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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
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5.元両親

エステルの祖母ガブリエルは公爵夫人という立場にあり、夫ジェームズが不在の時は代行人を務める。



普段は聖母のようであるがその裏の顔は鬼でもあり、身内でも容赦がなかった。



「どういうことです母上!!」


「エステルをお返しください」



朝一番に邸に訪ねて来た息子と嫁に冷たい視線を向ける。

ジェームズは仕事でいない為ガブリエルが代わりに対応している。



「エステルは私が引きとることにしました。跡継ぎとしてこれから養育しますわ」


「なっ…エステルは私達の跡取りですぞ!」


「貴方達には溺愛するもう一人の娘がいるでしょう??」


あくまで穏やかに微笑む。



「ヘレンの婿に継がせればよい」


「まだヘレンは9歳です!」



大きな声をあげるジュリエッタに耳を塞ぐ。


「エステルは三歳の頃から教育を受けていましたが?寝る間も惜しんで勉強させられたと」


跡継ぎと決まっている子供は幼い頃から英才教育を受ける。その場合、通常は乳母や侍女が傍にいるのだが、ジュリエッタがエステルからセレナとクニッツを引き離した。



「それは跡取りとして」


跡継ぎに期待するのはいいが、二人の行為はあまりにも酷い仕打ちだった。


世間でもあらぬ噂が流れているのだからガブリエルからしても後始末が大変だった。


「ではヘレンを今から教育なさい。世間では貴方達が娘を焼き殺そうとした噂がありますのよ」


「そんな!」


「あんまりですぞ!」


病気の娘を一人置いて来たことを悔いることもない二人を不愉快に思うが、できるだけ顔に出さない。


「では何故病気のエステルを置いて夜会に行ったのです」


「それは…たいしたこともありませんでしたし」


「体調管理を怠ったエステルが…」


あくまでエステルが悪いと言う。


「もういいですわ」


「母上?」



少しでも期待をしていた。

僅かでも自分達が悪いと思うならばと心のどこかで思っていた自分が馬鹿だったと思う。


「お前達はエステルを殺そうとしたのです」


「そんな酷い!」


「火事がなくても、医師はあと一歩遅ければ死んでいたと言っていたわ…病気の原因も、栄養失調に過労だと。お前達はどこまで私の顔に泥を塗る気か」



妹であるヘレンは美しい容姿をしているので可愛がりたい気持ちは解る。

姉は跡取なのでしっかり学ばなくてはならないと言うことも解るが、これではあんまりだ。



「エステルは私の保護下に置く」


「そんな勝手な!」


それでも食い下がらるジュリエッタだったが。



「公爵夫人である私に口答えをする気ですか?嫁の分際で」


ビクつく二人。

威圧感を与えこれ見よがしに立場の違いを見せる。



「伯爵夫人如きが私に無礼を働き意見すると?何という侮辱」


「本来ならば不敬罪ですね」


傍にいる弁護士が告げる。


「お二人は、育児放棄並びに虐待に殺人未遂の罪の問われてもおかしくありません。ただ、故意的ではないのならば罪状は軽くなりますが」


「一応聞いて差し上げますわ?殺す気でしたの?」


「私が娘を殺すような人間とお思いですか!」


あんまりな言葉に反論するも、こんな威嚇など痛くもかゆくもないガブリエルは蔑んだ視線を送り一言。



「フッ…そんな度胸はないでしょう。エステルは我が家で引き取ります。元より分家の娘が養女になるのは当然でしょう」


「長女ですぞ!」


「どうして不満なのです?名誉ではありませんか。貴方の娘が侯爵令嬢になりますのよ」


現在伯爵の地位であるラウルからすれば、娘の出世は普通に考えれば嬉しいことのはずだが、二人にとっては最悪な出来事だ。



本家へ養女に行けば娘であってもエステルの方が立場が上になる。


あげくに兄夫婦は侯爵の地位を賜っている。




「ヴィオラは体が弱くて子ができにくいのですが、これで体面を保てますわ」



侯爵夫人である義姉とジュリエッタは何かと対立していた。

意見の食い違いや価値観の違いもあって二人は衝突していたが、子供が中々できないことでジュリエッタは優越感に浸っていた。



いくら優秀で素晴らしくとも妻の最大の務めは子を産むこと。

子供が産めないヴィオラを苛め蔑んで来たのに、こんなことになるとは思わなかった。



「ヴィオラはずっとエステルを娘に欲しがってましたし。貴方もエステルを嫌っていたのだから良かったではありませんか?」



ジュリエッタはエステルを嫌っていたつもりはない。

ただ、ヘレンばかりを可愛がり異様なほど溺愛していたのだ。


ラウルも娘を嫌っていた訳ではないが見目麗しい娘の方が可愛かった。



二人には育児放棄したつもりも、虐待した自覚もなかった。



「話は終わりです。一応生みの親ですから伝えておきますわ」


くるりと背を向け部屋から出て行く。



「馬車の準備を」


「はい」



従者がすぐに準備をするも。



「お待ちくださいお義母様!エステルを…娘をお返しください!」


手を伸ばそうにも前に立ちはだかる従者。



「お引き取り願います」



「放さぬか!!」


ラウルも押さえられ声を上げるが届くことはなかった。



こうしてエステルは伯爵令嬢から侯爵令嬢となり、祖父母の庇護下で生活することが叶ったのだった。


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