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記憶の絵本  作者: 霜月鈴
序章
2/19

1.始まりの村


この世界はシンプルだ。人々の運命は女神様に決められているからである。司祭、魔法使い、商人、職人、農民の中から1つ女神様によって選ばれる。それは、将来を決める唯一のもの。神託は洗礼式にて、12歳になる年の子どもが教会で授けられる。


ここズーマ村にもその洗礼式を控えた子ども達がいた。


「魚を釣りに行こうぜ、ミラ!お祝いの準備だ!」

彼はリース・ホワイト。

野山を駆け回るのが好きな少年だ。


「うん!たくさん釣ったらおばあちゃん喜んでくれるかな?」

彼女はミラ・ブラウン。

好奇心旺盛な少女だ。


「もちろん喜んでくれるさ!」


洗礼式は、子ども達はもちろん大人達にとっても特別な日だ。この国では洗礼式の前に各村でお祝いをするのが常となっていた。お祝いで食べるメインの魚は神託を授かる子どもが釣り、それを皆で分け、その子どもの未来が明るくなることをお祈りする。美味しい魚を得るために、当然釣りにも気合が入る。2人は大物が良く釣れるとっておきの場所へと、駆け足で向かった。



釣りを始めて4時間が経ち太陽も真上に昇ったが、2人の竿には未だに当たりが無い。


「ふぁああ。釣れないなぁ。」


「今日はついてないね。」


当たりのない釣りほどつまらないものはない。欠伸が止まらくなってきたミラはリースにこんな話題を振った。


「ねぇ、リースはどんな神託を授かりたい?」


「俺はもちろん商人だ!今の商会を大きくするのが夢さ!」


リースの家は代々商人を輩出してきた家系で、ホワイト商会を経営している。この国では親と同じ神託を授かることが多く、子どもは親の仕事を継ぐことが暗黙の了解となっていた。


「リースなら出来るよ!応援してるね!」


「ありがとう!ミラは、ばぁちゃんが農民だから農民かな。ミラもきっとばぁちゃんみたいな美味しい野菜が育てられるさ!」


「そうよね、私もきっと農民よね。……うん!おばあちゃんを楽にさせてあげたいな。」


ミラの祖母エミリー・ブラウンは100歳だが、現役の農家だ。エミリーの作る野菜は最高に美味しく、他の村でも評判である。

エミリーは不慮の事故で両親を亡くしたミラを引き取り、女手1つで育て上げた。愛を惜しみなく与えられたミラはそんな祖母が大好きだった。

祖母の仕事を手伝いたい気持ちも本当だが、ミラにはどうしても憧れてやまないものがあった。

それは魔法だ。魔法使いだ。


ミラのように魔法使いに憧れる子どもは多い。読み聞かせられる絵本によって、さらにその気持ちを強める子どもも少なくはない。その絵本に出てくる災厄の魔女を倒した英雄が受けた神託も、魔法使いだったからだ。しかし、魔法は王や貴族達のもの。子ども達は叶わぬ夢だと大人から教えられて育つのだ。



神託を受けたら、魔法使いになれるのではないかと期待することも出来なくなってしまう。

せめて今だけでも、その想いを口にしてはいけないだろうか。ミラはリースの方をちらりと見た。リースは、ん?と言いながらふわりとミラに笑いかけた。


そうだ。リースは一度たりともミラを馬鹿にしたことがない。信頼出来るリースだけになら、本当の想いを口にしても許されるのではないだろうか。


ミラはそっと片耳だけにある耳飾りを触った。この耳飾りは両親の形見だと祖母に教えられたものだ。気分を落ち着かせたい時にミラはこの耳飾りを触る癖がある。シャラリと耳飾りが揺れた時、リースが声をあげた。


「ミラ!!竿を見てみろ!かかったぞ!!」


ハッとして竿を見ると、竿先が下がっている。今日初めての当たりだ。


「おっもいいぃ……!!!」

ミラの力では竿を上げられそうにない。リースがミラの後ろから手を回し竿を持ち、2人で力を合わせたその時、海の表面に黒い大きな影が姿を現した。


「これは大物だ!!ミラ!せーので持ち上げるぞ!」


「うん!」


「せーのっ!!!」


盛大な水しぶきと共に、子どもの体長をゆうに超える大魚が陸にあげられた。あまりの大きさに2人は目を見合わせて、吹き出した。


「なんだよコレ、すっげぇ!村のみんなも喜ぶぞ!ミラお手柄だな!」


「あはは!本当に大きいね!リースのお陰だよ。ありがとう。」


一頻り笑い合うと、大魚を運ぶ為に村の大人達を呼びに行った。呼ばれた大人たちは魚の大きさに目を見張り、皆で大笑いした。そのまま運ぶことは出来ないので、その場で解体することになったのであった。


大人達が魚を解体し終わり、村の厨房まで運んでいる後ろからミラとリースはゆっくりと付いて行っていた。


大魚を釣れたことで、2人はご機嫌だった。

話すなら今しかないと思い、ミラは立ち止まりリースにそっと話しかけた。


「あのね、リース。本当は私農民になりたい訳じゃないの。……魔法使いになりたいんだ。」

リースはミラを見つめた後に、はぁっと息を吐いた。


「バカだなぁ。最初からそう言えよ。俺はいいと思うぜ、魔法使い。」


ミラは目頭が熱くなるのを感じた。素直に肯定して貰えたことが、嬉しかったのだ。


「ミラはきっと素敵な魔法使いになれるよ。だってとても優しいから。」


話すリースの声があまりに優しいものだから、ミラは返事をすることが出来なかった。リースはそんなミラを見て、本当にバカだなぁと言うように笑い、ミラの手を握った。ミラもぎゅっと握り返し、2人はまたゆっくりと歩き出したのだった。どこまでも青い空が上空に広がっていた。



夜になり村人が集まり、賑やかなお祝いが開催された。エミリーもリースの家族も、大魚を使った料理を見てよくやったと2人をよく褒めるので、2人はどこか照れ臭そうに笑い合った。


こうして洗礼式3日前の夜は賑やかに過ぎていったのであった。

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