表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の絵本  作者: 霜月鈴
序章
7/19

6.バシレウス

ここから魔法学校編が始まります。

2人は休憩を挟みつつ2時間程歩き、隣町に来ていた。ズーマ村から出たことの無いミラは、興味深そうに辺りを見回しはしゃいでいた。そして、あの建物は何?このお店から嗅いだことの無い匂いがする!とカーターをあちらこちらに連れまわしていた。カーターはそんなミラに微笑みながら1つ1つ説明していくのであった。特にミラの興味を引いたのは蒸気を吹き上げて走る列車だった。多くの人を乗せて、考えられない速さで走り去る塊にミラは大興奮した。


「なにこれ!すごい!!これが魔法なの!?」


「これは蒸気の力を使って走る列車といいます。魔法ではなく職人の作った物ですね。人や物を遠くまですぐに運んでくれる、素晴らしい技術です。今日はこれに乗って首都に向かいますよ。」


「えっ!乗るの!?これに乗れるの!?やったー!」


何度もジャンプをして全身で喜びを表現するミラを見て、娘がいたらこんな気持ちなのかと少し親心を湧かせたカーターであった。どうやって乗るの?とミラが声をかけると、カーターは列車に乗るための券を買って扉の前にあるあの箱に入れるのですよと言い、どこからか取り出した券をその箱に通した。通された券には今日の日付と時間が赤色の文字で刻印された。ミラは感心すると、何かに気付いたかのように慌ててカーターに声をかけた。


「カーターさん!お金!私お金払います!」


物を買うにはお金がいる。少しの間ミラの親代わりになるといっても、お金を払わせるわけにはいかない。ミラはエミリーからお金を貰っていたのでいくらか手に取りカーターに差し出したが、それをカーターにやんわりと手で遮られてしまった。


「大丈夫、何も心配はいりません。実はミラに使ってと預かったお金があるのです。だからミラの買い物は私が買いますよ。あと、私に畏まった言い方は必要ありません。話しやすい言葉で話してくださいね。」


誰がカーターさんにお金を渡したの?おばあちゃんかな?とミラは想像し、深くは考えずありがたく使わせてもらうことにした。また、自分が敬語を止めるならカーターも止めてとミラが話すと、これが1番話しやすいのだとカーターは言った。ふうん、とミラはそういう人もいるのねと理解し敬語が入り混じった話し方を止めて、リースに接するように話すことにした。もちろん私以外の目上の方には丁寧な言葉でお話するのですよとカーターがいたずらっ子のように言うので、ミラは笑って勿論!と返すのであった。


列車に乗るまで少し時間があるので、列車の中で食べる物を2人は買いに来た。ミラは先程から気になっていた不思議な香りのするお菓子とサンドイッチを、カーターは穀物と野菜がたっぷりと入っているスープを購入し、駅に戻ってきた。そして2人が列車に乗り席に座ると、けたたましくベルが鳴り響いた。蒸気の吹き上がる音が響き渡りゆっくりと列車が動き出すと、ミラは歓声を上げた。

こうして、ミラにとって初めての列車の旅が始まったのであった。



外の景色が流れて、窓枠の中の絵画は刹那的にその色を変えていく。始めは町の複雑な色。次は緑がどこまでも広がる雄大な草原。花々が咲き誇り春の姿を映し出す魅惑的な色。巨木ひしめく濃厚な森の色。ミラにとっては全部初めての色だ。カーターに、食事にしましょうかと声をかけられるまで、ミラは食い入るように外を眺めていた。列車の中で食べるご飯は、気分が良いからかとても美味しい。不思議な香りのするお菓子は香辛料を生地に練りこんで揚げた物であり、ミラの好みに合っていた。とても幸せな時間だと思うミラであった。


カーターと世間話をしながらも、列車は進んでいく。ガタンガタンと心地よく座席を揺らしながら、ゆったりとした時間が過ぎていく。疲れが溜まっているミラにこの空間は心地よく、睡魔が襲い始めた。寝たらもったいないわと自分を叱咤するも、我慢の限界は近い。


「たくさん歩いて疲れたでしょう。しばらく同じような景色が続きますし、今休んでおきましょうか。安心してください。景色が変わったら起こしますよ。」


優しいカーターの声はまるで子守唄だ。ミラはその声に安心して、静かに目を閉じた。

窓の外は広大な畑がどこまでも続き、列車の中を仄かな土の香りで満たしていくのであった。



「ミラ。町が見えてきましたよ。」

眠りが浅かったのか、カーターの声ですぐ目を覚ましたミラは、起こしてくれたことにお礼を言ってまだ焦点の合わない目で窓の外を見た。大きな外壁と、それを突き抜ける高さの建物が見える。


「大きな町……。」


ミラが思わず呟くと、カーターは読んでいた本を閉じた。


「ここがこの国の首都、バシレウスです。王の住む町ですから、その町の作りも頑丈なものになっています。あの高い建物は時計塔といって、定刻になると鐘が鳴る仕組みになっています。この町は特殊ですから、きっと驚き疲れてしまいますよ。」


カーターの言葉に、ミラは今日はすごい日だね!と言って口を薄く開けて外を見続けた。列車はバシレウスの中央部で止まり、ミラの小さな旅は終わりを告げた。





品のある華やかな町と評される首都、バシレウス。この町の建物はレンガ造りで色も統一感があるが、よく見ると細かい装飾がいくつも施されている手の込んだ物。花や木々が多く飾られ美しい水が至る所で川のように流れる贅沢な街並み。街行く人々は洗練された雰囲気があり、まさに王の住まう都といった風情だ。ミラが思わずカーターを見た時に、カーターが身に纏っているものが町の人のそれと気付いた。この町にいたら私もカーターのような人になれるのかなと、ミラは思わずにはいられなかった。



「カーターさん、こんにちは。……少しよろしいですか?」

前から歩いてきた茶褐色の長いコートを着た男が、急にカーターに声をかけてきた。どうやらカーターの顔見知りらしい。カーターは、今彼女といるので後にしてくれませんかと言ったが、男はしかし……となかなか譲らない。急ぎの用事だと察したミラは、カーターにそこの椅子に座って待っているから大丈夫と声をかけた。渋々といった様子で、カーターはその男とどこかに行くのであった。


椅子に座ったミラは、少し悩んだ後に鞄からお菓子を取り出した。やっぱり美味しいと食べ進め完食したが、お菓子の袋に油が染み出していたようで、ミラの手は油まみれになってしまった。

これでは何も触れないと困っていると、ミラの前を通った人か丁寧に手洗い場の場所を教えてくれた。少しくらいなら大丈夫だろうと、ミラは手洗い場へと駆け出した。



「ふー。綺麗になった!」

ミラは手洗い場を無事に発見した。早く戻ろうと足を進めるも、同じような建物が並んでいるため、どこから来たのか分からなくなり、ついには人気の無い場所に来てしまった。ミラは不安で、無意識に耳飾りを触っていた。


しばらくそうしていると、先程カーターと話していた男がミラの1本先の路地を横切った。お話終わったんだ。カーターさんに心配かけちゃう。……そうだ!あの男の人に道を聞こう!とミラは思い、男の後を追った。



何度目かの角を曲がると、ミラは男を見失ってしまった。どうしようかと思っていると、ミラの斜め前方に女がいて、何かを振っている。ミラは目を凝らして見ると、羽らしき物を振っているのだと分かった。すると、急に羽が光り出し光と共にその女は消え去ってしまった。


「すっごーい!あれが魔法なのかな!」


ミラは興奮して思わず声を出すと、突然誰かに肩を叩かれた。驚きミラが振り向くと、そこには追っていた男が笑みを浮かべて立っていた。


「カーターさんと一緒にいたお嬢さんですね?どうしてこんな場所にいるのですか?」


「手が汚れてしまったので、道を教えてもらって洗いに行きました。そしたら帰り道が分からなくなってしまって…どうしようかなって思ってたら、あなたを見つけたので、道を教えて貰おうと後を追ったんです。でも見失ってしまって、気付いたらここに来てました。」


「なるほど、私を追って来たのですね。それと、魔法と言いましたか?」


男は笑みを崩さない。


「はい!私初めて魔法見ました!羽みたいなのを、こう振ったら女の人消えちゃった!凄いです!」


ミラは身振り手振りで、先程の光景を男に説明した。すると、男は見ちゃいましたかと呟いた。


「お嬢さん、あれは魔法です。でも普通の魔法ではないんです。とぉっても特別な秘密の魔法なのです。人に見られてはいけない……ね。おやおや、お嬢さん。そんなに警戒しないでください。大丈夫、貴女が知ったことはナイショにしててあげますから。貴女が知った事を他の人に知られたら、カーターさんが困ってしまいますし。」


男は依然笑みを崩さない。


「……カーターさんが困ってしまうんですか?」

ミラは、この男の雰囲気が怖くて、声が震えてしまった。男はさらに笑みを深めた。


「お嬢さんが、カーターさんにも誰にも話さなければ問題はありません。

……ね、お嬢さん。約束出来ますか?」


「します!約束します!!」


ミラは即答した。男は手を叩いて、それは良かったと言った。


「いい子ですねぇ。では、カーターさんがきっとお嬢さんを必死で探している頃でしょうし、あの椅子の場所へご案内いたしましょう。」



男は何事も無かったかのような態度で、ミラを元の場所へと案内した。カーターはミラを発見した時に、柄にもなく大声でミラの名前を呼び、ミラは安心を探すようにカーターに抱き着いた。そしてカーターは、なぜ貴方がミラといるのです?と男を訝しげに見た。男は、このお嬢さんが道に迷っていたのを見兼ねて、こちらにお連れしただけですよと肩をすくめた。ミラが道に迷った経緯と男へのお礼、カーターへの謝罪を述べ、やっとカーターは納得したのであった。



そしてまた2人は歩き出した。しばらく歩き、人一倍大きな建物の前でカーターが立ち止まった。建物の中にいた人がカーターの姿を捉えると門があけられ、おかえりなさいませとカーターに声をかける。まさかといった顔でミラがカーターを見ると、いつもの柔和な笑みでこう言った。


「ミラ。ここが私の家です。」


ミラは今日で何度目かの驚きの声をあげた。


家の中に入り部屋へ案内されると、ミラは糸が切れたかのようにベッドに倒れこんだ。まだ12歳。これだけ色々あれば疲れて当然だ。ミラはカーターの付き人を名乗る人に起こされるまで、ぐっすりと眠った。そしてカーターと楽しく夕食を食べて、入浴し、また良く寝たのであった。


読んでいただきありがとうございます!よろしければ下の☆☆☆☆☆から評価もお願いします。励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ