格ゲー男、転生を果たす!
ーーあるところに一人の男がいた。
男はゲームが大好きだ。特にアクションゲーや格ゲーが心から愛しているといってもいい程大好きだ。
その愛がどれ程のものかというと、ゲームのアクションや技を自分で再現しようとするほどだった。
勿論中には再現不可能な技もあるのだが、男はどうにかして自分で再現できる技は次々と修得していった。
時には自身の身体を限界まで鍛えたり、時には機械を頼って技のレパートリーを増やしたり、時には野生動物の動きを四六時中観察して動きをトレースしてみたり、とにかくあらゆる手段を使ってゲームの技や動きを再現していった。
そんな事を続けていると男は何時しか、知人によってその様子を動画投稿サイトに投稿され一躍時の人となった。
そこから男の人生は一気に充実していった。まず動画が話題となり、ゲーム会社からアクションの参考にしたいとオファーが来た。
男は二つ返事でこれを受けた。
続いてそのゲームが話題となり、そこからモデルになった男がいると聞いたテレビ局が男にテレビ出演のオファーを出した。
男は勿論二つ返事でこれを受けた。
その後、その番組をみていた有名な映画監督の目にとまり、次のアクション映画の主役をやってみないかと依頼された。
男は当たり前のように二つ返事でこれを受けた。
そして男が主演の映画が大ヒットし、その映画が日本アカデミー賞を獲得した。これにより男はバラエティやメディアで引っ張りだことなり、最終的に海外の番組出演のオファーまで来た。
男は以下略。
こうして男はただのゲーム好きから世界の誰もが知る超有名人へと変わっていった。だが男は本質を忘れた訳ではない。テレビや映画の仕事の合間に、ゲームの技を再現することを怠りはしなかった。
だがしかし、世界を震撼させた男はあっさりと死んでしまった。
死因はハッキリとしている。
ーー正月に食べただし巻き玉子が喉に詰まり、そのまま窒息死してしまった。
男の突然の事故死により世界は再び揺れる。嘆くもの、驚く者、呆れる者、その反応は様々だ。ただ人々が思うことは統一していた。
ーーもう彼を見ることは二度と無いんだなぁ。
ーーーー目覚めるのです。
………………なんだ?………………声が聞こえる。
ーーーー目覚めるのです。選ばれし者よ。
…………んん?なんなんだ?頭の中に声が響いてるのか?
ーーーー目覚めるのです。貴方は選ばれたのです。
…………また聞こえてきた。というかよく見たら何か目の前にピカピカ光ってる人がいる。声の正体コイツか、まぶしっ。……しかし目覚めろ目覚めろって言われるとあれだな。母ちゃんに起きなさいって言われて後五分って返した学生の頃を思い出す。よし、後五分寝るわ!
ーーーー目覚め…………起きろオイ。
何か急にぶっきらぼうになったなお前。解せぬ。
ーーーーいや、解せよそこは。こちとら何回もシリアス風に目覚めろ目覚めろって言ってんだろうが。なんだよ後五分て、お前それ一時間近く起きないパターンだろうが。
よく解ってるじゃないか。そのとおりだよ。という訳で二度寝するわ。
ーーーーいやだから起きろって言ってんだろうがよ。しまいにゃ地獄行きにすんぞテメェ。
地獄とはまた穏やかではないな。まるで自分が閻魔や神様みたいな言いぐさだな。偉そうな。
ーーーーそうだよ、そのとおりだよ。私神様。偉そうじゃなくて偉いんだよ。
……はっはっは。神様?
ーーーーイエス。アイアムゴッド。
そうかそうかきっと俺はあれだな。夢を見ているんだな?でないといきなり自分の事神様とか言っちゃう頭おかしいのと会話したりしないって絶対。よーし早く夢から覚めなきゃ。さーめろさーめろ。
ーーーーまじでコイツ一回地獄いかせたろか?神様侮辱罪とかでっち上げて。
でっち上げるってなんだよ!?明らかに冤罪じゃねえかふざけんな!大体『私は神です』とかどっかの探偵みたいにいきなり名乗られても、『えっなに言ってんのこいつ?』ってなるのが普通だろうが!そもそも何処だよここは!?俺今どうなってんの!?
ーーーーやっと今の自分の現状違和感持ったかお前。取り敢えず結論から言うぞ。お前は死んだ。すげえあっさりとな。
死んだって、お前!俺は……いや、覚えてる。自分が死んだ時の事。あの忌まわしい悪魔の食べ物の性で俺は死んだ。
ーーーーそうだ。お前はブフッ、正月にだし巻き玉子をグッフフ、喉に詰まらせて死んだブアフフッ。
ちょくちょく笑ってンじゃねえよ自称神。
ーーーーいやだってお前、だし巻き玉子だよっ!?餅ならまだ解るよ?毎年結構それで死ぬやついるから。でもお前、ブフッ、だ、だし巻き玉子って、どうやって詰まらせたんだよアハハハハハハハ!!!
笑うなや!恥ずかしいだろうが!仕方ないじゃん詰まったもんはさぁ!!
ーーーーイヒヒヒヒヒヒ!あ~本当面白い。久々だわこんなに笑ったの。で、何の話だっけ?
ムカつくわコイツ……。ここどこだよって話だよ!
ーーーーあーそうだったそうだった。この場所ね。ここはお前らが言うところの死後の世界ってやつだよ。死んだやつは皆誰であれ必ず一度は訪れる場所。本来ならここで眠ってる間に魂が地獄にいくか、天国にいくかを決める。
死後の世界ねぇ。で?神様とやらは何でわざわざ起こしたわけ?
ーーーーそうそう、それが本題だよ。簡単に言うならお前は選ばれたんだよ。
選ばれたって何に?
ーーーー転生。
へー転生。……てんせい?転生って輪廻転生の転生?
ーーーーそうだよ、その輪廻転生だよ。しかもただの転生じゃないぞ?何と異世界転生だ!さぁ喜べ!
わーい。
ーーーーリアクションうっすっ!!?
いやだってなぁ……。異世界転生つったって俺よく知らねえし、正直ただのゲーマーだし……。
ーーーーお前、それ本気でいってる?異世界転生ってお前人類の夢だぞ?理想だぞ!?異世界で俺tueeeeしたり、可愛い女の子侍らせてハーレムしたり、現代知識生かして金持ちになったり、こんなチャンス滅多にないぞ!?
いやそれ全部生前叶ってるんだけど。
ーーーーそういえばそうだよっ!お前の場合人生イージーモードだったわすでにっ!!なんなんのお前っ!?実は既に異世界転生してこの世界に来ましたとか言わないよね!?
言わん言わん。つーか何で俺が選ばれたのかっていう疑問があるんだわ。転生ってあれだろ?早くに死んだ子供とか徳を積んだ人とかがやるもんで俺は別に対象外だと思うんだけど。
ーーーー割りと詳しいじゃないか。まぁ、正確には転生するための条件があってそれを満たしていたら転生することが出来るんだが、お前は結構特別……というか少し厄介な立ち位置なんだよ。
厄介ってなんだよ。
ーーーーまずお前は別に聖人ってわけじゃないし徳があるわけでもない。かといって子供って年でもない。けど信仰を得ているんだよ。
信仰?なんで?
ーーーー簡単に言うなら有名になりすぎたんだよ。別にただ有名になるなら別に問題無いんだけど、一部の人間にお前は英雄扱い、あるいは神格化されている。要するに熱狂過ぎるファンがついているってことだな。
マジかよ、照れるぜ。
ーーーー照れるなきもい。とまあそういった理由でな、お前は半分聖人扱いされたも同然な状態って訳よ。
それの何が問題なんだよ。良いことじゃねえか。
ーーーー大問題だ馬鹿野郎。まずお前はただの人間だ。ゲーマーで格ゲーの技とか覚えてるけど、英雄でもなければ聖人でもない。なのに信仰を得た。つまり、人でありながら偉業を達したということだ。
だからそれの何が悪いんだよ。
ーーーー別に悪くはないんだよ。ただ扱いが難しい。お前がさっき言った通り転生が可能な人間は限られている。お前も本来なら転生することはなかったんだよ。条件を満たしてなかったからな。ただ……
俺が死んだ後俺を持ち上げまくったやつらがいたと。
ーーーーそう、そのおかげでお前はギリギリ転生するための条件を満たした。でも正直かなりギリギリだったからな。元の世界に転生させることはもう出来ないんだよ。
えぇぇー!何とかならねぇのそれ!?
ーーーーならない。何度も言うがお前は別に転生する予定があったわけじゃないから前もって準備が出来なかったんだよ。
じゃあ俺はこのままずっとここにいるってのか?嫌だぞそんなの!
ーーーーだからこそ異世界転生なんだよ。
えーと、つまり?
ーーーー単純な話、元の世界がダメなら他の世界に送り込もうってこと。
適当すぎるだろ!それつまり在庫処分じゃねえか!
ーーーーまぁ、落ち着けよ。お前にとっても決して悪い話じゃないんだから。
……どういうことだ。
ーーーーお前の目的はゲームの技の修得だろ?
そうだが?そのために俺は人生の全てをかけてたと言っていいし、それのおかげで俺の人生は上手くいった。だから俺はゲームの技を再現し続ける。どれだけ実現不可能な技でもだ。
ーーーーそいつは素晴らしい。これからお前を送る世界はそんなお前にうってつけの場所、ファンタジー世界だ。モンスターがいれば魔法もある。武器だってより取りみどり!お前の好きなゲームがそのまま現実になったような世界なのさ!
ほう、それは確かに心引かれる。特に魔法は是非とも使いたいな。それがあるだけで俺の格ゲー技のレパートリーは倍以上に増える。
ーーーーだろう?加えて言うならお前の生前の経験や記憶はそのまま引き継ぐことになるからお前のゲーム技が無くなるようなことはないよ。
成る程そいつは最高だ。せっかく転生したのに赤ん坊からスタート、記憶も真っ白とか笑い話にもならん。こいつは嬉しい特典だ。
ーーーーそうだろそうだろぅ!わかってくれたなら……
しかぁぁぁし!!世の中そう上手い話が簡単に転がっている訳がない!!あるんだろうデメリット。さあ言えよ洗いざらいな。
ーーーー目敏いやつ。まぁ、デメリットって言うほどなのかはわからないけど、今のお前は魂だけの存在だ。異世界に送ったとして身体を手に入れることになるわけだが、それが人であるとは限らないんだよ。
つまりよくわからん生物になる可能性があると?
ーーーーそうそう。下手すりゃくそ雑魚ナメクジな生物になるかもだし、超ヤベェ怪物になることもあり得る。勿論人間になる可能性もゼロではない。
う~む、成る程なぁ。何に転生するかはギャンブルだって事かよ。俺としても異世界のヘンテコ生物になるくらいなら怪物になった方が絶対ましだし。いやでもせっかくの俺のゲーム技が全く生かせない生物になっても嫌だしなぁ。
ーーーーどうする?もし転生が嫌だって言うなら、何とかして天国につれてくけど。一応お前も聖人だし、対応はかなり良いものだよ?
いや行くよ?異世界。
ーーーーふぁっ!?さっきまで嫌そうだったのに!?
いやだってどうせ行けるならいくつもりだよそりゃ。俺のモットーは即断即決だからな。異世界の話が出た時から既に行くつもりだったよ。
ーーーーあ~だからお前、生前メディアの出演に二つ返事でOK出してたのか。怪しいと思わねぇの?
何かあったらそんときゃあそんときよ。いざとなれば『ストレートファイト』の主人公『タツ』さんの『サイクロントルネードキック』で飛んで脱出すればいいし。
ーーーーアレできるのおまえっ!?凄くね!?
人生かけてましたんで!
ーーーー限度があるわ!物理法則ガン無視じゃん!!あーもういいよ!とにかく転生はするんだな!?それでいいんだな!?
ええよ。
ーーーーはぁ……。何かお前と話してると疲れるな……。じゃあそろそろ行って貰うけど、最後に何か質問は?
別に無いけど……あっいやちょっと待て。これからいく世界についての情報が欲しい。
ーーーー世界の情報?あーつってもなぁ。私の管轄外の世界だからなぁ。よく知らんのだが……。よしわかった。お前が転生した時世界の情報が頭に入ってるように向こうの神と交渉してみるわ。
つまり全部向こうに投げると。OK把握。
ーーーー誤解を生むような言い方すんなよ、交渉だ交渉。駄目だった時は現地で調べろよ。調べられたらだけど!
まっ、精々人に生まれ変わるのを期待しておくよ。んじゃまぁいっちょ頼むわ神様よ。
ーーーーどうにも気が抜けそうになるな。まあいいや。それじゃあ早速転生して貰うぞ。覚悟は?
いつでも来い!
ーーーーいい返事だ。ならば、新たな人生を大いに楽しめ!!去らばだ!!
うおっ!光が俺を包んでまぶしっ!意識がーーーー
~???の間~
「あぁ……どうか私を赦して欲しい。一大決戦にお前を連れていってやれないこの私を……」
ーーぅううん……。なんだ?何処だここは?俺は確か神とやらから転生をされた筈。とすりゃここが異世界か?
「本当ならば、私はお前と共に行きたい。そしてお前と共に果てたい。……されど駄目だ。二度もお前を失うような真似だけは出来ない」
なーんかさっきからつらつらと独り言が聴こえてくるな。というかこれはもしかして俺に向かって喋ってる?取り敢えず回りを見渡してみると……うわっ何ここ。スッゲー辛気くさい場所なんですけど。まるで何かの祭壇のようだが、薄暗いし埃っぽいしジメジメする。
まぁそれはいいや。それよりも何か目の前にくっそイケメン&イケボの男が、「赦してくれ……」とか「恨んでくれ……」とか聴いててイライラしてくる懺悔ばっかしゃべってんだけど。
「此度の戦は難敵だ……。この私をもってしても勝てるとは限らない。だからこそ私は敢えてお前をここに置いていく。いつかお前を正しく扱う者が来ると信じて……」
……ははーん?察するに俺はコイツの子供、あるいはペットに転生したんだな?そして戦で死ぬかもだからこの祭壇に封印だの何だのして戦が終わるまでやり過ごして貰うと。
ーーそうはいくかぁっ!!封印されると判っていながらおちおちと封印される俺じゃないぜ!!ここから脱出した後、世界へと漕ぎ出す!そして己の技を高めて格ゲー技の全コンプリートを目指す!ファーハッハッハ!!そうと決まれば早速脱出よ!あばよ!暫定親父殿!
ーー俺は俺より強い奴にの所に行くっ!!
…………………………あれ?おかしいな?体が動かないぞ?フンヌゥ~!!フンググゥ~!!……だっ、駄目だ!全然動かん!!
というかあれ?俺足の感覚無くね?というか手の感覚も無くね!?
ーーというか五体無くねっ!?!?
「戦場にお前を連れていかない私をどうか赦して欲しい。
ーー我が愛剣アルザードよ」
『ぬうぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!』
ーー男は転生を果たした。しかし転生先は人間でも動物でもない。剣という無機物だった。
ーーふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!