第四章『妖姫伝説』
――昔々、ある男の家にたいそう美しい娘が訪ねてきました。その娘の美しさときたら神仏の生まれ変わりかと思わせるものだったと言います。
家に置いてほしいと頼んでくる娘ですが、男はどうしていいものかと困り果てます。
そこで男は近くの寺に連れて行き、住職に会わせて、それから判断を仰ごうと考えました。
住職は娘を一目見て、夢から覚めたような心地にさせられました。それほどに娘が美しかったのです。
それから住職は男に娘を預かることを強く勧めてきました。住職は娘にたまにこっそり自分に会いに来るようにと約束したからです。
それから娘の評判はすぐに村の隅から隅まで伝わっていきました。そして、その土地の地主、なんと領主までがその娘を訪ねてくるほどでした。
娘は気だてもよく、どんな仕事にも熱心でした。それとともに村はどんどん豊かになっていき、やがて村には市場ができるようになり、商店が建ち並ぶようになります。それとともに領主もこの土地に城を建て、年々足を運ぶ回数が増えていきました。
豊かになっていく村ですが、それと同時に年々不可解な事件が増えるようになります。
一つは神隠しがよく起こること、二つは近くの森で餓鬼を見たという話です。中にはその餓鬼に襲われたヒトもいたといいます。しかし、そんなことがあっても、村に住んでいるヒトは、不思議と気にしませんでした。
ある日、村へ弟子を何人か連れた高僧がやってきます。高僧は村の活気の裏に潜む邪気にすぐに感づきました。そして、その原因が娘であることにもすぐに行き当たります。
高僧は娘の正体を暴くために村に滞在することを決めます。
ですが、村か不可解な事件はなくなりませんでした。それどころか、日に日に高僧はやつれて、糸で操られたように夜な夜な宿場を抜け出す機会が増えていきました。
そこで弟子たちは意を決し、高僧の出かける時間を見計らって、高僧のあとをつけることにしました。
高僧が向かったのはあの娘の家でした。弟子たちは、それから娘の家を張りこみました。ですが、高僧は一向に出てくる気配がありません。
やがて意を決した弟子たちは、娘の家に浸入しました。
そこで待っていたのは、娘が高僧の腹を割り、臓物に食らいついている光景でした。
娘が高僧を食す姿はおぞましく、それ以上になんとも言えぬ美しさを放っていました。
弟子たちは居ても立ってもおられず、大声をあげながら、その村から逃げ出してしまいました。