金髪の20歳児
「それで、話ってなに?」
「……俺をだましてたんだってな。聞いたよ……ずっと、なんでだまってたんだ!信じてイタノニ!」
「え、ちょ、ちょっとまってよ!」
「……なんでなんだよ。もう、お前とは話すことなんてないんだよ!」
「……まって……待ってよ!」
「おい、離せって!」
「……あなたが好きなの」
「……へ!?」
「あなたが、好き!」
〜♪〜♫〜♪〜♫〜
ピッ
…………いや、くっそつまらーん。
俺はリモコンで場面を止め、その場に仰向けに寝転び天井をじっと見上げる。
……唐突なのだが、俺は今めちゃくちゃ悩んでいる。
以前は悩みがない事が取り柄だと豪語するくらい、素敵・無敵・能天気ハッピーボーイだったのだが、嬉しくも悲しくもあるのだが、ここ最近はそんな俺の周辺環境が大いに変化してしまった。
推しの引退と突然の隣人化しかり、バイト先の同僚との急な交流しかり、先日の擬似デートだったりと、主に女性関係での変化のスピードが凄まじいものとなっている。
そして本当に残念ながら、今の俺はかつての恐竜のように、この女性が常に周囲にいるという環境への対応が出来てはいないというのが現状である。
何を隠そうこの俺、千堂 大地 は学生時代から現在まで 榎本 李梨沙 というただ一人の女性を愛し……いや、推している。
人々が異性との付き合い方を学ぶ学生時代に俺はその熱意を推し事へと向けていた。つまりは俺の青春とは李梨沙ということなのだ(?)
そんな素晴らしい学生時代を過ごしてきた結果、李梨沙がアイドル時代に出していた恋愛シミュレーションゲームの最適解こそ分かれど、現実の女性との接し方がよくわからない、清純派オタクがここに爆誕したのである。
……オタク爆誕。
格好つけただけだ。特に意味はない。
とにかく、『推しとのいい隣人関係』を志した今の俺は、携帯の中の李梨沙の好感度は上げるのではなく、現実の女性の気持ちを理解することこそが目標達成への近道だと考えた。
……まぁ、言うは易しなのだが、行動に移すのは難しいってやつで、今のところぜんっぜん理解できる雰囲気はない。
だってさ、周りの子たち美人すぎるんだもん……しかも何故か積極的。まるで、チュートリアルとして、初期装備でラスボスを倒せって言われてるもんだべさ。
そう、現実は周りの子達が強すぎるのだ!Do貞の俺にはまだ絶対に無理!なんであんな可愛い子が俺にキスすんの?はぁ!?
だからこそ回りくどくも、若者に人気だという恋愛ドラマを見て学ぼうと試みたのだが、まーーーったく何がなんだかわからなかった。ちんぷんかんぷんとはこの事だ。
昔から『花より団子』って言葉もあるしね。それと同じように俺にとっては恋愛とかより、推し活をしていた方が実益があるということだろう。
……現実逃避と言わないでくれぇ。
ピーンポーン
!!!!!
時刻はいつも通りの19時。最近は妹のリカちゃんが来てから会う事はなかったが、この時間にチャイムを鳴らすのは我が推しである李梨沙しかいない!
え、なんかドキドキしてきた。
久しぶりにご尊顔を拝めるからっていうのもあるけど、さっきまで紛いなりにも恋愛ドラマを見ていたからな、望みはないとしてもバレンタインデー当日の陽キャ男子のようにソワソワしちまうぜ!!!
「は〜〜〜い……?」
俺は期待を胸に扉を開けたが、そこには誰もいなかった。
近所の悪ガキの悪戯なのだろうか……本当に色々な意味でたちが悪いゾ!
はぁ、とため息を吐き少し肩を落とした俺は、ウキウキ気分で開けた扉をゆっくりと閉める。
ガッ
だが、残り少しといったところで何かに引っかかった音を鳴らし、扉はピタリと止まってしまった。
……ん?何に引っかかったんだ?
俺は確認するためにもう一度扉に近づく。
……あれ?何も引っかかってない……
一体何が……
「ダァ〜イ〜チ〜〜〜〜〜!!!」
「ほんぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
原因を探していたら、何者かが扉の隙間から低い声で俺の名前を呼んできたため、思わず驚きのあまりに約18年振りにほんぎゃタイムに入ってしまった。
「アハハハハハ、も〜驚きすぎですよ〜ダイチ〜。忍者ごっこですよ〜!アハハ、ほんぎゃぁて、アハハハハ」
「……なんでこんな時間に、てかなんで俺ん家知ってんのさ」
「優里に教えてもらいマシタ〜。お邪魔しますね〜」
「はぁ、すっごいナチュラルに入室するやん……」
そう、こんな時間に家に来て俺を驚かし腹を抱えるほど笑っているのは、近所の悪ガキではなく、我がバイト先のガキンチョである 東城・K・エリー だ。
というかこの子さ、優里から場所を教えてもらった言ってましたけどさ、今更だが優里は誰から聞いたんだよ……てか、こいつは何しにきたんだよ……
「今、貴様何しに来たでゴザル。と思いましたねダイチ」
「それは思ったけど、そんな奇天烈な語尾を付けた覚えはないぞ」
「大百科デスネ〜」
「それは、ナリだわ!」
「Oh!こんな時間でも相変わらずのツッコミ!さすがですな〜ダイチ〜」
「……今度優里にだけご飯奢ってあげようかな〜」
「ダメです!ごめんなさいです!」
すっごい速度でペコペコするエリー(20歳児)
……んー、なんかエリーには女性を相手にしているというか、実家の妹みたいな感じで接することができるんだよな。めちゃくちゃタイプな美人のはずなんだけど……ま、それがエリーのいいところなのか。
「はぁ……そんで?どうしたのさ」
「ため息はダメですよー?えーとですね……
……ん?Oh!話が早いじゃないですかダイチ!コレですよ!コレ〜!」
「こ、れ?」
なぜかピョンピョン跳ねながら彼女が指を指していたのは、つい先ほど酷評をした今最も若者に人気の恋愛ドラマを映しているテレビだった。
「はい!私コレ見たいんですけど、日本語が所々分かんないデス。だからダイチが横で通訳!OK?」
「NO」
「Yeah!じゃあ、一話から見ましょう!」
「俺の意思は!?」
俺の返事が聞こえてなかったのか凄く喜んでいる20歳児。
てか、エリーがわからない言葉とか出てきたかこの番組に。それになんで俺なんだ?近くに優里もいるはずなのに?
この異様な訪問に対し様々な疑問が浮かんだが、テレビを前にキラキラと目を輝かせている彼女を見たら、そんな事を聞くのは流石に無粋というものだろう……
……もう!お兄ちゃんって呼んでもいいんだからね!?
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