第4話
最後の春になった。私が女子高生でいられる時期は、もう一年で終わりだ。親友と友人は心なしか目が赤い。
「兎みたい」
私はクリームパンを食べながら、ペットボトルのお茶を飲みながら、そうゆう事を言ってみた。
「あんたは私の兄と結婚するんでしょう?」
「まだ恋人のままで十分だよ。結婚は彼氏次第。求めれば応じるし、求めなければ、それで終わる」
「また格好つけちゃって」
「それがいい所じゃない」
「まあ、兄はもう絶対別れたくないって言っていたよ」
「マジで?嬉しい」
私は思いもかけない形で、彼氏の気持ちを教えてもらった。正直、親友と義理の姉になるのは、間違いなさそうだ。でも、プロポーズをしてくれるとは言ってくれなかった。友人は未だに私の最初の彼氏と関係が続いているらしい。
「浮気はしないの?」
「ちょっとだけ」
「どっちが」
「私だけ。というよりも彼氏の異性交遊は半端じゃないから、一応浮気現場を見つけてないだけかもね」
大人だ。この女はと、ついつい思ってしまった。割り切り方が私よりも遥かに高い。
親友は、浮気はしないが、長続きはしないようだ。その事を初めて打ち明けてくれた。もっと前に話してくれればよかったのに。
「飽きっぽいんだよね。3ヶ月すればすぐに別れたくなっちゃう。次の恋人候補を準備してから、別れを告げる。新しい男にキスしてから、それまで付き合っていた恋人と別れる事にしている。だから皆みたいに長続きするような恋愛をしてみたい」
絶対結婚できないなと親友を見ながら、そう思った。燃え盛る愛情はすぐに消えてしまうからだ。親友がマンネリを一番嫌っているのも、原因の一つだ。
満開の桜が咲いている。来年になったら、彼氏と二人でこの綺麗で淡い桜を見てみたい。そして、肌寒い肌を温めてほしい。もう一人で見るのが最後になる。そうなればいいと思った。朧月を二人で見たい。夜の10時に、ここで一緒に。
秋になり、もうすぐセンター試験が迫っている。私は暢気に店番をしている。彼氏は、後は頼むと言い残して、どこかへ出かけてしまった。一人きりで淋しいなと思っていたら、客が来た。私はおべっかスマイルで、「いらっしゃいませ」と声をかけた。
中年のご婦人みたいだ。
「娘の誕生日に何か洒落たものをあげたくて。何がいいかしら」
私はタイで仕入れたアジアンテイストの渋い時計を勧めてみた。
「いいわね。これにしようかしら」
レジで代金を貰い、心の底から「ありがとうございました」と言って見送った。やはり売り上げがあると、店主ではないが、嬉しくなる。
卒業式を終えた。親友と友人は見事目標の大学に合格した。私は心から学生生活から去ってしまうのだなと、実感をした。二人は引越しの準備をしていて、私とは最後のお別れになった。最初に出会った印象や、学生時代の細やかな出来事。コーラス部での男と浮気した友人の暴露話。思い出がまた一つ追加された。三人で会う事はいずれ来るだろう。それまで、アドレス消さない。電話もメールも。変えたらメールで知らせる約束を交わした。「結婚式にも葬儀にも参加してね」
私は妙な言葉で別れのピリオドを打った。
桜が満開の近くの公園で、朧月を彼氏と一緒にもたれて観賞している。ベンチでしばらく、他愛もない事を話した。そして心臓の右心房が破裂しそうなくらい、久しぶりに心が燃えた。そこで、私たちはキスを交わした。
26歳の彼氏は、ずっといい男であって欲しい。おもむろにパソコン用のバッグの中から紫色の箱が見えた。
「もしよかったら、これをもらってくれないか?」
それは指輪だった。
「婚約指輪だよ。結婚指輪はまだ、踏ん切りがつかなくて。一年経っても、関係が変わらなければ、結婚指輪を買うよ」
「ありがとう」
私は泣きそうになりながら、婚約指輪緒を貰った。この先、この彼氏と結婚するか、どうかは完全に私の手に委ねられた。もう結論は出ている。
ずっと一緒にいるつもりでいる事を。一年後もこの朧月に見守られて、結婚指輪を渡してくれるかなと期待している。




