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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
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孤高のプライド

ダンスを一曲踊りエステルはクロードに連れてこられた場所は秘密の庭園だった。




「わぁー素敵」


「ここは、昔三人で遊んだ秘密基地だ」



小さな神殿があり、愛の神殿と書かれていた。



「マリーアンジェリーク様ですか?」


「ああ」


政略結婚の為他国に嫁いだ王女で、王太子候補だったとも噂されている。

剣術に優れ文武両道で王妃の血筋を受け継いでおりもしエドワードが生まれなければ王太子となっていたとも言われている。



(アン王女…)



敵国の一つエトランゼ帝国。

国同士が同盟を結ぶ際は政略結婚が当たり前だった。



「姉上は聡い人だった」


「殿下…」


「姉上が嫁げばどうなるか解っていたんだろう。俺の立場もな」



何時も俺様で自分勝手で非常識だと思っていたクロードは一部分でしかないのではないか。



「絶対に内乱だけはしないでくれ…王位継承権を巡って身内同士で争わないでほしい。そう言い残して姉上は嫁いで行った」



12歳という若さで嫁がなくてはならないなんて、どれほど辛かったか。


「俺は王位に興味はないが王族としての責任がある。すべてを捨てて国を守ろうとした姉上の為にも」


敵国に嫁ぐと言うことは同盟が無くなれば命すら危うい。

全てを承知でアンジェリークは嫁いで行った。



「俺は妾の子だ…それでも姉上は俺を大事にしてくれた」


「お優しい方だったのですね」


「鬼だったがな?武術は全部姉上に叩きこまれた」


(はい?)


一瞬耳を疑うような言葉を聞いた気がした。



「姉上は王妃様と母上を足した人だ」


(ある意味最強ね)



健気な王女様という印象から戦姫に変わっていく。



(いいえ、そういえば…)




個人的な付き合いこそないがアンジェリーク王女は前世でも王の代理を務め、ある時は勅使として国に赴いたこともあった。




アルカディアとエトランゼの同盟が破られ敵対関係になった時も勅使として来ては忠告に来ていた。



(普通はないわね)



第一王子は妾腹の子で二番目は正妃で、二人の関係は複雑なモノだったが長女のアンジェリークがクロードに愛情を持って接していたおかげで心を持つことができた。



「姉上は王太子として育てられたのにエドが生まれて嫁がされた」


「そんな…」


「なのに決して父を王妃様を憎まなかった」



恨みたくても恨み言を言えず、言葉を飲み込み過ぎていた。


「俺はエドワードを憎んでいた。アイツさえいなければ姉上は嫁ぐことはなかったはずだと」


「でも憎み切れなかったんですね」


「…ああ」



時折クロードの心が何処にもないのではないか?と思うことがあった。



ぬらりくらりしていて、王族らしくない振舞いをして。

不良王子をしているにも理由があった。



「道化を演じていらしたのですね」


「‥‥さぁな?」


(嘘つき)



エドワードを憎いと思いながらも大切に思うクロードどれ程苦悩したのだろうか。


エステルは前世で自分の境遇を嘆き、耐えるだけだった。



「クロード殿下はお強い方ですわ」


最後は逃げてしまったエステルは己の弱さを悔いた。


愛されたくてヘレンを羨ましがるばかりで、愛して欲しいと言葉に出すこともしなかった。


(私は何もしていなかった)



誰からも無条件で愛されるヘレンが羨ましくて。

傍にある幸せを自分から手放してしまった。



「私は貴方に何度も救われました」



あの時大勢の前でもし泣いていたら笑いものになっていたかもしれない。



「クロード殿下が来てくださって‥‥傍にいてくださったのが貴方でよかった」


「えっ…」



ずっと傍にいてくれた。

エステルがサロンに来た時もカルロとヘレンと鉢合わせになった時もクロードは傍にいて守ってくれた。



何時も気づいたら傍にクロードがいて手を差し伸べてくれた。



「王太子様は貴方に今日まで守られてきました。私も同じです」


困らせられたこともあったが、それ以上に助けられたこともあった。



(ミシェル様の気持ちが少しだけ解ったわ)



逆境の中で強く生きて行く姿は美しい。

ただ見た目の美しさではなく本当の美しさは心からにじみ出る。



(本当に強いのは心だわ…)


身分や教養や血筋など与えられた物でしかない。



誰もが生まれる場所を選ぶことができない。



生まれながら理不尽な思いをしても耐えて行かなくてはならないならば、耐えて生きて行くしかないのに逃げてしまったエステル。



逃げずに耐え忍んだクロード。






運命とは神が定めたものかもしれないが、それを乗り越えることができるはずなのに抗うこともせずすべてを諦めたエステルは死に逃げた。



(もう二度と逃げない…)



クロードを見てエステルは改めて誓った。



「この花園において誓います」


「エステル?」


「エステル・アルスターは命ある限りこの国の光をお守りすることを誓います」



太陽が周りを明るく照らすならば太陽を支えるのは月の役目。



クロードはまさしく月だった。

太陽が消えないように道を示し、闇に消えないように守る存在。



「私は太陽が好きです。ですが月も好きですのよ」



真っすぐにクロードを見つめるががくりと項垂れる。


「はぁー…」


重いため息をつきながら頭を抱える。



「あー!!」


「殿下?」


立ち上がり頭を掻く。



一体どうしたのか戸惑うエステルは不安そうな表情をする。



(勘弁してくれ!)


クロードは内心すごく焦っていた。

エステルが放った言葉の一つ一つが心を揺さぶっていた。



本人には自覚がないがかなりの殺し文句だ。



(騎士の誓いを言うか?)



この国では身分の高い貴族に騎士として一生の忠誠を誓う儀式がある。


エステルは自覚無しにその儀式を行っているのだからクロードからすれば困るのだ。


(絶対解ってないな…)


クロードは自分の為に命を捧げるなんて面と向かって言われたこともない。


第一王子でも妾腹の子供の代わりはいる。

母親同様に疎まれているので命を懸けてくれる側近も貴族もいないし、心のどこかで疑いの目を持っている。



常に命を狙われるクロードを真っ正面から向き合ってくれたのはエステルだけだった。


救われたのはクロードも同じだったのだから。




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