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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
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2.二度目の選択

高熱を出していたがここで意識を手放している場合ではない。




偶然タイミングよく助け出した二人に一時だけだが疑いをかけられるようになる。



後に真犯人が発覚しても一度疑いの目を向けられると偽りの噂が真実のように囁かれ二人は蔑まれてしまう。


セレナは嫁ぎ先で酷い仕打ちを受けてしまい、クニッツは騎士団を辞める羽目になる。


(ダメ…絶対ダメ!)


邸は冷たい場所で使用人にも酷い仕打ちを受けていたが、二人だけは愛情を持って接してくれた。しかし、それゆえに彼らは非業の死を遂げる。



「はぁ…はぁ」


「お嬢様、お休みください」


「大丈夫」


今はとにかくできることをしなくてはいけない。

このまま高熱を出して死ぬならそれまでだったと諦められる。



でも、諦めがつかないのはセレナとクニッツのことだ。



(二人だけは命に替えても守って見せる!)



あの時は守れなかった。

だから今度はこそ守らなくてはならないと心を強く持つ。



「エステル?」


「大奥様!」


「どうしたのです!」


馬車から降りて出てきたのはエステルの祖母であり父方の母だった。

隣には祖父も一緒だったので安堵する。



「お邸が火事に!」


「お嬢様は病気で取り残されてしまっていました」



二人の言葉に真っ青になる。


「なんだと!」


「なんてことなの!病気の娘を残して夜会に出るなんて!」


先程まで宮廷の夜会に参加していた両親と妹。

仲睦まじい家族だと社交界では評判だが、その中にエステルは入っていない。


いつもそうだ。

家族との大事な行事に参加させてもらうことはないのだから。



「お願いですお祖父様。お助け下さい…悪いのはエステルでございます」


あの時熱を出さなければ夜会に行けた。

放火に巻き込まれることもなく二人が酷い目に遭うこともなかったはずだ。



「私が熱を出したせいです。二人が責められる理由はないのです…お願いします」


泣きながら必死で縋り付く姿にセレナは泣き出してしまう。



「わぁぁぁん!お嬢様ぁぁぁ!」


どっちが大人か解ったものではない。



「大丈夫だ」


「お祖父様…」


「大体なんの罪に問われるのだ?感謝することはあれど恨む理由はあろうか」



既に二人はエステルから引き離されているが、解雇されたわけではないので二人が責められる理由はないのだ。





「とにかく医師を呼ばなくては」


「ああ、辛いだろうに」


優しい手で頭を撫でられホッとするエステルはそのまま眠った。




ふかふかのベッドで手厚く看護されたエステル。



「あの馬鹿息子。エステルをなんだと思っているのだ」


「貴方、もう限界ですわ」


眠っているエステルを見守りながら二人は堪忍袋の緒が切れていた。




「旦那様失礼します」


執事が入って来る。



「ロバート様とヴィオラ様がご到着なさいました」


「いいわ。入ってもらって」



バタバタと足音が聞こえ乱暴に扉が開かれた。



「ああ!私のエステル!なんてことなのかしら!」


「大丈夫かエステル!」


病人の前だと言うのに騒々しい二人だった。


「静かにせんか」


「どうして娘が病気なのにあの二人は夜会にいらしてるの!!」


「信じられないな…やはり一日も早く引き取るべきだったな」



アルスター家は何代も続く名門中の名門貴族。

エステルの両親は分家に過ぎず正当な当主はロバートだった。


その補佐にヴィオラがいるのだがこの二人は貴族の中で珍しかった。

貴族が愛人を迎えるのは常識で、そうでない者は不道徳で常識知らずと言われている。


にも拘わらずヴィオラは夫を深く愛し恋人は作っておらず。

ロバートも生真面目な性格故に愛人を別に作っていなかったがお世継ぎ問題があり、親族から妾を迎えろと言われていたのだが、姪っ子のエステルを跡継ぎにと考えていた。



幸い弟のラウルには溺愛をする娘がもう一人いる。

子供に恵まれなかった二人からすれば弟夫婦のやり方は許せるものではなかった。


「大事にしないなら私にくれてもいいじゃない」


「エステルは物ではありませんのよ?」


「解っておりますわ。でも子供に恵まれない私達からすれば…」


子供が欲しくて欲しくて仕方なく。

これまで様々な治療を試みた。

 

時には人体に悪影響が起きる不妊治療を続け死にかけた。その時、エステルの母、ジュリエッタは嘲笑い馬鹿にした笑みを向け冷たい一言を浴びせた。



恥さらしだと…


その言葉がどれだけヴィオラの胸を抉ったか。

毎晩毎晩泣きながらもお腹に触れていた記憶は今も鮮明に残っていたが、それを慰めてくれたのはエステルだった。



エステルのバイオリンがヴィオラを優しく包み笑うことができた。


「ラウルには娘が一人いますでしょ?だったらエステルを養女に」


「うむ…」


未だに迷う祖父、ジェームズ。


「貴方、これ以上あの家において置けません」


「そうだな…」


今回のことがよほどショックだったのか二人は少しばかり強引な手段を取った。



「弁護士を呼んでくれ」



「はい!」


養子縁組をする際には両親の許可がいるが、育児放棄まがいなことをした事実を突きつければ、それも安易にできる。



分家とは違い本家には優秀な弁護士がいるので裁判に持ち込むまでもなく穏便に話し合いで片付けることが叶った。



養子縁組は三日で片付くことになった。



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