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第二十五章『阿咲涼貴 其の二』

 ――昔々の話です。ここより遥か遠く後で氷柱のように冷たく、鋭い鬼が暴れまわっていたそうです。それはもう大層な凶暴さだったそうで、倒すのには百人以上の血が流されたといわれています。

 しかし、その鬼は肉体を失っても、魂を残し、その地に災いを振りまいたそうです。そこで、人々は遥か離れた地に神社を建立し、そこにその鬼の魂を奉ろうということになったのです――


「待ってください。なぜ、鬼の魂を遠くへ移さなければならなかったのですか?」

「その遥か遠く後にも人繰という鬼がいたからです。その人繰から人々を守るために、遠くから別の鬼を呼び寄せようと、当時の人は考えたわけです。それでは話を続けますよ」


――神社は小高い丘の上に建てられ、鬼の魂をその地へ誘致するのにも成功しました。ところが、それっきり人々が神社を訪れることはまったくなくなったそうです。

 もともと、その地は人々が訪れるようなところではありませんでしたし、そもそもその周辺には集落など存在しなかったから――


「集落が存在しない?」

 僕はその言葉に違和感を覚える。

「あなたの話は、この神名村の話じゃないんですか?」

「ええ、そうですよ」

「でも、ここには村がちゃんとあります。電気はちゃんと通ってるし、地図にも載ってるし、ホームページだって存在する」

「だからといって、それがこの村の存在を証明することにはなりませんよ。鬼たちも時代に合わせながら、現代という時代に根づいて存在しているのです」

「……どういうことですか?」

「人繰の目的は昔もいまも同じです。ただ、手段が変わっただけでね。彼女は自らが喰らった人肉の破片を自らが紡ぎだす糸で縫合して、今度はそれを人形として操ります」

 彼のもの言いは、まるで人繰なる鬼だか妖怪だかの類が存在しているかのようだ。しかし、現実にそんなモノがいるんだろうか。この世に起こる怪奇現象と呼ばれるものは、すべて踏破されて、自然現象として証明されてきたではないか。

「彼女は世間がもっとも無害であるという姿をして、村人の一人として装います。そして、彼女の人形は村人であるように振る舞います。その結果、人々はあたかもそこに村があるような錯覚に陥るのです」

「……信じられない」

 きっと、僕はまだ悪い夢を見てるんだ。そう思った。

「いいんですよ。それで」

 阿咲くんはそんな僕を諭すように、頷いてみせる。

「さて、話が長くなってしまいましたね。今夜はもう遅い。ここで泊まっていかれるのがよろしいでしょう」

 阿咲くんはそういって、笑みを浮かべてくる。

「久々に誰かと話せて楽しかった。ありがとう」

 いつの間にか、僕と本山さんは床のうえに寝そべっていた。

「朝には、すべて終わってます。だから安心してください」

 僕らが目を閉じかけたとき、阿咲くんが「ペンを持つ手が震えている人には気をつけて」と言った気がした。

 それから間もなく、僕らの意識は闇に落ちた。


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