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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
14/53

14妹

演奏が終わり四人は周りを見渡すと大きな歓声と拍手が聞こえた。



「「「ブラボー!!」」」


誰もが四人の演奏に賛美している。



「すごい拍手」


「ええ…」


「凄い熱気です」



最高の喝采を浴びて自然と笑みを浮かべる。


「音楽の前に権力者も関係ない」


「クロード殿下」


「心を込めた演奏は人の心に響く」



目が覚めるような思いだった。

クロードの言葉は絵空事ではなく根拠がある。


「よくやったな」


ポンポンと頭を撫でられ顔を俯かせる。


優しい手に心が柔らかくなるのを感じるも、ほのぼのとした空気はすぐに壊される。



「キィィ!!クロード様に頭を撫でてもらうなんて羨ましい!!」


「ミシェル。落ち着いて」


ハンカチをかみ締め睨みつける。



「何だ?」


前世ではかなりのプレイボーイと謳われているのだが、かなり天然だったのだと気づく。



(いや…女性限定なのかしら?)


こんなあからさまな好意に気づかないなんて、かなり天然なのかもしれない。



「殿下、そろそろ手をどけてくれませんか?」


「何故だ?」


「誤解を受けます」


こんな人の多い所で親し気にしていたら何を言われるか解ったものではない。


「フーン?お前の婚約者は堂々と浮気しているのにか?」


(なっ!!)


エステルは目を見開く。

どうしてそんなことまで知っているのか。



「その顔では気づいていたか…まぁ、社交界では噂になっているからな」


「そのような」



平常心を保つ。

この若さでどこまで鋭いのか。



「兄上、エステル嬢に失礼ではありませんか」


「俺は事実を言ったまでだ…」


「殿下?」


クロードの視線が変わり不思議に思う中、誰かが近づいて来る。



「お姉様!」


「エステル…っ!!」




ヘレンとカルロが現れた。


しかも二人は腕を組み、まるで仲睦まじい恋人のようだ。




「何あれ」


「ええ」


ミシェルとエドワードは冷たい目で見ていた。



「姉の婚約者と腕を組むとかないわね…しかもあのドレス」


「やたらとごてごてしてますね」





フリルが沢山使われ胸元や腰元にもリボンをあしらい。

頭には大きすぎる髪飾りとやり過ぎだった。



「妖精姫じゃなくて妖怪の間違いですわ?」


「…言ってはいけません」



聞こえたら厄介なので急いで咎めるエドワード。



「久しぶりだね」


「ええ、ご無沙汰しております」



カルロに淑女らしくほほ笑む。



マチルダの言葉を思い出す。

貴族の令嬢はいかなる時も笑顔でなくてはならない。



「邸が燃えて君が逃げ遅れていたと聞いて心配していたんだ」


「本当にカルロ様はお優しいですわ」



((はぁ?))


ミシェルとエドワードは耳を疑った。



「君が熱を出し、夜会に来ていないと聞いていたんだが…まさか邸に火を放たれるなんてね。災難だったね」


(こいつ本気で言っているの!)


(ありえない…)


ミシェルは内心で激怒しエドワードも配慮のかけらもないカルロに呆れた。



「でも、いきなりお祖父様がお姉様をしばらく療養させると聞いて驚きましたのよ」


「婚約者の僕にも少しぐらい相談してくれてもよかったんじゃないか?」


「そうですわ。二人で心配していましたのよ」



二人でという言葉が引っかかる。



「心配って…見舞いにも行かなかったなんて薄情ね」


「え?」


「それに火事があったのは随分前なのに何してたのかしら?」


ミシェルがヘレンを睨みつける。

アルスター家が火事で全焼してしまったことは一年近く前で今更だった。



ただ、その邸に取り残されていたエステルがどうなったかは詳しく知らされておらず風の噂では怪我をして邸に引っ込んでいると聞かされた程度だった。



当時姉と一緒にミシェルは気の毒に思った。

社交界ではアルスター伯爵夫妻が妹の方に肩入れし過ぎて姉を蔑ろにしている噂はよく耳にしていた。



他人事であるが姉が辛い思いをしているのをみて見ぬ振りをしているなら妹はかなりの性悪で、気づかないのであればどこまでも愚かなのだろうかと思っていたが‥‥



(馬鹿だったのね)


救いようのない馬鹿だと判断した。


ミシェルの言葉に対してヘレンは少し怒り気味に告げる。


「熱を出したお姉様が悪いのですわ」


「アンタ、姉を心配する気はないのね?姉が死んでいたかもしれないのに」


「そんな大げさな…」



ヘレンの言葉にエドワードは怒るのを通り越してあきれ果てる。

何故こんなことも解らないのか。



「失敬だぞ!」


「おやめくださいお二人とも。公衆の面前です。」



ミシェルとカルロが怒鳴り合いをする中、止めに入る。



「他の方が見ていますわ。体調管理を怠った私の責任ですわ」


「だからっておかしいわ。妹のくせに姉の変化に気づかないとか…そんなの姉妹じゃないわ」


「ミシェル様…」



貴族の務めとしてパーティーに参加するのは解るが病気の娘を一人で残してくるなんて普通はありえない。


「ありがとうございます。嬉しいです」



「は?勘違いしないでよね!私はアンタの為に言ったんじゃないわよ」


真っ赤になって反論するミシェルは怒鳴り散らす。



「それでも、そんな風に気遣っていただいたのは初めてですわ」


「フンッ!」



素直になれないミシェルはそっぽを向くも本当に怒っているわけではなかった。



初めて見るエステルの笑顔にカルロは驚くもその隣にいる二人に気づきさらに驚く。


ヘレンも気づき声をかける。



「もしや、お二人は…王太子殿下にクロード殿下ではありませんか?」


「お初にお目にかかります。妖精姫のヘレン嬢」


「お目にかかれて光栄です」


頬を染めるヘレンは急いで挨拶をし、クロードにも目を向ける。



「お二人にお会いできて光栄ですわ!特にクロード殿下には先日お会いして…」


「は?会ったか?」


「え?」


興奮するヘレンに眉を吊り上げる。



「そもそもお前がエステルの妹だったのか?名前はなんだったか…」



本気で悩まし気な表情をする当たり意地悪でも何でもないのだが、その発言を咎めるカルロだった。


「失礼ではありませんかクロード殿下」


「俺は興味のない人間まで覚えていない」



その注意をバットで殴り返すように言い放つ。

クロードは政治的関係者の令嬢の顔を覚えていてもそれ以外の令嬢を覚えていないし、社交界での妖精姫には一切の興味も魅力も感じていない。


美しいだけの令嬢など星の数ほどいるので見飽きているのだ。



(興味がない…)


ヘレンは生まれて初めての屈辱を味わった。

夜会で会って一週間も過ぎていないのに忘れられたなんてこれ以上の屈辱はない。



「無理ありませんわエドワード様、一々覚えているなんて無理ですわ」


「その他大勢の令嬢まで覚えていられるか」


まったく興味がないと言われさらに傷つくヘレンだったがクロードは気にすることもなくエステルを愛でる。



「目の前に一輪の薔薇が咲いていれば余計にな」



「エステルは百合です」


「いや、薔薇だろ?」



ヘレンを無視ししてエステルを取り合う二人に絶句するカルロ。


婚約者の存在を一切無視している。



「殿下!彼女は…」


「何だ?まだいたのか」



遠まわしに邪魔だと追い払う。



「エステルは私の…」


「そろそろダンスの時間だな?エステル俺と踊ってくれ」



ワルツが聞こえ、ペアを組み始める男女は踊り始める。



「何を…」


婚約者であるカルロを差し置いて普通はありえないのだが、クロードは手を差し伸べる。



「お前のファーストダンスを俺と踊って欲しい」


「‥‥はい」



「エステル!!」


批難するカルロだったがクロードが告げる。



「妹と踊ればいいだろう?エスコートしていたんだしな」


「クロード殿下、姉はカルロ様の婚約者ですわ」


「俺はエステルと踊りたい」



これ以上は許さないと言い放ち二人はその場に立ち尽くすしかなかった。


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