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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
25/53

25憧憬

「アンタやるじゃない」



挨拶回りが終わり待機するエステルにミシェルは肩を叩き笑った。



「はい?」


「やられっぱなしと思っていたのに」


第一印象が大人しすぎて腰の低い印象だったので意外だった。



「いえ、少々でしゃばり過ぎたと反省しています」


「あれぐらい生ぬるいわ。でも、あれでアウトだわ」


ミシェルは社交界の恐ろしさもサロンの重要性もよく理解していた。



「サロンを否定することはモントワール夫人への侮辱。寵姫を真っ向から否定なんて馬鹿よね」


「これからどうされるのでしょう」


「アンタが心配する必要ないでしょ?でもヴィオラ様も策士よね」



優しい笑みを浮かべながらガブリエル同様に腹黒さも持ち合わせている。



「あの発言で周りは馬鹿との婚約は白紙になったと勝手に判断するわね」


「はっきりと意思表示はしてませんわ」


「でも捕らえ方によってはねぇ?」


ヘレンとカルロの発言の数々で腸が煮えくり返っていたので少しだけ胸がスカッとした。



「サロンの出入り禁止なんていい気味よ」


「ミシェル様…」


迂闊な発言をしてしまえば命取りになるとエステルは身をもって知っている。



(気をつけないと)




常に頭を使い発言に気をつけようと思った矢先。



「「キャー!!」」


黄色い悲鳴が聞こえる。



「王太子殿下よ!」


「きゃあ!隣にはクロード殿下もいらっしゃるわ!」



今日の主役であるエドワードは特に輝いていた。



「エドワード殿下…」


「いやん、クロード様も素敵だけど、エドワード様も素敵」



さっきまでのミシェルは何処に行ったのか。

この変わり様に呆れるも、生き生きした表情をしているのでこれ以上何か言う気になれなかった。



(エドワード様…)




前世では初めて言葉を交わしたのはこの日が初めてだった。


今でも覚えている。



(あの時私は一人だった…)



両親も婚約者も友人もおらず社交界で蔑まれ疎まれていた。



誰一人ダンスを踊ってくれる人は居なくて。



耐え忍ぶばかりだった。



(でも…)



広いホールで一人ぼっちだったエステルにただ一人優しく声をかけてくれた人がいる。




「王太子殿下エドワード様のおなーり!」



「「「おめでとうございます!!」」



大勢の貴族からお祝いの言葉と拍手が送られる。



「おめでとうございます殿下」


「謹んでお祝い申し上げます」


大臣や重役達からお祝いの言葉が述べられる。

身分の高い貴族は玉座の傍でお祝いの言葉を述べることが許され、すぐそばに王と王妃がおり、近い距離でクロードとモントワール侯爵夫人もお祝いの言葉を述べていた。



「これほど多くの者に祝ってもらえたことを感謝します」


エドワードが感謝の言葉を述べる。



「今宵は存分に宴を楽しみなさい」


音楽が奏でられ今夜の宴を盛大に盛り上げる。



「ここでファーストダンスだが…本日は無礼講じゃ」


「婚約者がいる方も本日だけは大目に見てくださいな」


両陛下の言葉で誰がファーストダンスに選ばれるのか静まる中、ゆっくりと前に進むエドワード。




「お相手いただけますか?レディー」


「えっ…」



「どうか私とファーストダンスを踊ってください」



迷うことなくエドワードは手を差し出す。



「しかし…」



「フレッツ侯爵、何か問題でも?」


「今夜は無礼講ですわよ?」




すぐに止めようとしたが、先手を打たれる。

王妃とモントワール侯爵夫人が邪魔させまいと睨み何も言えなくなる。



「私でよかったら」


「ありがとう」



エドワードにエスコートをされ移動する。


「ワルツを!」


王妃が合図をするとオーケストラは音楽を奏でダンスが始まる。



あの時と同じだった。

好奇の視線に晒されて、耐え切れなかったエステルに救いの手を差し伸べてくれた。



両親も婚約者も助けてくれなかったのに、エドワードだけは心のサインに気づいてくれた。



「許してくださいエステル嬢…」



「いいえ、光栄です」



「よかった」


ホッと安堵するエドワードは何時でも他者を気遣っていた。



「僕はずっと貴方に声をかけたかったのです」


「え?」


「けれど貴方はカルロの婚約者。親しくなることはできないと思っていたのですが…音を合わせ、言葉を交わすことができてよかった」



エドワードにリードされながらも優雅にステップを踏む。

クロードとはリードの仕方が違うが、とても踊りやすかった。



(あの時と同じ…)


優しい気遣いも、言葉も、リードの仕方も同じだった。


「私は王太子様にずっと憧れておりました」


「光栄です…貴方ともっと親しくなりたいと思っていたのですよ」



王太子という立場上気軽に話せる友人はいなく孤独感に苦しんでいた。



「大勢の側近がいても友人は一人もいない…孤独なのです」


「私も友人はおりませんわ」


「では、似た者同士ですね」


苦笑しながらも嘘のない笑みを浮かべてくれた。


(王太子様…)



胸が絞めつけられるようだった。

あの日から何一つ変わってないのだから。



(いいえ、違うわ)


孤独であったが、王太子と王太子妃の二人は優しかった。



偏見の目で見ずに接してくれたではないか。


(思い出したわ)


哀しい記憶が多すぎて忘れかけていたが…



『貴方の演奏、なんてすばらしいの』


『王太子妃様…』



敵国から同盟の証で嫁いできた皇女。

天真爛漫で幼さが残りヘレンと似た所があったので当初は苦手意識を持っていたが、その明るさに惹かれていた。



先代国王が崩御され19歳という若さでエドワードは王となり若すぎる君主となった。


側近に裏切られ罪を着せられた二人。



無力で何もできずにいた。


重税の罪を王妃になすりつけた貴族は裏切り国を出て、すべての責任を負わされた両陛下。


(あまりにも残酷すぎる…)


エステルはどうしても同じ悲劇だけは繰り返したくなかった。


(お優しい王太子様をお守りしたい…)


孤独だったエステルを救ってくれた優しい王。

いつもさりげなく気遣ってくれた優しすぎた王を守る為にもエステルは運命を変えたかった。



(恋ではないけど…)


エドワードに抱く想いはとても強く恋ではなかった


(王太子様…)


切ない表情で見つめるエステルはこの気持ちが恋ではないことを知っていた。


もっと強い思い。


憧れと尊敬の想いが強くなり恋とは程遠い感情を抱いていた。






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