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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
13/53

13音楽の祝福

どんなに辛い時でも傍に音楽があった。




悲しみも喜びもすべて音楽に捧げて来た。

投獄されてからはバイオリンに触れることは許されなかったが、心の中で奏で続けた。



(私の音楽…)


何一つ儘ならなかったが音楽をしている時だけは救われた気がした。



(私は音楽が好きだった…音楽が私を生かした)


夢も居場所も愛すら失ってしまったあの日。


婚約者に裏切られ皮肉にもカルロとヘレンの婚約式で永遠の愛を誓う曲を演奏させられた時、どれほど傷ついたか解らない。



それでも、バイオリンが救ってくれた。



(だから今度は私が)



音楽で人を幸せにする番だと思った。



その想いが音となり喜びの音色を奏で始める。



曲は春の歌。

その曲の情景が今ならば良く解る。



苦しみ続け哀しいメロディーを奏でて来た。



でも、今は違う。


(温かい…)


隣で支えるように演奏するクロード。


低いチェロの音が全体を支え。


華やかなフルートの音色は春を呼ぶようでとても温かく感じた。



楽器は演奏者の心を映し出す鏡。

エステルは今、心から幸せを感じながら曲を表現していた。


寒い冬を耐え忍び春が訪れる。



(なんて心地いいの…)


ミシェルは心が満たされていた。

今までアンサンブルを組んでも物足りなさを感じていた。


演奏者のレベルが低く、思う存分奏でることができなかった。


だからアンサンブルは極力参加しなかった。

他者より演奏レベルが高すぎる所為で合わせるのが難しく他人に同じレベルを望むも反発の声しか帰って来ずオーケストラをクビになった。


本当はアンサンブルが好きだった。


(思い出したわ)


幼い頃初めてアンサンブルした日のことを。


自然に囲まれた場所で領民の為に両親とアンサンブルを組んだことを。



(忘れていたのね)



音楽は人との絆を結び、隔たりはない。


種族も越えて一つになれるのだと。



エドワードも同じだった。





演奏しながらエドワードはとても幸せだった。



何時も孤独を感じ一人ぼっちのエドワードは王太子という立場が重荷だった。


根が優しく王になるには甘すぎると大臣にも咎められ敬愛する兄と少しでも仲良くすれば咎められ、陰ではクロードが悪く言われているのを聞くたびに傷ついていた。



大好きな兄が自分の所為で傷ついている。

誰よりも王の器に相応しいのに、本当は兄が王となりサポートに回りたかった。


兄を誰よりも愛していたからこそ争いたくなかった。


なのに、周りはクロードを排除しようとしている。

まだ幼いエドワードにはどうすることもできず、そんな弱い自分が嫌だった。


一人で部屋にいる時、心を慰めてくれたのは兄のバイオリンだった。

昔は眠る前によく弾いてもらった。


(思い出した…僕は)



一緒に演奏会に出たかった。

クロードのバイオリンに乗せてチェロを弾きたかった。



(不思議だな…遠い兄上が近く感じる)



言葉を交わさなくても身近に感じることができる。


エドワードはこの一瞬を大切にした。




(本当に驚かされるな)



二人の演奏をより輝かせているのはエステルのバイオリンだった。


クロードはエステルの心の闇に気づいていた。

音楽を愛し支えとしているエステルがどんな思いでバイオリンを弾いているのかは解らないが葛藤は解る。



エステルとクロードは正反対の立場だった。


第一王子でありながら王位継承権を持たないクロード。


伯爵令嬢で跡継ぎでありながらも両親から冷遇されて来たエステル。



クロードは演奏会で初めて見た時からエステルに興味を持っていた。


跡継ぎ候補でありながら日陰にいるエステルが気になった。



サロンで声をかけ一緒に演奏した。


(俺の読みは当たったな)



一度だけの音合わせで気づいた。


エステルは音楽の祝福を受けた者だと。



ミューズに愛された少女ではないかと。



(本物だ)




クロードは人を見る目を持っている。

エステルの可能性に誰よりも早く気づいていたからこそ思った。



(このままカルロにくれてやるには惜しい)



演奏しながらもエステルを見詰める目は情熱的だった。


(カルロはこの花を散らしてしまう)



美しく咲き誇る前の蕾を摘んでしまうかもしれない。



(あの馬鹿にはエステルは聡明すぎる)


血筋、家柄、教養すべてを持っているエステルだったが、誰もが絶対必要なモノをエステルは持っていない。



(フッ…欲しいなら奪うまでだ)


どこか寂し気な横顔をするエステル。


その瞳の先は何を見ているのか解らないがクロードは欲しいと思った。




欲しいものは自分の手で掴むのが流儀だった。

それが人のモノであってもクロードは諦める気は無い。



(エステルが欲しい)



当初は奪うつもりはなかった。


だが、カルロは目の前の宝石を捨てたのだから。



エステルの価値に気づかない馬鹿な元両親も妹も婚約者も本当に愚かだと思いながら笑みを浮かべる。



気づけば演奏に聞き惚れる貴族達。

そこには驚きながら演奏を聞いているヘレンとカルロもいる。



(馬鹿な奴)


今更後悔しても遅い。



もう返してやるものかと笑みを浮かべながらクロードは決めた。




エステルを奪うことに。






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