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記憶の絵本  作者: 霜月鈴
序章
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3.愚者


降り注ぐ光の雨の中、濡れたミラの瞳や頬が光を反射して宝石のように輝いている。それはあまりにも非現実的な光景で、まるで女神様がミラを祝福しているようだ。

信じる者は救われる。これは女神様の聖典に書かれている言葉だ。リースは今ならその言葉をよく信じられるかもしれないと思った。


良かったなミラ。諦めないで、信じて良かったな。

泣きたくなる衝動をぐっと堪え、リースはミラの側に行き背中を優しく叩いた。

カーターはそんな2人を眩しそうに目を細め、穏やかな笑みを浮かべて見守るのであった。




洗礼式が終了し、家族に結果を報告するために、カーターが教会の扉を開けた。外から冷たい空気が流れ込み、いつもと変わらない村の景色が2人を現実に引き戻した。


カーターが出てきたことで、2人の家族が教会の扉付近まで駆け足でやってきた。どうやら2人のことが心配で、式が終わるまで外で待っていたらしい。家族達の体は冷え切っていた。

ミラは、リースやったよぉ!夢みたい!おばあちゃーん!聞いて!魔法が使えるようになるのよ!と興奮冷めやらない様子で外にやってきた。ミラの眩しい笑顔と泣きはらした目を見てすべてを察したエミリーは、おやおやとミラを宥め頭を撫でた。リースも笑顔で両親に結果を伝え、両親からおめでとうと強く抱擁されるのであった。


カーターは場の様子が落ち着くのを待つと、話を始めた。

「もうご存知かと思いますが、リースは商人、ミラは魔法使いの神託を授かりました。リースは商人の学校に通いつつ、ご両親の元で研鑽を積んでください。ミラは、魔法使いの学校で学ぶことになります。」


「魔法使いの学校!」


ミラは魔法使いの学校を思い浮かべて、笑みを深めた。


「はい、魔法使いの学校です。楽しみですね。

……皆さんお疲れでしょうしお開きにしましょうか。エミリーさん、学校の事でお話があります。夕方、家に伺ってもよろしいでしょうか?」


「カーターさん今日はありがとうございました。ええ、もちろん。お待ちしております。」


「ありがとうございます。では皆様、お気を付けてお帰りください。」

こうしてカーターの言葉と共に、それぞれの家族は帰路に就いたのであった。通りがかった村人からそれぞれお祝いの言葉をもらい、静かだった村は明るい声に彩られた。




一方、教会の中ではざわめきが広がっていた。

まさか辺境の村で魔法使いの神託が下るとは。彼女の家族は農民なのだろう、珍しいこともあるものだ。奇跡の事例に立ち会えて良かったよ。とそれぞれ口に出す中、ある者が声をあげた。

「まるで災厄の魔女の再来だ。」と。

辺りは水を打ったようになった。

その者はこう続けた。


「災厄の魔女も、教会の言い伝えでは家族と違う神託を受けている。そう、彼女だけが魔法使いの神託を授かったのだ。まるで今回と同じではないか!」


疑惑が投げられ、波紋が広がる。

それはじわじわと人の心を黒く蝕んでいく。


そうだ。そうだ。しかも同じ()()()()だ!これは因果だ!そうだ!災厄の魔女が消えて今年で丁度50年、彼女は魔女の生まれ変わりではないのか!そうだ!!

力を付ける前に、我々でその芽を摘んでしまおう!


言葉が過激になり、黒い渦が教会を飲み込もうとした時、騒ぎを聞きつけたカーターが扉を勢い良く開け、中に足を踏み入れた。

その音で騒ぎは収まり、その場の全員が一斉にカーターを見た。


「カーターさん。貴方ともあろう御方がはしたないですよ。」

誰かがカーターを咎めた。


「それは申し訳ありません。……皆様、声が扉の外まで良く聞こえていましたよ。」

カーターは肩をすぼめた。


「聞こえていたなら話は早い!ミラ・ブラウンという子どもを裁判にかけるのだ!」

誰かが叫んだ。その声に、またそうだ!と周囲が騒ぎ出した。しかし、カーターが手でそれを制した。


「皆さん!熱くなりすぎです。裁判なんてとんでもない。魔法使いの神託が下りた。その子が偶然ブラウンという苗字だった。ただそれだけですよ。」


「しかし、あまりに偶然が過ぎるではないか!」


「ブラウンという苗字の方は大勢いらっしゃいます。

多くはありませんが、ご家族と違う神託を得る子どももいます。それが重なっただけで悪と決めつけるのは、彼女が不憫です。憶測だけで1人の少女の未来を奪うのですか?」


その場にいた全員が口をつぐみ、カーターから目を逸らした。嫌な静けさが漂った。


「災厄の魔女が再び現れるのではないか、という恐怖は良く分かります。しかし、私達には力があります。簡単に人を地獄に落とすことができる力を、1人1人が持っています。……感情に、絶対に流されてはなりません。」


誰も言葉を発する者はいなかった。しかしカーターの目には、自分の発言を悔やむ人の姿が見えた。


同じ恐怖を抱く集団は、時として誤った思考のまま突き進む。それが正義だと、暗示をかけて。負の感情の力は強く、何故か同調を得やすい。力を付けた思考ははさらなる負を生む。そうして、いずれは止められなくなるのだ。

人は、敵とみなしたものにはあまりに冷酷になれるものだとカーターはぼんやりと思った。


「さあ、皆様。この話はここで終わりです。洗礼式は無事に終わりました。首都に帰る準備をしましょう。私は村の方々に挨拶をして帰ります。今日はお疲れ様でした。」


カーターの挨拶と共に、首都から派遣された司祭達は片付けを開始した。片付けは半刻程で終わり、彼らは何かの羽を持った人の周囲に身体の一部が触れるようにして集まった。では我々は失礼しますとカーターに声をかけ、カーターが気を付けてと返事をすると、羽を振った。すると急に羽が光り、その光が司祭達を包み込んだ。光が消える時には、驚くことに司祭達の姿は跡形もなく消えていた。


「ふぁあ。眠いですね。よし、一眠りしちゃいましょう。」

カーターの呑気な声が、誰も居ない教会の中で不気味に響いた。

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