2.僕の優しい記憶
「ノア!入学おめでとう!!待ってたわ!」
「まさか幼なじみ全員が魔法使いの神託を授かるなんて……。嬉しい偶然!」
「僕もまたオリヴィアとカミラと一緒に過ごせて嬉しいよ。またよろしくね!」
ウンディーネの瞳に飲み込まれた6人が目にしたものは、ノア・エヴァンスの過去とみられる光景だった。そこには楽しそうに笑う3人が、魔法学校の芝生の上で再開の抱擁をしていた。
「オリヴィアって……。まさか、あのオリヴィア・ブラウンのことか?」
災厄の魔女オリヴィア・ブラウン。彼女はミラの持つ絵本に出てくる悪い魔女であり、この国で知らない者はいない。災厄の魔女は血と争いを好む悪魔のような子どもだったと伝えられている。6人の目の前にいるオリヴィアは、災厄の魔女といわれた彼女の姿とは似ても似つかない。幼なじみとの再会を無邪気に喜ぶ、ただの少女だ。
「そうだよ。彼女の名前はオリヴィア・ブラウン。一緒にいるのは幼なじみのカミラ・アンルー、そしてノア・エヴァンス。3人はとても仲がよかったんだ。」
リズの問いにウンディーネはそう答えた。稀代の魔法使いと災厄の魔女の在学期間は被っている。ウンディーネの言うノアにまつわる記憶の中にオリヴィアがいてもおかしくはないのだ。楽しそうに会話をしている3人を見て、ウンディーネは懐かしそうに、そして甘く優しい目をして見つめている。それだけで、この3人はウンディーネにとって大切な存在であったことが手を取るようにわかった。
そんな中、ミラは静かに何かを考える表情でオリヴィアの顔を見つめていた。オリヴィアの瞳の色が珍しいアースアイだったからだ。青い瞳の中に花が咲いたような黄色とオレンジ色が混ざり合う、不思議な瞳。まるで海と陸を表したかのような神秘的なその目は、ミラの祖母と瓜二つだった。ミラの両親は不慮の事故で亡くなったと祖母から聞かされていた。ミラとオリヴィアの顔は似ていないが、祖母を感じさせるオリヴィアの顔を見ると『オリヴィア・ブラウンが私の母ではないか』と思わずにはいられない。ミラがそんなことを考えていると、エドワードがボソッと呟いた。
「この女性が兵器を生み出し、血塗られた世界にしたというのか……。」
「全くそのようには見えないね。でも、人の心までは見えない。人好きのする笑顔を浮かべていた人間が実は極悪人だった、なんて話は掃いて捨てるほどある。」
エドワードの呟きにイーサンが反応した。エドワードは王族でイーサンは宰相の息子だ。彼らの周囲には、そんな人間が大勢いたのだろう。話すイーサンの顔は心底嫌そうだった。ミラは自分の母かもしれない人が、重罪を犯したということに足元が震えてしまった。そんなミラを見ていたアメリアは心配そうにミラの手に触れたが、ミラはとっさに手を払ってしまった。
「あ……。アメリア、ごめんね。考え事をしていたからびっくりしちゃって。」
「……大丈夫?顔色が悪いわ。」
「うん。大丈夫だよ。」
力なく笑うミラを見たアメリアは、もう一度優しくミラの手を握った。ミラは自分の考えを振り払うかのように力強くアメリアの手を握り返していると、アルフィーがウンディーネに話かけている声が聞こえたため、2人は意識をそちらに向けた。
「今見ているこれって、ノア・エヴァンスが作り出したものなのか?そしたらノア・エヴァンスの主観というか、彼のいいように作られている可能性があるんじゃないか?」
「君達が見ているこの光景は、僕達精霊が見てきた光景そのままだ。つまり、偽りのない事実だよ。僕達の大切な温かい記憶と、忘れたい記憶を包み隠さず教えてあげる。」
その言葉と共に、6人の見ている光景が入学式へと変化した。校長先生が現れたタイミングでミラが、エマ校長だと声をあげた。50年以上前のことなのに、エマ校長の姿は今と全く変わらない。校長は不老不死なのかもしれないと6人は思った。
そして入学式はつつがなく進み、パートナー決めが始まった。そして期待に胸を躍らせているノアの前に、6人がよく知る人物が現れ、エドワードは驚愕の顔をした。
「初めまして。俺はリアム。リアム・キャベンディッシュだ。今日から1年間君のパートナーを務めることになった。よろしく。」
ノアのパートナーは、かの光の大魔法使い。災厄の魔女を倒した英雄であり現王、リアム・キャベンディッシュだったのだ。
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