第三章『本山千佐子』
神名村での行動は班ごとにわかれての集団行動が原則だった。一方でこの旅行の決まりごとというのは、それだけであり、一日一日の行動は各班ごとが自由に采配していいいことになっていた。
つまり、一日中遊んでいてもいいし、研究に没頭するもよしということだ。ただし、夏休み明けに研究発表が控えていることを考えると、遊びはほどほどにしなければならないだろう。玖木教授は特別厳しいわけじゃないが、優しいわけでもない。なんだかんだで、これも単位がかかっているのだ。
さて旅行参加者は十六人おり、それぞれ四人で班を組むことになっている。僕が所属する玖木ゼミは男女それぞれ四人の合計八人で構成されている。
班決めに関しては、前々から男女を半々にするという提案があったのだが、つき合っている田森と岡島さんが揉めに揉め、結局男は男、女は女という班分けになってしまった。
他の八人に関してはゼミも違うし、班分けもあちらに委任させているので割愛しておく。
会食室に集まった僕らの班は、これからのスケジュールについて話し合っていた。
僕の横には田森、その斜め前には体格のいい青年がデジカメを磨いている。彼は田波泰夫といって、彼も僕らと同じゼミの学生だ。性格はのんびりとして、気のいい青年で、まわりの評判も良好である。
そして、僕の対面には女の子が一人いる。名前は本山千佐子。キャミソールにショートパンツという単純な着こなしの、きわめて露出度の高い服装をしている。
彼女の性格に関しては、知り合って間もないので、なんとも言えないが、少し話した感じでは、さばさばした人懐こい印象を受けた。実際、男ばかりの班で女の子一人なのに、彼女は僕らに気後れするような素振りは見せていない。
そもそもの問題として、人数が足りないというだけの理由で、男だらけの班に女の子一人を入れる玖木教授の采配にも問題があるとも言えるが。
もう少し本山千佐子について言及していくと、彼女は大学二回生であり、年齢は十九歳。この旅行の参加者で彼女と面識があるのは玖木教授だけである。
どうして彼女がこの旅行に参加したのかというのは、彼女が玖木教授のお気に入りであるからということらしい。
彼女が玖木教授の愛人であるという説もあるし、なにかといわくの多い女の子であった。
「とりあえず、初日は村の資料館に行ってみないか?」
それが僕の提案である。せっかくなのだから、まずはこの村にある『妖姫伝説』について、詳しく知りたかった。
「はんたーい。初日は羽を伸ばしたいでーす」
異を唱えたのは、田森である。しかし、これは予想の範疇だ。僕は他の二人に目をやる。
「俺も資料館に行きたいな」
田波は僕に同意する。本山さんは「どっちでもいい」と言う意見であった。
「二対一だな。それにもう昼もまわってるし、遊びに行くにしてもすぐに日が暮れるよ」
その意見に対して、田森は言い返さず嘆息をつくだけだった。僕らに同意するという意思表示なのだろう。
「民主主義の勝利だな」
僕は田森に向かって、ニヤリと笑みを浮かべたのだった。