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意識を失う前確かにイベリアは代償を伴う強力魔法を使った。
その証拠に魔力を大量に放出するとできるといわれている肉割れのような模様が腕にいくつもできていたからである。
イベリアは何故自分が代償を被ってまで魔法を使わなければならなかったのかその理由を知らない。
夢だった大魔術師になるためにドラゴンを討伐する必要があり、恐ろしくてそんなこと出来ないからドラゴンの生息地に境界を張ることに成功して、なんとか王から大魔術師の称号を得ることが決まっていた。
境界を張るときも結構な魔力を使ったが代償をつかうまでもなかったし魔術師において代償を伴う魔法というのは強力で人によっては国を傾けてしまう程の威力を生み出すこともできるため使い方を間違えると反逆罪で捕まってしまうこともあるから生涯のうち使わない人がほとんどである。
過去のことを詳しく思い出そうとしてもまるで映像に霧がかかるような感覚になる。
それらの記憶は時折明確になる瞬間があったが霧はまた記憶を包み込みなくしてしまう。
(何を忘れているのかさえわからないなんて)
こんな大変な時に限ってしょうもない記憶だけが鮮明に映る。
思い出し玉という魔法おもちゃを小遣い稼ぎに売ったところ貴族の子供の間で話題になった記憶。
見た目はニワトリの卵程の大きさの水晶玉、持ってみるとリンゴひとつ分くらいの重さで子供でも扱いやすいのもまた人気になった理由だろう。
この思い出し玉は手作りで一つ一つに魔法が微量に入っている。
何かを忘れている者が両手で包むように持つと玉の内側から青い霧のようなものが映る仕組みだ。
話題になる前に商人が忘れていることを教えてくれるのは大変便利だが何を忘れているのか思い出せない利用者はもどかしい思いをするだろうと言っていたことがあったから何か思い出せないような記憶はさほど重要ではないことなんて誰だってわかっているだろ。と返した。
たかがおもちゃだ。頭が空の金持ちの子供は水晶玉の中に映る綺麗な青が観たいだけだから。と。
あの時自分はなんて馬鹿なものを作ったのだろう。
(忘れているかもしれないと探すからしてもうそれは重要でしょうが私の馬鹿!!)
あの大ヒット商品が貴族の部屋にないはずがないと無理やり自負して探すとやはり見つかった。
(貴族はミーハーだから大変よね)
一瞬だけ彼らに同情してやり思い出し玉を手に取った。
するとなぜだろう記憶がないことは確かなのに何も映らなかった。
(あれ?まぁ忘れてるっていう記憶自体ないから無かったことになってるのか)
魔法というのは実にルールや効果に忠実でかけた本人でさえ驚くほどだ。
ベッドにうつぶせになって遊んでみる。
ベッドボードの彫刻の模様を枕で隠して思い出そうとしながら思い出し玉を握る。するときれいな青色が浮かび上がった。
「やっぱり私は立派な大魔術師ね!」
「いべりあ?」
低く少し掠れた声が部屋に響き一瞬で空気が凍り付き
ひんやり気持ちよかった夜風は身震いするほど冷たくなっていた。
声の主は今までベッドの縁にもたれかかるように伏せていたのか全くイベリアは気づかなかった。
月明かりに照らされて立ち上がったシルエットは真っ黒な艶やかな黒い髪に青空を閉じ込めたような鮮やかなブルーの瞳をもつ容姿端麗の長身の男性、黒い黒衣は大陸最強と言われる超有名騎士団の象徴である金の葡萄の葉が刺繍されていた。
さらにこの黒衣には団長である公爵しかつけることの許されない黒鳥のブローチまで、、。それは冷血暴君と大陸で恐れられている
「ヴェルフェリング公爵様っ、、、。」
イベリアは声を上げることもできず震えた手には思い出し玉が不気味なほど綺麗に目の前のベルフェリング公爵の瞳と同じ青色に染まっていた。