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第十九章『丘』  

 鬱蒼と茂る木々が太陽を覆い隠し、頂上からは冷たい空気が流れてくる。神名村にある小高い丘はそんな場所だった。

「先輩、先ほどから顔色悪いですけど、どうかしました?」

 僕に気づかってか、本山さんが心配そうに声をかけてくる。ちなみに僕の顔色が悪くなったのは、この丘に漂う冷涼な空気が原因ではない。

「……安原を見たんだ」

「安原……、って誰ですか?」

「僕らと同じゼミ所属してるヤツでさ。ホントならあいつもここに来るはずだったんだ。でも、夏風邪で来れないって……」

 だが、僕は先ほど安原を見かけた。この村で。決していないはずの人間を。

「他人のそら似って可能性はないんですか?」

「ああ、たしかに……」

 たしかにその可能性は大いにあった。なんとなく雰囲気もちがったし、顔が似ている人がいたっておかしくない。だけど、その一方でそこまで似てる人間がいるのなら、どうして僕らの中で話題が一度もあがらなかったのか。こんな小さな村だ。ゼミ生の誰かが見かけたって、全然おかしくない。

 ――いや、考えすぎなのかもしれない。僕が見たのは他人のそら似で、その人はなんらなかの理由でたまたま村にいなくて、昨夜か今朝に帰ってきたということだって考えられる。と言うか、それが自然な考え方じゃないだろうか。もしかして、僕も神経が過敏になってるのかもしれない。

「……ところで、この階段いつまで続くんですかね?」

「え? ああ……」

 そんな僕を見かねたのか、本山さんが話題を変えてくる。これは非常にありがたい配慮で、僕はなんとか平常心を取り戻すことができた。

「いや、僕もそれは知らないんだ。観光案内のパンフレットを見ても、載ってなかったし」

「そうなんですか?」

「うん。本来なら立ち入り禁止区域らしくてさ」

「そんなところ、近づいていいんですか?」

 本山さんは苦虫を噛みしめたような表情で、僕に問いかけてくる。

「本来ならダメなんだろうけど、なんか引っかかるんだ」

 僕を急きたててくるナニかが丘の上にある気がする。僕はその予感を胸に階段を駆けのぼっていった。


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