1.出会い
王都から離れたロアンヌ地方にある学園。
メトロ学園は国内でも最大の規模を誇る学園だった。
学科は様々で受験資格は13歳からだったが、倍率が厳しく毎年多くの人間が受験に落ちて又挑戦という繰り返しをしている。
受験する条件として魔力があることが最低条件となる。
学科は多く魔法科ならば将来宮廷魔術師になる者もいる。
騎士科は近衛騎士に配属になることも可能だったが、在学中に落第ということもあるので進級するだけでも大変だった。
その中でもランク分けをされており、金・銀・銅のランクに分けられている。
優秀な生徒は特権が与えられる。
その中でも生徒達の憧れは生徒会。
学園内の優秀な生徒だけが入ることが許され、学園の運営はすべて生徒会の手によって行われる。
学園内では平民貴族関係なく国内の学校で唯一下克上ができると言われていた。
桜舞う季節、一人の少女が門をくぐる。
(ついに来たわね)
ひらひら舞う桜を見上げながらエステルは気を引き締める。
(もう一度ここに来るんなんて)
哀しい思いでしかないこの場所に戻って来たエステルは感傷に浸りかけたが、悲しんでばかりもいられない。
愛剣を握りしめながら遠くを見つめる。
辛い思いでしかなかった。
妹と常に比べられ自分の存在が必要ないのだと思い知らされた時間を過ごした。
ぎゅうっとバイオリンを抱きしめエステルは未だに胸がギスギスしていた。
ここで一人で生きて行かなくてはならない。
心細さを感じながら誰もいない神殿でエステルはバイオリンをケースから取り出し音色を奏でる。
(うん、大丈夫)
緊張はしているが、こうしてバイオリンを弾くことで心を落ち着かせることができた。
‥‥はずだった。
「誰です?」
微かに気配を感じ取ったエステルは誰かが近くにいることに気づく。
「失礼」
姿を現せたのはエステルと同い年ぐらいの少年だった。
(えっ…)
金髪に青い瞳の少年だった。
(嘘でしょ!)
エステルはこの時点で会うはずがない人物に会ってしまった。
「バイオリンの音色に導かれて」
「はっ…はぁ」
マチルダの教えを守りながら笑顔でいなくてはならないと言い聞かせながら既に笑顔は消えそうだった。
「私はアクセレイ・ハインツ」
「エステル・アルスターです」
仕方なく名前を名乗るしかなかったエステルは未だに表情が引きつっている。
「騎士科一年だ」
「私もです」
「君が?」
目を見開くアクセレイはエステルの腰を見て冗談ではないと気づく。
「失礼します」
「あっ…」
出来るだけ関わりたくないので逃げるように去った。
アクセレイ・ハインツ。
最北端の地を守る辺境の地を守る貴族。
ただしエステルが彼に出会ったのは18歳の頃だった。
(どうして彼が…)
この時点で出会うなんてまずないと思ったが、生徒の人数が多かったマンモス校なのでエステルが知らなかっただけだという可能性もある。
(でも、彼と同じクラスになる可能性は低いわ)
この学校は生徒の人数も多い。
クラスが同じになる可能性はないし、おそらくアクセレイとは同じクラスになる確率はないと思い込んでいたが。
入学式に向かうべく急ぐエステルだったが…
「何処を見て歩いてんだ」
「すいません!」
前方に一人の少年が絡まれていた。
「その特徴的な外見、インディーズ家の奴だぜ!」
「去年も落ちていた出来損ないの伯爵家令息じゃねえか!」
顔を俯かせる少年は必死に耐え忍ぶ。
「丁度よくねぇか?温室育ちの貴族様に教えてやろうぜ!」
今から何をするなかんて解り切っていた。
(何てレベルが低いのかしら)
エステルはこのくだらないやり取りを見て見ぬ振りする気にもなれず剣を握る。
「黒焦げになっちまいな!」
「やめ…」
炎の魔法で攻撃しようとした時だった。
エステルは地面を蹴りジャンプして彼等の真上にに飛ぶ。
影ができたことで何だと見上げると同時に衝撃が走った。
「失礼」
「「ぶっ!!」」
三人はエステルに踏まれてしまう。
靴はヒールではないが踏まれるとかなり痛かった。
「ごめんあそばせ?」
一言告げてエステルは絡まれていた少年の手を掴んでその場を去ろうとするも。
「舐めやがって!」
一人の少年が這いつくばりながら手をかざし魔法を使う。
魔法陣が浮かび上がり絡まれていた少年は真っ青になるがエステルは背を向けたままだった。
「炎よ燃え尽くせ!!」
「危ない!」
炎は猛獣の姿になってエステルに襲い掛かるも即座に結界を敷き魔法を弾き返した。
「なっ!!」
バシッ!!
弾き返された魔法はそのまま術者に襲い掛かり、彼等は丸焦げになった。
高等魔術を修得しているエステルは結界魔法が得意だったのでこの程度は赤子の手を捻るのと同じだった。




