表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

雑談が聞ける状態へ





たまたまタイミングが悪かったんだとしても、電話が話し中ばかりだったりすると「今はまだ行かなくてもいいよ」と言われている気もして、内心ホッとしたりもした。


駅前までの用事のついで、今日はどうかななんて軽い気持ちで電話をしたら、翌日予約が空いていると言われる。


きっとそこを逃したら、次はもっと先になるかもしれない。


神様とか特別信じていないけど、これだけタイミングが合わずにきたら乗れる時に乗った方がいいに違いない。


ある種の賭けのような気分で、翌日の予約を取り付ける。


土曜ということもあって、まだ学生の娘二人に自分の予定を話しておく。


ドキドキしながら、翌日を迎えた。


相変わらずで睡眠時間が足りなそうな顔をして、担当医の元へと向かった。


久しぶりに会った担当医に、睡眠時間についての報告をする。


以前もらっていた表に記入するような状態ではなかったので、持って行かなかったことも含めて。


それまでと大差なく、2時あたりにうとうとしだしてからせいぜい眠れて2時間。長くて3時間ほどだ、と。


すると、転院前の病院から聞いていた担当医の診療方針とは違う提案をしてきた。


転院直後に、担当医からも話されていた選ばないだろうと言われていた選択肢だ。


それは、投薬。


やっぱりここまでの期間、ちゃんと眠れていないということがよろしくないようだった。


まぁ、自分自身でも不思議なくらいだ。


なんであたしって生きてるんだろう、と。


これだけ眠れていなきゃ、回復もしていなかろう。


機械だってメンテナンスだの充電だの、あれやこれやをして動けている。


あたし自身はメンテナンスらしいメンテナンスは出来ていないに等しい。


食事はする。してきた。


それでも、水分補給と睡眠は必須事項。


その片方が時々しか叶っていない。


気絶するようにコトンと眠るのは、心底限界の時だけ。


あとは、もしかしたら眠れているのかもしれないけど、眠った記憶がハッキリしていないのだ。


自分の中に在るどれかの人格が、眠ってくれていて、それで生かされているのかもしれないと思ったことがある。


いっそのこと、密着取材でもしてもらってカメラで撮りっぱなしにしてもらえたら、真実が見えてくるのかもしれない。


だって、自分じゃ把握しきれてないんだもの。


冗談みたいなことを想像しては、本当に誰かやってくれないかなと思いたくもなる。


そんなことを思った時もあったなと思い出しながら、担当医と話を進めていく。


担当医自身は、本当は投薬はしない方向にしたい。そこは揺らいでいないよう。


けど、あたしの状況が思ったよりもよろしくないと判断したのだろう。


「でもね」


とあたしに断りを入れてから、「もうすこし話をしてから決めたいんだよね」とも言ってきた。


医者の言うことに従う気持ちはある。


だってこっちは素人ですから。


前回の、“愛している”“愛していない”“愛せない”の件だって、担当医がここだと思ったから話を吹っかけてきたと思っていたわけだし。


睡眠障害で心療内科を転々としてきた中では、群を抜いた信頼度で。


いろんな意味でハッキリを言ってくれるのが、傷つきもするけど心地もよかったりしている。


こういう医者と患者の関係や距離感は、嫌いじゃない。


担当医が話をと言ってから、前回の診察後の話になった。


三回目の診察について、だ。


「泣きながら駅まで歩きましたよ」と笑いながら訴えたら、担当医も「だよねー」と同じように笑いながら返してきた。


笑いながらあの時の話が出来るのなら、あの時の気持ちを引きずってはいなさそうだと確信する。


心の中でうなずいてから、吐露した感情の話と同時に頭の端っこで考えていたことを質問してみる。


「あれって、対症療法というものですか?」


どういった治療なのかわからないままなのは、気持ちが悪かった。


もうひとつ、単純に興味本位。


泣きながらも頭の端っこで別の感情が囁いていたことも、正直に打ち明けた。


「先生は何の考えもなしに、ああいう行動をとらないんじゃないかって」


数回しか会ってないのに、担当医の何も知らないだろうにも関わらず……の発言。


担当医はその言葉をどう感じたのかな。


落ち着いて話が聞けそうな状態の自分をも確かめて、「教えてほしいんです」と願った。


すると、担当医はすこしの間太ももにノートパソコンを乗せたまま何かを打ち込み、何も言わないでいた。


やがて傍らのサイドテーブルにノートパソコンを置き、「……うん」と短く呟いてから話をしてくれた。


「ネタバレっていうか、種明かしをしようか」


恐怖感のない笑顔で、そう言った。


臨床試験とか、そういった類のもので調べたデータがあるらしい。


あたしのような患者と向き合う際に、三回目の診察時に分岐点になるだろうことを見定めたり、あえて荒らすようなことを起こすんだと。


わずか数回のカウンセリングの中で、担当医なりにいろんなことを見極めようとしてくれていたようだった。


この患者さんは、治せる範囲内の人なのかどうか。


そもそもで、本人が治したいと心底思っていなきゃ無駄な通院になるのは理解できる。


何のための通院か、と。


双方どっちにとっても、意味のない時間になる。


担当医曰く、治せる余地のある患者さんとそうじゃない患者さんがいるという。


治せる余地のない人は、2パターン。


だらだらと自身の話ばかりをする人と、ネットかなんかで得た情報を仕入れてきて分析してきたがる人。


逆に治せる余地のある患者さんは、感情をあふれさせられることが出来る人。


だらだら云々については、三回目の診察までのあたしがそっちに該当していた気がする。


気にしても仕方がない、睡眠不足の原因たる相手の話ばかりを愚痴のように延々時間が許す限り話していたはずだ。


ただ、話している本人的には、眠れない原因と関わっている内容を伝えたら、今後どうしていけばいいとかの指針がもらえるかもしれないと、心の中のどこかで期待していた気もしてならない。


最終的には三回目の診察時に、担当医が思いっきり揺さぶりをかけたら感情を吐き出しまくったわけだ。


その時の反応次第では、その後の診察はナシになった可能性があったそう。


あれだけ感情をぶちまけたあたしを見て、次回の予約をと口にしたとも暴露してくれた。


泣きじゃくって帰ってからの生活と、長く眠れた時があった時期の暮らしについて問われた。


「時間もあったし、揺さぶった後でどうだったら長く眠れたのかなって」


いい方向性の話だけを聞いて、治療の指針の一つにしたいとも。


「いい結果が出た生活があったら、それを継続すべきでしょ」


なるべく薬を使いたくない担当医。


「……えー……と」


と、通院しなかった間のことを思い出す。


「そういえば、公募に出したんです。睡眠障害のこととか書いて」


「あと、相変わらずブログも書いて、先生が言うように自己治療っぽいこともやっています」


「それと、公募に出したのキッカケで、出版者の方に添削じゃないですけど、みてもらえるようになって。前よりも文章を書く時間を持つようになりました」


一気にそう報告したら、一瞬の間の後に「……ふふ」って笑ってた。


「相変わらずで、やってるんだねぇ」


そう言って、また笑った。


適度な疲労感。向き合うことで治療にもなるし、吐き出すことで誰に見せるんでもなくたって、自分にとって重要なことだったら十分。


そうしていく中で、自分が持ちたいスキル=執筆のレベルが底上げできるなら、一石二鳥にも三鳥にもなる可能性はある。


出来るか出来ないかは自分次第。


担当医と話す中で、自分の中でもそんな気持ちになっていった。


「薬、使わない方向でいいかな」


ぽつり、笑顔でそう呟く担当医。


今後の治療方針にもなる言葉を吐いてから、使おうとしている導眠剤や睡眠薬について……多分、使わない理由みたいな話をしてくれた。


「導眠剤や睡眠薬は、神経遮断薬と思ってほしい」と切り出した。


聞きなれない言葉に、すこし首をかしげる。


たとえ話として、昔々からある真っ黒い丸薬を持ち出す。


山吹色の箱に入っている、においがものすごい激しい丸薬。


正式名称がなくても、多分これでわかりそうなほどに有名な丸薬だ。


あの薬も実は神経遮断薬なんだという。


というのが、あの薬はお腹が下ってしまった時に飲むことが多いと思うのだけれど、あれほどまでに強力な効き方をしているのがなぜかという話になった。


ちゃんと止めてくれるから、長く使われる薬なんだよと。


ようするに、お腹がどうしようもなくなっている状態につながっている神経を、丸薬でバツンと遮断して、下ろうとしていませんよという状態にしてしまうのだ。


下手すりゃ、下っていたのがなかったことになるくらいに。


あの丸薬は、歯痛の時にも虫歯で穴が穴が開いている箇所に丸薬自体を詰め込むと、痛みがなくなる効果がある。


よほどの虫歯でない限り、思いのほか効果がある方法だ。


口内は、かなりなにおいを放つので、特に女性陣にはあまり薦められない方法ではあるけれど。


それも、歯が痛いという神経を強制的に断ってしまうからというのが真実。


導眠剤や睡眠薬も、眠れないという状態になっている神経を、まるで忘れてしまったかのように眠れることにしました……と言わんばかりに眠らせてしまう。


眠くなる薬というよりも、あったはずの眠気がそのまま体に作用できる道を作るというイメージかなと思えた。


ただ、そうすることは根治治療ではないので、神経を遮断しなくても眠気がそのまま作用できる状態に戻すのが大事で。

自然とその流れに出来るのであれば、体への負担は軽くなるはずだろうと。


薬を使う使わないについて、以前使っていた時にどうだったかを改めて説明することとなった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ