第二話『過去』
2人の過去に少しだけ触れます
第二話『過去』
神社には似つかわしくないスーツに身を包んだ男がこちらの目線に合わせて少し前かがみで物を言う
『君はこの辺りの子?』…
『学校帰りかな?』…
『家は近いの』…
はっ!?と、目が覚めたと同時にサツキは夢だという事に気が付く
少し重たく感じる体を洗面所に連れて行き歯を磨き出した
『あんな昔のこと未だに夢で見るなんて』
今日は久々の休日。実に三週間ぶりのきちんとした休みだ
ボーっとベランダ越しの空を眺めていると、ドンドンと勢いよく玄関のドアをたたく音が
『おーいサツキ!!買い物つきあってくれよ』
と、カンタの声がした
『あのさ、インターホンあるんだから鳴らしてよね』
玄関のドアを開けながらため息混じりにサツキが言葉を投げつけた
『わりぃ!!まだ家の物全然揃ってなくてさ。頼むよ』
後頭部に寝癖をつけたカンタが頭を掻きながら姿を見せた
情けない姿に笑みを浮かべつつサツキは
『わかったから、待って準備するわ。その間にアンタも寝癖治しなよ』
と言うと照れくさそうに隣の家へとカンタは頭を撫でながら帰って行った
『東京はさっぱりわからんな!!広すぎていかん』
『何、おじいちゃんみたいな事言ってんのよ』
ただの買い物といえども少しデートじみた雰囲気に胸を弾ませていた自分がバカらしくなる
『で、何が欲しいの?』
カンタは顎に手を添え自慢げに答えた
『カーテンと湯沸かし器だな』
『ケトルのことね』
『いちいち訂正すんじゃねーよ』
今度は鼻の下を指でこすって照れるカンタ
『あんたって、なんか昭和の映画俳優さんみたいね』
『そうか?照れるなぁ』
『仕草がね、褒めてないわよ…』
『なんだよ』
色んな店を仕切りに見て回る二人、決まれば早いもので二人はテラスのあるカフェでお茶を飲んでいた
『あれ?今日はコーラじゃないんだ』
『おう!気づいたか。この間、得意先との打ち合わせの時にカフェラテなる物を覚えてな』
鼻を空へ向け自慢げにサツキを見下ろす
『あんた以外のほとんどの人が知ってるわよ』
と、サツキが一掃した
『そうなのか!?』カフェラテのグラスを下から横から眺めながら不思議そうに首を傾げているカンタに
『やっぱり昭和の映画俳優さんみたい』とサツキは言った
『またバカにしたな』と腕をくむカンタに届かない声で
『今度は褒めてるんだけどなぁ』と小さく口の中で声を押し殺した
『えっ!?』
『何でもないわよ』
カンタは田舎育ちというのもあって世間知らずだ。高校を卒業してからは父の陶器家業を継いだのが追い打ちをかけてカンタを七国山に縛りつけていた
しかし、カンタは街を歩けば人の多い東京でも他人の目に留まるほど背が高くてイケメンだ。中高の時にバスケ部だったのもあるが顔は持って生まれたもの
その実カンタの母がトビキリの美人であった
『あんた、だんだんオバサンに似てきたわね』
『鏡見てると母さんを思い出すくらいだ。』二人は笑いながら帰宅路へと足を向けた
『この間、母さんにサツキの話したら会いたがってたぞ』
『そうなんだ。オバサン元気?』
『あの母ちゃんだからな』
『それもそうね、嬉しいけど七国山には…』言いかけて言葉をつむんだ
思わずカンタはサツキから目をそらせた。
『あんな事があったからな…』
遠い目をしたカンタに『大丈夫よ。もう傷は癒えてるから』と諭すサツキ
『心の方の傷も癒えたら一緒に帰ろうか』と優しく言葉を残したカンタであった
マンションの前に着こうところで、話題を変えようとカンタが
『そういえばさ、今度得意先の事務の女の子にご飯誘われてさ』と一言
『どんな服着ていけばいいのかな?』
と相も変わらず鈍感なカンタ
『知らないわよ』と拗ねた表情で自分の部屋へとサツキは入って行ってしまった
ドア越しに『今日はありがとな、またデートしてくれよ』と足音と共にカンタは隣の部屋へ帰って行った。
玄関で隣の家のドアが閉まるまで靴を脱がずにいたサツキは小さく呟いた
『バカ…』
二人の間にある薄い壁に向かって小さく呟いた
お読みいただきありがとうございます。
評価宜しくお願いします。