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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
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3.紡ぎ

本家の養女として正式に迎えられたエステルは穏やかな日常を過ごしていた。


唯一気掛かりなのは、季節の変わり目でヴィオラが体調を崩していたことだ。


「お母様…大丈夫ですか」


「大丈夫よ。ごめんなさいね」


体が丈夫ではないヴィオラは季節の変わり目によく風邪を引き熱を出す。


子供を身ごもることができないのは体が弱いからだ。



「エステル、貴方のピアノが聞きたいわ」


「え?」


「本当はピアノも上手なのに辞めさせられたでしょ?でも私は貴方のピアノが大好きなの」



ピアノを辞めた理由はヴィオラも知っていたがこの邸には立派なグランドピアノがある。


祖母が愛用していたものだ。

そのピアノで演奏して欲しいと頼まれエステルは頷く。





だったのだが。



「どうしてセレナまでいるの」


「お嬢様のピアノを聞くのは久しぶりですわ」


グランドピアノの前に集まる一同。

やりにくいと思いながらもピアノの前に座り簡単な曲を弾く。


簡単と言ってもプロの演奏家にとっては簡単だが素人には難しい曲。


(懐かしい感覚)


両親に内緒でこっそり弾いていた。

牢屋に入ってからはピアノに触れることはなかったので懐かしいと思った。



つい夢中でエステルは得意の曲を弾いてしまったが…



曲を弾き終わり気づく。



唖然とする一同に。



(まずいわ…)


今は子供なのに難曲をあっさり弾きこなし、アレンジした曲も調子に乗って弾いてしまった。



「エステル!貴方は天才よ」


「この歳でこんな難しい曲を弾きこなすなんて」



疑うどころか天才だと喜ぶ一同。


(いいのかしら?)



邸で音楽をすれば両親は怒っていた。


特に音楽祭でヘレンよりいい演奏をしたら常に罵倒を浴びせられる。



妹に恥をかかせる気かと。


両親が溺愛するのはヘレンのみ。

だからヘレンより目立つことを許さなかった。


それでもエステルは手を抜くことはなかった。

両親の心が離れると解っていても音楽だけがエステルの心の拠り所だったからだ。




「エステルにはミューズの加護があるのかもしれないわね」


「そうですね」


祖母ガブリエルは微笑を浮かべ、一緒に喜ぶロバートは演奏に聞き惚れていた。




その日から毎日のようにヴィオラの為にリラックスできる曲を弾き続けた。

合間には食欲がなくても食べやすいスープを用意し、栄養をつけてもらう様に心掛けた。



貴族に仕える料理人は豪華な料理を作れても病人が食べやすい食事を用意できるわけじゃない。



(待って…そういえばこの時期〉


記憶を辿り、ヴィオラは食欲が落ちて何も食べなくなってしまった。


その所為で日に日に痩せてしまい亡くなってしまった。


風邪は万病のもとで当時は恐ろしい病だった。



特にヴィオラは風邪だけでなく抵抗力もなかった。



(当時は風邪が流行っていたのよね)


前世では早くに亡くなったが、原因は脱水症状であった。


(せめて何か口にしてもらえれば)



食べない事には治らない。

薬を飲んでも免疫力を上げることもできないし、最悪の場合薬で死んでしまうこともあるのだ。



「お母様」


「どうしたのですか?」


「お食事を…お母様の好物の桃をゼリーにしました」



スープがダメでもゼリーなら口当たりも良く水分も取れると思った。



「まぁ、エステルが作ってくれたのですね」


食欲はないがエステルが作ってくれたのならばと食べる。



「美味しいわ」


「本当ですか?」


「ええ…とっても」


口当たりがよく食べやすくパクパクと食べるヴィオラを見て安堵する。


ゼリーを気に入ったのか、その日から毎食ゼリーが出され。


エステルの献身的な世話のおかげでヴィオラは元気になり。


少しずつ体力を取り戻し元気になっていた。

後に万病の元だと言われた風邪を治し、ヴィオラとの絆はより深まりさらに溺愛されるようになったとか。



社交界では母親思いの優しく健気な令嬢という噂が流れ。

これみよがしにヴィオラはエステルの自慢をして回っていたことをエステル本人は知らなかった。





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