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第五章

 再び国道に入り北上を続ける。そういえば空港を出たときは天気も良かったが心なしか雲が出てきたように思える。もう少し青空が多かったような。お昼に感動していて予想以上に時間が押しているのでとりあえず摩周湖へと車を走らせた。

 湿原道路を使ったこともあり釧路市街はまだ見てないが、レストランがあったところよりもさらにどんどん郊外感が増してくる。針葉樹林だろうか、とがった形の木々が街路樹のように並んでいる。その奥には進むたびに森が広がっていく。それでも変わらないのはまっすぐにずーっと伸びているこの道だ。まっすぐの道、遥か奥まで続いている中央線。等間隔に並ぶ電柱の近くには、道路の端っこを示す矢印のポールが立っている。雪が降る北海道では当たり前の光景らしい。道路が雪で見えなくなったとき除雪や通行する際の目印となる。

 しばらく走ればまた小さな集落があるのだろうか、交差点が近づいてきた。縦型の信号機はサーキットレースのやつみたいでかっこいいな。


 小休止がてら北海道らしい場所に車を停めてみた。それは「セイコーマート」だ。

 北海道シェア率ナンバーワンという北海道では知らない人はいないというコンビニで、道外からの観光客にもリピーターが続出するらしい。

 「いらっしゃいませー。セイコーマートヘようこそー」

 オレンジ色の外装とは裏腹に店内は普通にコンビニという感じ。でも置いてある商品が少し独特かも。道産野菜とか普通に置いてあるし。お菓子一つをとっても見たことの無い饅頭やスナック菓子もある。しかも安い。なんかスーパーレベルに安いものもあってとても驚く。おにぎりも定番の味から山わさび味というまさに北海道感溢れるものもある。

 「お、あった」

 ネット情報だがセイコーマートで欠かせない飲み物がある。「カツゲン」というこれは乳酸菌飲料なのだが他のとは違う美味しさらしい。とりあえずカツゲンとどらやきを手にレジへと向かうがもう一つ気になったのはホットシェフという店内調理した惣菜などの売り場だ。ローソンでいうところのからあげ君みたいなやつが美味しそう。明日あたりザンタレが消化されたら買おう。レジでお会計を済ませ、この先あと何回かはお世話になるだろうからポイントカードも作ってもらった。


 駐車場に戻りタバコに火をつけた。

 まだ昼過ぎだが密度が濃いなと思う。朝、羽田にいたときはここまで濃い旅になるとは思わなかった。道路にも感動するし食事も今のところ美味しいものばかりだ。はたから見ればただの傷心旅行だし「北海道行けてよかったな」で終わると思っていたが、それとは違うなにか別のベクトルのものが心にある気がする。それが何かはまだ判らない。

 いつもよりタバコの燃焼速度がほんの気持ち、遅く感じた。


 再びアクセルを吹かして北上をする。次第に谷のようなうねりくねった軽い峠道になってきた。右手に水辺が見えるたびについに摩周湖かとそわそわした。

 谷から今度は高原道路のような稜線を渡る道になってきた。すると駐車場の入り口が見えてきた。おじさんが誘導灯を振っている。ようやく摩周湖に到着したのだった。

 駐車場の前には大きめの売店がどーんと構えており、摩周湖はその向こう側にあるらしい。売店の屋上は展望フロアになっておりここから眺めるのが良さそうだ。

 階段を上るといよいよ摩周湖とのご対面。


 ――大きな湖。


 到着したときにはどんより雲が広がる摩周湖上空。まぁわかってたけどね。わかってたけどやっぱり悔しい。るるぶとは大違いなんですけどちょっと。

 とりあえずそれっぽい角度から写真だけ撮ってから売店に立ち寄ってみた。

 まぁせっかくだし先輩にまりもっこりでも買っていこうか。熊のTシャツも定番だけどいいかも。クッキーみたいな缶モノも給湯室に置いておけばいいか。と、お土産を買うと急に現実に引き戻される感触はあまり歓迎できなかった。



 摩周湖を出発し来た道を戻った。今日の宿泊地である帯広はまだ先だ。

 ショートカットもできたのだが、どうしても寄りたいポイントがある。ここは我慢だ。見覚えのあるまっすぐ伸びる道をひたすら南下していく。南下するたびに雲が流れてゆく。ということは摩周湖だけが曇りだったらしい。運が悪かった。雲のない空は気持ち良いドライビングを誘う。

 途中、さっきはチェックだけした交差点を鋭角に右折する。なんか砂利道っぽくダートになる道をもっと進むと現れる小さな喫茶店にはカップルが入っていく。車の数も少なくなってきた。穴場でよかった。

喫茶店をスルーし、もう少しだけ車を走らせると三、四台ほど停められるスペースが広がった。

 車を停め、近くに延びる遊歩道のような獣道のような坂を上る。滑り止めのウッドチップが滑りそう。

 ようやく上りきったところにある高台の展望台。



 どこまでも広がっている湿原。

 そこに落ち行く太陽。

 

 ゆっくりと空が焼けていく。薄紫からほんの少し黄色が入り次第に鮮やかな橙色へ。

 ただただ眺めてしまうほどに綺麗だった。

 比喩なんかではなく身体が吸い込まれていく。いろんな感情が夕陽に、夕焼けに溶け出していった。

 東京のビル群に沈む夕陽は、街の喧騒を見下ろす夕陽。

 今このとき包まれている夕陽は、それはとても濃い夕陽。


 思えば一粒だけ涙が出ていたかもしれない。




 獣道を下り車に戻った。暗くなる前にとりあえず国道までは出ないと北海道は危ない。太陽が沈んだ今、この道は獣たちのメインストリートになる。

 夕焼けが照らす道を戻ると喫茶店の敷地が見えてきた。店の明かりはまだ点いているがそろそろ閉店になるだろう。

 過ぎようとしたとき、ふと遠くの道端に人影が見える。どうやらさっきのカップルのようだ。駐車場から離れてどこへ行くのだろうか。



 すると二人はこちらを見ながらサムズアップをしていた。

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