17親子の絆
秘密の特訓はガブリエルの許可で続行することが叶ったが、時間は待ってくれないのでただ闇雲に練習しているだけではなく頭を使うことにした。
「お嬢様?どうされました?」
「見学させてください」
ロバートの部下は敷地内で訓練をしているので見て盗むことにした。
「ですが面白いものはありませんよ」
「何事も勉強です」
眼鏡をつけて観察する。
(普通に訓練してもダメだわ…)
体力をつけるために筋力アップは勿論だが、実戦経験のある近衛騎士を良く見学して盗もうと考えた。
「エステル、どうしたのですか?」
日傘を差してこっちに向かってくるヴィオラと傍にはセレナもいる。
「見学を」
「今日は日差しが強いし日陰にいた方がいいわ」
「準備万端です」
傍には冷たいタオルと水分を用意している。
これも剣術を学ぶときにクニッツに言われて常に用意している。
「エステルは剣に興味があるのかしら?」
「奥様、お嬢様はまだ剣を習うには早すぎますわ」
嗜みとして剣術を学ぶのは13歳からだった。
騎士を目指す子供はすでに六歳から始めているが女性の場合は早すぎる。
「そうね…エステルには護衛騎士もいるし」
(やっぱり)
過保護なヴィオラのことだ剣術を習いたいなんて言えば反対されるに決まっている。
「エステルは無理に剣を握る必要はないぞ」
(うっ…お父様まで)
ここまで来たら何としても形になるまで黙って行よう。
じゃないと猛反対されるに決まっている。
「お嬢様」
「クニッツ!」
鍛錬を終えたクニッツの方に走って行く。
「最近、クニッツ様の所ばかりです」
「セレナ…」
一番近くで世話を焼いて来たのに最近はクニッツとコソコソ何かしているようで嫉妬している。
「私のお嬢様が不愛想になってしまいます」
主従関係の域を超えてかなりの過保護だった。
「母親のようね」
「恐れながら…」
「いいのですよ。貴方はあの子の育ての母なのだから」
少しだけ妬いてしまいそうになるが、セレナがいなければエステルは心を持っていなかったかもしれない。
「いいえ…夫と子を同時に亡くした私にとってお嬢様は光でした」
アルスター家に仕えていたセレナはガブリエルの命で呼び戻されエステルの乳母を任された。
生まれたばかりの子供は女の子でエステルを見た時は我が子が戻って来たと思ったが、ジュリエッタに引き離されても離れた距離で見守っていた。
「お嬢様は私を覚えてくださったのです」
「ええ」
「あの時私達を守る為に大奥様に助けを乞う姿に私は泣いてしまいましたわ」
高熱で苦しいはずなのに恥も捨て祖母に泣きつく姿に胸を打たれた。
「私はお嬢様にあんなにも愛されていたのですね」
「血など関係ありませんわ。だって貴方達にはちゃんと絆がありますわ」
セレナとエステルは親子の絆がちゃんとあった。
「エステルをいい子に育ててくれてありがとう」
「奥様…」
これから先、何が合っても見守ろう。
大切な主であり愛おしい我が子を傍で見守り続けようと願うセレナだった。
「お嬢様どうされました」
「私も腹筋を割りたいわ」
「なりません」
鍛錬に励む近衛騎士を見て素直に思ったがクニッツが断固拒否する。
「もっと体力をつけないと」
「無理なトレーニングは体を痛めます」
「うー…私もクニッツみたいな騎士になりたい」
シミジミ言うエステルにクニッツは表情は変わらなかったが若干口元が緩んでいる。
「お嬢様、他の者には言わないでくださいね」
「ん?」
(可愛らしいお嬢様が心配だ)
表情があまり変わらず愛想がないと言われているがセレナとクニッツにはとても懐いているので笑顔を良く見せる。
ただ伯爵家の邸では笑顔を見せることすら許されなかったのだが。
「クニッツ、後でまた見てくれる?」
「はい、もちろんでございます」
セレナが育ての母ならばクニッツは育ての父だった。
常に傍に添い守ってくれた父のような存在で今も傍で守ってくれる。
「私もクニッツみたいに誰かを守れるかしら」
「お嬢様ならきっと大丈夫です」
「うん…ありがとう」
クニッツと手を繋ぎ仲睦まじく日陰の方に歩いて行くと。
「おい…」
聞き慣れた声が聞こえあからさまに嫌な顔をする。
(げっ!)
思わず声に出しそうになったがなんとか思いとどまる。
「その心底嫌がる顔をするな」
「何用でしょうか」
クニッツは剣を握り前に出る。
「おい、俺は一応王子だぞ」
「例え死刑になっても主を守って死ねるなら本望です」
「俺は悪役かよ」
クニッツの目はクロードを危険人物と判断している目だった。
「お前の所の乳母も似たような目で俺を見るよな」
「日頃の行いです」
「可愛くねぇな」
ツンとした態度を取るエステルにやれやれと言った表情だがクニッツが一言。
「お嬢様は十分可憐です」
「嫌味かよ!」
真顔でエステルを賛美する。
お世辞が苦手なクニッツは本当のことしか言わないのだが、クロードからしたら腹立しいことこの上なかった。




