プロローグ
夢を見た。
イベリアが幼い頃、街がドラゴンに襲われたときの風景とそっくり似ている。
がれきや砂埃で灰色だった景色を振り払ってがれきに埋もれたイベリアの手を差し伸べてくれたのは絵本から飛び出してきたような王子様がだった。
ドラゴンに立ち向かう体は大きかったけれど彼はまだ少年だった。
私は彼になにかを言いたかった。
彼の顔は靄がかかっていてよく見えなかった。
ひんやりとした心地よい風でイベリアは目覚めた。
部屋はベットの横にある大きな窓から明るい月明かりが差し込んでいる。
起き上がって辺りを見渡すも何も見えず、初めの数瞬間は目を鳴らすのに必要だったが次第に周囲の細部がはっきり見えるようになっていった。
部屋はどこかの貴族の部屋だろうか。
家具はシンプルに書斎用の大きな机に椅子、書棚のみで機能的な印象。
それでも一つ一つ繊細な木彫りのデザインが丁寧に施されていて高貴な雰囲気に満ちている。
壁紙には繊細な葡萄の葉のアートワークが金で施されていて美しく、すべてが月明かりでより輝いて一段と際立たせていた。
(何にも覚えてない。。)
知り合いでこんな部屋を持つ人物なんていない。
部屋の格式の高さに圧倒されながらイベリアは意識を失う直前の記憶を思い出そうとしていた、が。
何故この部屋で寝ていたのか思い出そうとしても何も出てこない。
「どうしよう」
ついこぼれた言葉を引き金によくない展開ばかり考えてしまいには目頭があつくなってしまう。
勢いよく倒れこみ転がると寝ていたベッドは広くて手を広げて三回寝返りできてしまう大きさに気づいた。
贅沢なつくりでベッドボードのダークウッドは何をしても動かないだろう重厚感。ベッドのシーツやカバーは触れると滑らかで気持ちがいい。
兎に角すべてが雲の上にでもいるかのような王道のふわふわでお日様の香り、奥の方にはどこかで香ったクリーンなバイオレットリーフの香りがした。
一旦寝よう。
時間がたてば何とかなる。
実際はこんなベッドそう簡単に横にはなれない代物なので寝れるうちに寝ておきたいが本音。
考えるたびに気持ちが落ち込んでしまうなら寝てしまおう。
全ては自分が魔法を使ってしまったことが原因なのだから。
(師匠にあれほど代償を伴う魔法は使うなって言われていたのに!)
「はぁ。やってしまった。」
溜息をついて後悔してももう遅かった。
イベリアは強力魔法を使ったことで代償に記憶を失ってしまったのだ。