ありがとうゴザイマス!」


 何か悪い事を思いついたように意地の悪い笑みを浮かべたデスティは、追加で出された料理をマティアス達に任せて早々に席を立ってしまった。

 大量のお金が入っているであろう大きいカバンもその場に置いたままである。


「ちょ、ちょっとデスティさん! このお金はいらな――って、速っ……!?」


 そのまま持って帰って貰いたかったマティアスの思いも虚しく、デスティはスカウトの話さえも置き去りにして、疾風の如く食堂を飛び出して行った。


「ううう……できればデスティさんに持って帰って欲しかったのに………」

「モグモグ……受け取っても良いんじゃないデスカ? ソレ、MVPの賞金デスヨネ?」

「でもこんな大金持ち歩くのも怖いよ……。それに僕そもそも、何が起きてたのかも知らないまま乱入しただけだから、賞金なんて受け取っちゃいけない気がするし……」

「ンン? マティアスはサブマッチ、途中から参加したのデスカ?」


 ガーネットは心底不思議そうに首を傾げている。

 そう、マティアスはいまだに、何がどうなって今朝は学園でサブマッチが行われたのかを何一つ知らないままであった。

 誰かに聞こうにも、クラスメイトたちは先にマティアスの事情を聞き出す気満々で、とても話せたものではなかったのだ。


「うん、今朝は遅刻しかけてたんだ、だから学校に着いた時には、みんなは校庭に集まってるし、魔物は居るしってびっくりしてて……文字通り飛び入りだったんだよ」

「ダーリックホエールの姿を見テ飛び入りデスカ? すっごい勇敢デスネ……」

「そこはその、習慣というか、あはは……。ねえガーネットさん。今朝って一体何が起きてたの?」


 千変万化流の技を以てすれば魔物など怖くはない、ということは誤魔化しつつ、ついでなのでマティアスはガーネットに今朝学校で何が起こっていたのかを聞くことにする。


「ウーン、ワタシも詳しい事は知りマセンヨ? センセーに校庭に連れてこられて、ソロソロ始業式が始まると思ってタラ、イツモと全然違う並び方でセーレツさせられテ」

「ソシタラ、朝礼台チョーレイダイから突然デスティナさんが現れて、「始業式は乗っ取った! 只今よりダルコ学園第一回サバイブ・マッチを開催する」ッテ宣言して、そのまま参加させられマシタ」

「そ、そんな突然だったの!? 先生たちは止めなかったのかな!?」


 余りにも突拍子のない始まりに、マティアスは思わず突っ込んでしまう。

 そんなことをすれば間違いなく教師陣が飛んでくる筈なのだが……。


「ゼンゼンでしたヨ? 学園長ガクエンチョーセンセーは滝みたいに汗かいてダンマリでしたし。大人ハみんなデスティナさんのイイナリみたいデシタ。デスティナさんってトッテモ偉いヒトなんですカネ?」

「ぜったい買収されてるんだと思うよ……」


 話を聞くに、教師どころか学園のトップである学園長先生まで、既にデスティの支配下に置かれているらしかった。


(め、滅茶苦茶なのに用意周到……いや滅茶苦茶するために用意周到なんだ……)


 マティアスの記憶が確かなら、今までこの学園にデスティという人間は在籍していない(というより居たらまず忘れられない)。

 おそらくデスティはこの学園に来る以前から、サブマッチを確実に実行するため手筈を整えていたのだろう、マティアスはそう推察した。


「それで大丈夫だった? サバイブ・マッチって、なにか危ない事をやらされたりとかは……」


 デスティの余りにも強引すぎる手腕に、マティアスはサバイブ・マッチもさぞかし過激な催しなのだろうかと連想したのだが……。


「ソレもゼンゼン。大丈夫デシタ」

「えっ?」


 だからこそ、続くガーネットの言葉に心底驚いたのだった。


「皆サバイブ・マッチを楽しんでましたヨ?。武器を貸シ出シて貰って、デスティナさんが魔法で作っタ人形をどれだけ倒せるかッテ大暴れしてマシタ」

「怪我人とかも出なかったの?」

「いないと思いマスヨ? 人形ハ逃げたりしますケド、こっちに攻撃はゼンゼンしませんシ。マチガッテ選手同士の攻撃が当たらナイ様に、ワザワザ結界魔法でエリア分けされてマシタ」


「まるでスポーツしてるみたいデ、ワタシも故郷のオマツリを思い出しましたネ」

「そうだったんだ……」


 安全には細心の注意を払った上で、サバイブ・マッチは行われていたらしい。


(なんだか、思った以上に楽しそうだ……。デスティさんのやり方が強引すぎるだけで、サブマッチ自体はちゃんとした競技なのかも……?)


 楽しそうにサブマッチの様子を語るガーネットを見て、マティアスは拍子抜けする。


「ソシテ、ミナサンの盛り上がりが絶好調ゼッコーチョーになった最終種目デ、ワタシは大活躍ノ大注目をするハズだったのデスガ……」

「うっ。そこに僕が邪魔しちゃったんだね……改めてごめんなさい」

「ンーン、気にしてマセン! ダッテ、放課後にまたサブマッチできますカラ!」


 ガーネットの話で、自分が想像以上に悪いタイミング(ある意味最高のタイミングでもあったが)で乱入した事に、マティアスはようやく気付く。

 とはいえ既に解決した問題でもあったので、ガーネットも簡単に許してくれたのだが。


「……ねえ、そういえばさ」


 そこまで話が進んで、マティアスは実はもう一つ、最初から気になっている疑問を聞いてみる事にした。

 ガーネットは最終種目への参加をマティアスに邪魔されてしまった、それはつまり。


「ガーネットさんはダーリックホエールの解体に出るつもりだったんだよね? その……クリアする自信ってあったの?」


 隣に座る彼女は、ダーリックホエールの巨軀に挑もうとしていたという事実である。


 ガーネットはマティアスを見て「パワーがあるようには見えない」と言っていた。

 しかしマティアスから見たガーネットもまた、最終種目を攻略できる力を持っているようには見えなかったのだ。

 クリアする気などさらさら無く、サブマッチの熱に充てられて記念に参加しようとした……そう考えるのが自然である。

 しかし、そうでは無かった場合、彼女は。


「モチロン。クリアする気マンマンでしたヨ」


 ガーネットの『自分ならば出来る』という確固たる自信に溢れた表情を見て、マティアスは確信した。

 彼女もまた自分と同じで、魔物と相対する力を持つ人間だ。


「……! そう、なんだ」


 どくん、とマティアスの胸が高鳴る。

 自分と近しいかもしれない他人に、初めて会えた事に対する興奮であった。

 知りたい、聞いてみたい、その様な衝動が湧き上がるが、しかし。


「フッフッフッフ、実はワタシ秘密兵器があるんデスヨ。他の競技デ使うとワタシが圧勝しちゃうくらい強力なヤツなのデス。……オット! これ以上はお喋りシマセンヨ?」

「うん、放課後を楽しみにしてるよ」

「ハイ! そーゆーコトデス!」


 今ここで聞いてしまうのは少し野暮な話である。

 どのみち、放課後の第二回サブマッチを待てば、ガーネットがどんな力の持ち主なのか明らかになるのだから。


(サブマッチ、思ってたより面白いかもしれないんだ……)


 マティアスは高鳴る胸を抑えつつ、そろそろ食事を再開しようとしたその時。


 ――ピンポンパンポーン。


 マティアス達の頭上から、チャイムの呼び出し音が聞こえた。

 放送室から学園全体へ呼び掛けを行う際に鳴る、放送音である。


「ンン? 校内放送コーナイホーソー……?」

「……なんだろう、すっごい嫌な予感がする」


 その音にガーネットは首を傾げ、マティアスは言いようのない怖気を感じる。

 脳裏に浮かぶのは、疾風の如く食堂を出て行ったデスティの姿。

 とはいえこの場で放送をどうこうできるわけもなく、2人は音の発生源たる天井の魔法陣を注視した。

 すると……。


『ダルコ学園に在学中の皆々様! サブマッチ振興委員会のデスティだ!』


「やっぱりデスティさん!!?」

「ワォ、ドコに行ったと思っタラ。放送室だったんデスネー……」


 やはりと言うべきか、放送の声の主はデスティであった。

 どうやら食堂を出た後、今度は放送室を乗っ取りに行ったらしい。


『まずは謝辞からだ。今朝のサブマッチに参加いただきありがとうございます! そして、皆様にお知らせだ! サブマッチ大好評の声にお応えして、今日の放課後、場所同じく校庭で第二回のサバイブ・マッチ開催を決定した!!』


「オゥ! サッソク宣伝してくれてマスヨ!」


 ガーネットは魔法陣を指さしながら、腕をぶんぶんと振るう。

 沢山のギャラリーの前で自分の実力を見せたかったのだろう、とても嬉しそうだった。


「う、うん。……でもなんか、それだけじゃ終わらないような……」


 しかしなぜだか、マティアスの嫌な予感は収まらない。

 何故ならデスティは、サブマッチという競技を盛り上げるためならどんな強引な手段でも行う男だ、マティアスは短時間の付き合いでも思い知っている。

 要するに、あのデスティがただサブマッチを繰り返すだけとは到底思えなかったのだ。


『第二回サブマッチはなんと対決方式! 今朝のMVPマティアス・リーヴィングの謎に包まれた実力を明らかにすべく、ガーネット・トウニーが挑戦状を叩きつけた! 2人の力を知りてー奴は、放課後を乞うご期待だ!!』


「えええええ!? 僕も参加するの!?!?」

「ワォ、ワタシ、覚えのないチョーセンジョーを叩きつけた事にナッテマス……」


 予感は的中する。

 本人の承諾も無しに、マティアスは第二回サブマッチへと巻き込まれてしまうのであった。

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