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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
24/53

24失言

若手の優秀な貴族や官僚はサロンを開き勉強会や改革を話し合い、国の発展の為に情報交換をしている。



いわばサロンを道楽だと馬鹿にすることは彼等を侮辱することだった。



「ヘレン、言葉を慎みなさい」


「何故ですの?」


「サロンは身分問わず政治や哲学を学ぶ場ですのよ」



平民、貴族と関係なく志を共にする者達が交流し、国の発展の為に話し合うことは重要だった。



「だとしても所詮は趣味ですわ」


「お茶会や夜会に参加できない者が参加する場所だ」



そもそもサロンなど必要あるのか?と疑問を抱く。


「お姉様は夜会に積極的に出すべきですわ。サロンに参加する暇があるなら…」



喉から言葉が出そうになった。

これまで夜会に行かなかったのではなく連れて行ってもらえなかった。


行ったとしても放置された。



「この…」


「ミシェル様」


ここで感情的になってはダメだと言い聞かせる。

怒りのまま言い返しても得る物はないと学んだエステルは微笑を浮かべる。



「サロンでの勉強はためになるわ…何事も勉強ですもの」


「エステル!」


「夜会にでることも大切だし貴方の言う通りかもしれないけど…学んで無駄なことはあるのかしら?」



感情を表に出すことはしてはいけない。

常に頭で考え行動することを心掛けて全体を見渡す。



「夜会でも音楽や教養の話がでますわ。サロンに参加される方は上流階級の方も多くおります。先輩方から学ぶべきことも多いかと」


ここで夜会を軽視することはできないがサロンの必要性を先に出す。



「でも…」


「貴方の言う通り、夜会は貴族としての義務。ですが夜会に参加なさらない方とのお話も勉強になります。常に学ぶことは大切かと存じます…あくまで私の考えですが」



ヘレンが言葉を発する前にエステルは自分の価値観だと言う。

そうすれば相手に自分の考えを押し付けることもなく平和的に解決できる。



「なんて立派なんですの」


「そうですわ。サロンは交流の場ですわ。夜会とは違いますが」


「流石ですわ」



反感の目を持っていた貴族達は感銘の声をあげる。



「私は身分問わず交流していただきたくサロンを開きましたわ…それを道楽だなんて哀しいですわね」


「フォーカス公爵夫人!」


大勢の中に現れたフォーカス公爵夫人に貴族達は言葉を失う。




「ヘレン嬢、人には価値観の違いがございますわ。それを相手に強制するのはよくありませんわ」


「強制なんて…」


「夜会もサロンも大事な交流の場です。王妃様はサロンでの交流を大切にしております。何故か解りますか?」


「いえ…」



「貴族だけでなく平民の言葉にも耳を傾ける為ですわ。我らは決める立場がある以上責任ある行動する為に知らなくてはならないのです」



夜会だけでは知り得ない情報を得て交流を図ることが必要だったからだ。



「ですがヘレン様はサロンがお嫌いのようで残念ですわ。またご招待しようと思ってましたのに」


「え!」


遠まわしに二度と邸に来るなと告げられる。



「カルロ様も残念ですわね」



「フォーカス夫人!」


優しい笑顔を浮かべながらも一切の容赦がなかった。



「エステル様、どうかまたいらしてくださいませ」



「はい喜んで」



「では、皆様失礼しますわ」



微笑んで去っていくフォーカス公爵夫人だったが、貴族達の視線は一瞬で変わる。



「流石ですわね」


「フォーカス夫人のお墨付きをいただくなんて…」


「それに引き換え、ヘレン嬢はなんて非常識なのかしら」



囁きが止まることもなくその矛先はカルロに向く。



「サロンを批難するなんて…」


「カルロ様はちゃんとした教育を受けていないのかしら?」


「そうですわね…お育ちを疑いますわ」



サロンを利用する貴族は多く、主催者のほとんどが上流階級の貴族が多い為、サロンの否定はあれらの否定となるのだった。


「私が出るまでもなかったわね」



「お母様」





ヴィオラとミシェルは笑みを浮かべる。言葉は間違えれば何倍にも跳ね返ってくるので注意しなくてはいけない。



特に社交の場では命取りになるが、ヘレンは知らなかった。



「待たせてすまない」




ようやく解放されたロバートがサイレス伯爵と一緒に現れる。


「なんだい?この騒ぎは?」


「なんでもありませんわ」



困惑するロバートに笑顔で応対する。



「ヘレン!」


「お母様!」


人混みの中入って来たのはジュリエッタだった。



「エステル」


居なくなったヘレンを探しに来たジュリエッタだったが、傍にエステルがいることに気づく。



「久しぶりですね」



「はい」



返事をするだけで会話はなかった。



「お義母様に無理矢理連れて行かれたから心配していたのですよ?困っていませんか?」


「いいえ、何不自由ありません」


毎日学ぶことも多く、充実している。


「たまには帰って来なさい」


「いいえ、私の家はアルスター侯爵家ですわ。叔母様」


「なっ!!」



耳を疑うジュリエッタだったがもう一度告げる。



「お姉様何を言うの!」


「私の両親はロバートとヴィオラですわ」



戸惑うヘレンにきっぱり言い放つ。



「エステル…」



表情を強張らせるジュリエッタに代わらず笑みを浮かべる。



隣には元父がいるが変わらず微笑む。



「勉強が忙しく夜会に顔出せずお詫び申し上げますわ、ラウル叔父様」



「エステル!」



「声をあげないでくださいませ。私が至らないばかりに心配をおかけしましたが優先するのは跡継ぎになるお勉強でございますわ。どうかお許しくださいませ」


咎めるような視線を受けながらも笑顔を浮かべる。


「お前は自分が何を言っているのか解っているのか…」


「はい侯爵令嬢ならび公爵令嬢として発言には責任を持っております。ご心配いただき痛み入りますわ」


優雅に微笑みあくまで感情を表出すことなく対応する。



「私はお祖母様の庇護下にございます。しばらくは邸に留まり勉学に励むように仰せつかっておりますので…当主の命令は絶対ですわ。何か問題でも?」


「それはそうだが…」


ここで怒鳴り散らせばラウルの立場は悪くなる一方だった。



「長らく心配かけたことは詫びるが私の家庭のことは口出し無用だ」


「兄上!」



「エステルはとてもいい子だ。ヴィオラもすっかり元気になってね…来年は夜会にも参加するのを楽しみにしているんだ」



「ええ、今から楽しみで仕方なくて」


嬉しそうに笑みを浮かべるヴィオラはエステルを抱きしめる。



「エステルは本当に可愛い娘ですわ」


「お嫁に行かせたくないぐらいだ」


「お父様ったら!」



仲睦まじい光景にジュリエッタだけでなくラウルも固まった。



まるで本当の家族のようだった。



「何をおっしゃっているんですか!お姉様は…」



「ですから伴侶は心豊かな方がいいわね」


「は?」


ヘレンの言葉を遮りながら放たれた言葉にカルロは驚く。



「身分は低くても優しく心ある強い殿方を伴侶に迎えたく思いますわ」


「「「えっ!!」」」



広間に波紋が広がる。

ヴィオラの言い方ではカルロがヘレンの婚約者だと受け取られてもおかしくない。



「アルスター侯夫人、どういうことですか!」


「そのままの意味ですわ」



「そろそろ時間のようだな」


懐中時計で時間を確認する。



「私達はこれで失礼するよ?いずれまた」


「はい…兄上」



引き留めようにも時間が押しているので敵わずその場に残され、居心地の悪い空気に耐えるしかなかった。






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