洗脳
私は自分のことが嫌いだった。コンプレックスの塊で、劣等感の塊だった。
男友達が一人だけいる。私は彼によく、
「自分のこと好き?」
と聞く。彼はいつも、
「好きだよ。」
と言う。そう答える時の彼の顔が、堪らなくかっこいいのだ。だから私は、答えを知っていても彼に会うたびに同じ質問をする。自分のことが好きな彼のことが、私も好きだ。
私は恋人にも、
「自分のこと好き?」
と聞いた。恋人は少し悩んで、
「好きかな。」
と言った。その顔もまたかっこよかった。なぜ悩んだのか聞くと、
「好きか、大好きかで迷った。」
と恋人は答えた。私の恋人は最高だと思う。
私は母にも、
「自分のこと好き?」
と聞いた。母は
「好きではないかな。」
と言った。
母は微笑んでいた。自分のことを好きではないことが正義であるとでもいうような、優越感を含んだ微笑みだった。
私は母のことが好きだった。母を好きでいることが正義だった。
私は最近、自分のことが少し好きになった。私は、あと一ヶ月で二十一になる。