ナンバーワン
原作ファーストから離れると、様々な事を思い出した。
昔、大好きで、人気のあった少女漫画があった。
アニメ化もされ、クラスの女子は皆、夢中になった…
が、途中で話がうやむやになる。
大人の理由だった。
原作者と作画の先生の見解が合わなかったらしい。
で、見られなくなった。
今、色んな事を知って原作者を思うと、大変だったろうと労いたい気持ちが込み上げる。
と、同時に、子供の頃を思い出して悲しい気持ちにもなる。
私は大人びた子供だった。サンタクロースも信じなかったし、なんか、考え方が他の子供とは少し違っていた。
家は貧乏で、わがままは言えなかった。
早く大人になるしかなかった。
そんな私が、あの漫画の事は、わりと純情に思っていた。
『良い子にして、本や雑誌を買おう。そうすれば、きっと、いつか、先生たちが仲直りして、漫画が再開されるに違いない。』
本気でおもったまま、忘れていた気持ちを思い出した。
それが、私には珍しく子供らしい記憶だったので、それが叶わない事に腹も立つ。
原作者の強権を発動させられる悲しさを思い出した。
もう、あんな思いはしたくない。
それは、出版社も同じだと思う。現場や、読者の気持ちを安定させて、出版社の信用を守るには、原作者の権利についても、制限をお願いする気持ちも、あれを思い出すとわかる気もする。
では、誰が一番なのだろう?
そう考えて、もう一つ、未完の名作を思い出した。
『ガラスの仮面』である。
この作品は、女優を目指す少女が主人公で、伝説の舞台の天女の役のために奔走する。
この話も…連載が止まったり、再開する度に本を買った。
単行本、文庫版、再開前の雑誌型の復刻版。
先生は、ラストを決めてあると発言しているようで、その噂を信じて買い続けた。
だから、未完でフェイドアウトされたら、二次作を作ろうと考えた。
これだけ買って、応援して、エンディングもあるって言われたんだから、それが発表してもらえないなら、もう、自己満足しかない。
小説は書き慣れてきたし、二次作を書いていいサイトも見つけた。
安価でそれを本にもしてくれるらしかった。
自作の書籍化なんて、どうにもなら無いけど、二次作を数冊つくり、コミケ…とかで売る…そんな夢くらい見られると思った。
まあ、コミックマーケットって、お客で行くのも大変らしいけれど。
でも、空想は楽しい。
あの漫画を買うおこずかいをくれた伯母さんも他界したけれど、エンディングを自作して、誰かに評価を貰ったと、あの世で報告できたら…
そう考えるだけで、なんか、やる気がわいてくる。
わいては来るけれど、ここで気がついた。
あの話…『ガラスの仮面』だけは自作は無理だと。
普通の小説の恋愛ものなら、なんとかできるかもしれない。でも、あの話では、女神を降臨させなくてはいけない。
女神…『紅天女』を降臨した女優…どんなだろう?
女神なんて見た事無いし、それを皆に分かるように描くなんて、私には出来ない。
そう考え付いたとき、原作者の底力を見た気がした。
自分がどう頑張ってもできない事をしてくれる…
そんな人を先生と呼ぶんだと誰かに聞いた。
確かに、美内先生は、唯一無二の存在で、私はただ、待つしかできないんだと思った。
すごいと思う。
調べると、先生は、今でも創作活動をしてくださっているようだった。
そして、思った。
結局、一番は、客に見たいものを見せられた人間になるのではないか、と。
原作者が居なければ、創造すらできないなら、原作者が、
その人の脚本のドラマが見たいと、人気がでるなら、脚本家が、
この役はこの人、と、皆が認めるなら役者が、
その物語のナンバーワンではないか、と。
天女が降臨した…と、見ている人の胸をつく…そんな瞬間を作れた人間が、結局、創作の力関係ではナンバーワンなんだと思う。
では、漫画の神様を降臨するには…
ふと、長く苦しい『ガラスの仮面』の主人公の修行の日々を思い出した。
あれをやらないとダメなら、私には手塚アニメは無理だろうな…
冬の空が、遠く感じた。