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とある公爵令嬢の生涯  作者: ゆう
巻き戻った時間
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プロローグ

伯爵令嬢のエステル・アルスターは報いだと思った。



愛情を望んでしまった。

幼い頃から両親は愛してくれず、妹だけを愛した両親。


美しい金髪に翡翠色の瞳に白い肌。

誰もが妹の美しさに焦がれ愛していた。


対してエステルは跡継ぎとして厳しく育てられどんなに努力しても認められなかった。



「貴方はヘレンの姉なのよ」


「姉が妹に劣るとは!」



常に努力をして来た。

寝る間も惜しんで努力を続けても見てもらえない。



幼い頃から虐待まがいな教育を受け、ついには体を壊してしまったが、両親は冷たかった。



「体調管理もろくにできないとは…罰として今日は反省していなさい!」


母親から厳しい言葉を浴びせられ、部屋に閉じ込められた。

その日は舞踏会に行く日だったがエステルは置き去りにされてしまった。



エステルは自分の努力が足りないのだ。

もっと頑張らなくては。


もっと…


もっと…






「エステル、君は十分頑張っている」


一人で苦しんでいるエステルを励ましてくれた婚約者のカルロのことを慕っていた。


親同士が決めた婚約者であったがエステルはこんな自分に優しくしてくれるカルロに恥をかかせないためにお稽古に励むようになった。



その努力の甲斐があってか、学校では常に首席だった。

特に優れていたのは音楽の才能だった。



アルカディア王国では定期的に音楽祭を催されている。

王族は音楽をこよなく愛していたので貴族、平民であろうと音楽の教育に力を注いでいた。


貴族の令嬢や令息にとって楽器は嗜みの一つとされていたので、エステルも幼い頃から音楽をしており特に才能があったが当初はピアノを弾いていたのだがヘレンがピアノを始めて他の楽器を勧められた。



代わりに父方の伯父夫婦がヴァイオリンをしないかと勧められ。

それ以降ヴァイオリンを愛用して演奏するようになったが、楽器を弾くだけでは物足りず作曲をするようになった。






この国では曲をプレゼントすることは愛情の証だった。

エステルは素敵な曲を作りカルロに送ろうと決めていたのだが‥‥



そんな思いは裏切られることになる。



「ヘレンとカルロ様が恋人関係になった。お前との婚約は破棄とする」


「政略結婚である貴方よりも思い合っている二人の方がいい関係を築けるでしょう」


「お前には不釣り合いであったな」



この時頭の中から皹が入る音が聞こえた。


カルロに認めて欲しい。

喜んで欲しいと思って毎日毎日ヘレンが遊んでいる時やお洒落をして舞踏会に遊び行っている間も血のにじむような努力をして来た。



それが無駄になったのだ。



「エステル…話がある」


「カルロ様」


「君には俺よりももっといい人がいる。俺達は政略結婚だし…君の為でもあるんだ」


そう言いながらも心の奥から声がでかかった。



「ヘレンの方がいいんですね」


「エステル!」


「皆、ヘレンを選びます」



今までだってそうだった。

友人も使用人もすべてヘレンを選びエステルはヘレンのオマケ。



「そんな言い方をするんじゃない!」


「どうぞお幸せに」


責めるような目を向けられ。

婚約パーティーの日に二人の永遠の愛が続くようにと演奏をさせられた。



そして二人のスピーチを頼まれた時、すでに心が壊れそうだった。



「ねぇ聞きまして?」


「エステル様は婚約者を妹君に寝取られたんですって」


「まぁ、妖精姫と老婆姫では…ねぇ?」


社交界では晒し者になってしまった。

居場所を無くしたエステルだったが、不幸は続いた。



跡取りだったエステルだったがヘレンとカルロが婚約関係になりエステルは微妙な立場となった。


婚約者を奪われた姉に対して両親からは常に二人の仲を邪魔しないように言われ、事あるごとに両親はエステルに心無い言葉を吐く。



些細な口論があればヘレンを苛めていると受け取られ、妹の暗殺を企てたと疑いをかけられ、罪人として投獄された。



本来ならば国外追放か、修道院行きだったのに罪がもう一つ追加された。


王族の晩餐会に用意されたワインに毒が発見された。

薬と一緒にエステルのハンカチが見つかったことで容疑がかかったのだ。



誰かが仕組んだのは明白だった。

けれど、これ以上騒ぎを起こしてしまったら祖父母や伯父夫婦に迷惑をかける。


ならば貴族の令嬢として立派に果てよう。



生き恥を晒すこともなく最後に――



「ヴァイオリン…」


苦楽を共にした相棒に触れたかった。



そう思いながらこの世を去った。



はずだった。




「エステルお嬢様!大丈夫ですか!」



肩を揺すられ目を覚ます。



「お嬢様!」


目の前には乳母のセレナがいた。

隣には護衛騎士のクニッツも一緒だった。


「ゲホッ!どうして…」


「お嬢様が夜会にいらっしゃらず心配になって来たんです!急ぎましょう」


訳が分からずセレナに抱き上げられ邸から出る。

放火により邸は燃えて行く。



この事件には覚えがある。



(これは私が10歳の時の!)


よく見ると自分の体が小さくなっている。



「奥様も旦那様もあんまりですわ!病気のお嬢様をほったらかしにして…死んでいたかもしれないのに!」


「とにかく場所を移りましょう」


怒るセレナとは反対に冷静なクニッツと極端だったが、ここでハッとなる。



「待って…行くならお祖父様のお邸に」


「え?」



朦朧とする思考を巡らせ思い出す。

あの時、二人はエステルを助け出した所為で両親に咎められ暇を出されただけでなく勝手な真似をしたということで罰を与えられたのだ。



(ダメ…二人を守らないと!)



一体どうなってるか何て解らないけど。

ただ今しなくてはならないのはこの二人を何が何でも守ることだ。


その為にも祖父母に助けてもらうしか方法はなかった。








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