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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
11/53

11王太子殿下

柱の影からひょっこりと姿を現す一人の少年。



(見つけた)



品のよさそうな立ち振る舞いの少年は演奏をこっそり聞いていた。



(彼女だ…)



少年はエステルをじっと見つめていた。


「何を見ていらっしゃるのですか?エドワード様」



通りかかったマチルダが声をかける。

マチルダは現在王太子の家庭教師を任されているが、二人の乳母でもあった。


今更ながらに思うのは、同じように教育をした二人なのにどうしてこうも違うのかという謎だった。


「マチルダ」


「ああ、エステル様が演奏されていらっしゃいますのね」



エドワードの視線の先を見ると、エステルがミシェルと一緒に演奏しているのが解る。



「でも珍しいですわね。あの方が他の方と一緒に演奏なんて」


ミシェルは社交界では浮いた存在だった。

男なのにオネエ口調なのをおかしいと馬鹿にされていた。


そんなこともあってか、ミシェルは一人で行動することが事が多かった。



「ミシェルの演奏は素晴らしいけど…彼は他人と合わせることができなかったからね」


「でも、エステル様とは綺麗に奏でていますね」


「うん」


二人の音色が合わさり美しく奏でられる。


「素敵だな」


「エドワード様」


「あんな人を婚約者に持てるカルロが羨ましい」



エドワードは遠くから見ることしかできない。

傍に行き、言葉を交わせばあらぬ憶測を生み迷惑がかかると解っているからだ。



「僕も一緒に演奏したいな」


「殿下…」


寂しそうに見つめる王太子殿下、エドワードを見てマチルダは歯がゆく感じる。



エドワードは王妃と国王の間に生まれた王位継承者。

片や、カルロは王族の分家筋だが、その二人には決定的な違いがある。


正妃の産んだ子供でなければ王太子にはなれないのだ。


カルロの母親は侯爵夫人であるが正妃ではなく側妃という立場にあり、エドワードとカルロの関係はあまり良くなかった。


正妃の子と側妃の子だけの問題ではなく。

後見人同士もいがみ合っているので下手に声をかければ糾弾されるのはエステルになる。


それだけは避けたかったのだが…



「兄上?」


曲が終わったと思えば、エステルに接近する一人の少年に真っ青な表情をする。


「あの方は!」


「何をなさっているんだ…こんな、公衆の面前で!」



堂々と演奏家の輪に入るクロード。



「おい、お前もこっちに来い。エドワード」


「えええ!」


「まったく」



自由過ぎる兄にエドワードは慌てふためく。



「しかし…」


「何だ?さっきから眺めていただろ?声をかけたいならかければいいだろ」


(…同じ兄弟と思えませんわ)



マチルダは常日頃からこの兄弟は極端だと思っていた。


腹違いであってもここまで性格が真逆なの珍しい。



「王太子様…」


「俺の弟も乱入だ。いいか?」


「もちろんでございます!!」


速攻で返事をするミシェルは憧れの人が傍にいるので舞い上がっている。



「初めまして。エドワード・フォン・アルカディアです」


「エステル・アルスターでございます」



初対面なので挨拶を交わすが、エドワードは一方的に知っていた。



「兄が申し訳ありません」


「気にするな」


(だから、どうして貴方が言うのですか)



気にすべきはクロードなのに本人は気にすることもなくとにかく図太かった。



(本当に血の繋がった兄弟かしら?)


失礼だと思ったが、本気で思った。



演奏を終え四人はサロンでお茶をすることになったが、この面子でお茶なんて落ち着けるわけもなく味が良く解らない。



「はぁー…なんて麗しいのかしら」


ただ一人、ミシェルだけはクロードとエドワードに見惚れ夢見心地だった。



「先程の演奏、本当に素晴らしかったです」


「ありがとうございます」


嘘の無い優しい笑顔を向けるエドワードは前世と変わらない。

社交界では孤立していたエステルだったが、エドワードは偏見を持たずに接してくれた。





『とても素敵な演奏でした』



音楽好きのエドワードは演奏会に参加することが多く、顔を合わせる機会があった。



誰にも認めてもらえなかったエステルに告げられた一言は、社交辞令であっても嬉しかった。



(お変わりないのですね…)


優しい笑顔も、相手を労わる気遣いも。



何一つ変わらない。


(でも…)



優しい王太子の末路を知っているエステルは胸を痛める。

国民を心から愛しみ国を愛している王太子は望まない争いに巻き込まれてしまう。


(どうしてなの…)



エステルはエドワードを尊敬していた。

だからこそ前世での出来事は許せるものではなかった。



「どうなさいました?」


「いいえ、なんでもありません」



笑顔を浮かべ応えるエステルはただ、過去の記憶に胸を痛めるのだった。




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