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「えっ?」
驚きのあまり飲み込んだ唾に何度か咳込んだイベリアに公爵は優しく背中をさすり水を持ってくるからと言って水を注ぎに立ち上がった。
(魔法は一応作用するみたいね、、。)
イベリアもただの魔術師ではない、本当に魔法が通用しないのか確かめるために手を握られたときに公爵の手にあったひっかき傷の一部を回復魔法で修復したのだ。
ってか私なにしちゃってんの!!!
コップを注ぐ公爵の手首からのぞかせる切り傷が徐々に消えていくのを見ては後悔していた。
幸い公爵は回復魔法に気づいていないようだが。
部屋の奥でコップに水を入れる公爵を後目にイベリアは声にならない叫びをあげて枕に顔をうずめる。
何で敵の立場の彼に修復魔法なんて使ってしまったのだろう。ほかに治癒を遅くするとか色々あったのに何治しちゃってるんだ私の馬鹿。蚊一匹殺せないのは私の方じゃないか?
だから記憶喪失前の私はドラゴン討伐なんかじゃなくてわざわざ結界なんてめんどくさいことしたんだろうな。この魔力ならドラゴン倒すなんてたやすいしもっと早く大魔術師になって貴族の仲間入りになれただろうに今頃こんなにおびえて訳も分からず敵地にいる必要なかったんじゃないのか?
あらゆることを考えては自分の意志の弱さに腹が立って鼻がツンと痛く、目頭が熱くなった。
「イベリア、ゆっくりでいいから。」
戻ってきた公爵はイベリアに寄り添いコップを近づけて飲まそうとした。
”パシッ”
軽く手で払おうとしようとしたイベリアの手は思ったよりもコップに触れてしまいベッドのシーツに水たまりを作ってしまった。公爵の頭にもかかってしまい髪の毛先から水滴が滴っていた。
”まずい!高級ベッドが!謝らなきゃ!”
思わず彼と目を合わせると、公爵は心を痛めたような目で静かにイベリアを見つめていた。
蒼いブルーの瞳はまっすぐイベリアを見つめて離さなかった。ならば魔術師の底力を刮目するがいい。
(心を鬼にするのよイベリア。)
そう自分に言い聞かせて目を一度閉じてゆっくり開いてじっと公爵をにらんだ。
「なんで私の名を知っているのですか。」
シーツをずらして公爵と距離をとった。触れた水たまりが温くて人肌温度にするために時間がかかっていたのかと余計なことを考えてしまう、
(駄目よイベリア心を鬼にしなさい。)
ベッドから降りて彼女は公爵に向けて威嚇した。
風を発生させて体に竜巻を纏い近づいたら容赦しないぞと見せつける。
部屋の中は嵐が入ったかのように風が吹いたが公爵は一切逃げもせずに立っていた。主人同様部屋の家具も全てが重いのか音も立てずに風が吹いていることも知らないようなすました顔をして置かれた場所に鎮座していた。
流石魔法が効かないと勘違いされるのも納得がいくと感心したイベリアは腕ならしにと強力な風をピンポイントに公爵に向かって繰り出した。ように見えたが彼女が公爵に向かって攻撃したように繰り出した温風はベッドに方向転換して綺麗に乾かした。
「こ、この寝床のようになりたくなければ大人しく答えなさい。」
乾いた声で本人にしては精一杯の怒鳴り声をあげる。
大声と風は相性が悪いしいまいち脅しが弱いのは本人も承知している。天邪鬼の女が髪を乾かしてやるという意味と同じように受け取られてしまったらどうしよう。でも干からびて殺してしまうぞということにもとれるよな。そもそも公爵に聞こえただろうか
(どうか干からびて殺されると思ってくれますように!!)
カラカラに乾いた口で大声を出すことはもうできなかったイベリアは素直に一口飲んでおけばよかったと肩を落とした。