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終礼のチャイムが鳴る。
いつもと変わらぬ日常。
手早くスポーツバッグに荷物を詰める。
オレは軽井千弥
この夕凪町に1つしかない公立高校に通う2年生だ。
「弥っくん~帰ろぉ~」
「……?」
反射的に頭を抱えてしまう。
「いい加減一人で帰れよ、千夜
2年に上がってクラスも別なんだし」
「だってぇ~」
素っ頓狂な声を出すこいつは姉の千夜。
姉、と言ってもオレ達は二卵性双生児で同じ年だけど。
「たった2人の姉弟じゃない。助け合って生きていかないと」
「……まだ両親健在だ。誤解を受けるだろうが」
……とはいえ、両親は共働きで、
学校以外の大半はこの同じ顔の姉と2人で過ごしているわけだが。
「……そういえば、聞いた?」
「聞いた……って何を?」
「夕凪神社と三条君のウワサ」
ざわついてた教室がシーンとなる。
慌ててオレは「すいませんねぇ~」とへらへら笑いながら、
荷物を掴み、勢いよく千夜の手を引き教室を出た。
「痛いよ、弥っくん……」
「悪りぃ……ってかバカ千夜! クラスで三条の名は禁句なんだよ」
「え~だって三条君と弥っくんとも仲良かったじゃん」
「仲良くなんかねーよ」
きょとんとしている姉の代わりに説明するなら、
三条というのはうちのクラス委員で現在……行方不明で捜索願が出ているらしい。
「1年の時になにかとオレに突っかかってきただけだぜ、あいつ」
2年に上がってからは突っかかってくることはなくなったが、
恨みがましい目で時々こちらを見ているのは知っていた。
別にオレが何かしたわけでもないのに。
「……で、ウワサってのは?」
「三条君がね、夕凪神社で何度も目撃されてるんだって」
「オレ……パス」
夕凪神社っていったら怪奇現象の中心地じゃねぇか。
ただでさえ
夕凪町には妖怪やら神様やら不思議現象が多発してるってのに。
それに……
「どうしても……ダメ?」
「ダメ」
「あ~怖いんだ~」
「そんなんじゃねーよ」
オレはあの神社が好きになれない。
なぜかと聞かれると返答に困るが、なんとなくだ。
あの神社の前を通るだけでオレの中の何かがざわつく。
「……わかった。千夜1人で三条君探すもん」
「ちょ……わかったよ。オレも行く」
千夜を1人で行かせてはいけない。
本能的にそう感じた。
もしかしたらこのざわつきの原因がわかるかもしれない。
……この時のオレ達はまだ興味本位に怪奇現象を確かめに行く、
ただの高校生でしかなかった。