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ある日、超能力に目覚めましたが、そんな事より彼女ができました。  作者: 明日栄作
第一章。彼女は、超能力と共にやってきた。
8/31

村川優花は、二度目の、最初の告白をする。

タイトルの通りです!


6部分の最後の方と話が繋がっている所がありますので、合わせて読んで頂けると少し分かりやすいかもしれません。


それからしばらくの間、俺達は映画の話やクラスメイトの話なんかをしては盛り上がっていた。


俺がやっとハンバーグを口にした時には、すでに冷えきっていた。


話す事に夢中になって、時間も気にせず喋り続けていた俺たちがファミレスを出ると、目の前のビル群から覗く空はもう夕焼けに染まっている。


「うーわ、もうこんな時間だったのか」


ポケットから取り出したスマホの画面を見ると、時間はもう午後六時を過ぎていた。


「そうね、それにしてもよくあんな話で、こんなに長いこと喋れるわね、驚きだわ」


と、村川がわざとらしいため息を吐いて、他人ごとのように言う。


「おい、なんで全ての非は俺にあるみたいに言ってんだよ」


自分もまあまあ熱く語ってたり楽しそうに目細めてたのに、よくもまあいけしゃあしゃあと言えたもんだ。


「そんなふうに聞こえたならごめんなさい。わざとそう聞こえるように言ったの」


「いや、わざとなら謝んないでくれるかな。余計イライラするだけだから」


「あら、そうだったのね。でも、出来ればそれ、私が謝る前に言って欲しかったわね」


そんな勝手過ぎる言い分を、村川は楽しそうに少しだけ口の端を上げて言っている。


「いや、というか、予知見てるんだから、お前が気をつければよくない?」


「知っているからこそやるんじゃない? こんな楽しいこと、二度も体験できるんだもの」


「そんな事ここぞとばかりに、ドヤ顔で言われてもなぁ」


クスクスと笑う村川とは対象的に、俺はげんなりしながらコイツの性格の悪さを再確認していた。


「でも、それだと悲しい事とか恥ずかしい事も二度体験しなきゃいけなくて大変だな」


「ま、まぁそうね。できるものは基本的に回避するけれど、できないものはそうなるわね」


軽い仕返しのつもりで言ったのだが、俺は村川の反応を見て、自分の言った言葉の無神経さに気づいた。


悲しい事も二度経験するって事は、別れも二度経験するって事じゃないか……つまり、どんなに強く来るなと願っても一歩一歩近づいて来る絶望から逃れられないって事だ。


「わ、わるいな。お前の気持ちも考えずに」


「え? 私の気持ちって……誠くんみたいな朴念仁が心の声も聞かずに、そんなものが分かると言うの!?」


どさくさ紛れにすごく失礼な事を言われたが、話が逸れるので、ここはそこの指摘はぐっと堪える。


「そりゃあ、悲しい事が二回も来るなんて、あんまりだろ」


「ああ、そっちのことね。それは大丈夫よ。その分、誠くんをいじめて発散するから」


そして俺は、もう一つの指摘への返事も聞こえないフリをした。


「それを本人に直接言われても反応に困るけど、それで村川の気が済むなら好きにしてくれ」


「へえぇ、良いことを聞いたわね。でも、安定して私、記憶力は良い方だから」


と、言って怪しく笑っている村川に、安心出来そうな要素は一つも見当たらなかった。


「そういえば、そろそろ帰らなくて大丈夫か?」


「そ、そうね。お互いここから家まで、少し時間がかかるからそろそろ帰った方が良いわね」


それに女子が出歩くにしては、あまり安心感のある時間帯でもないだろう。


「ああ、それに村川の家は門限とかないのか?」


「それは、大丈夫よ。うちの両親は興味ないみたいだから」


「へえ、まあうちも似たようなもんだな、別に何時に帰っても普通に「おかえり〜」って言われるし」


この時、村川の顔が陰って見えたのが、暗くなりはじめた空のせいなのか他の何かなのかを、俺が聞くことは出来なかった。


それからしばらくの間、俺たちは喋りながらゆっくり歩いてはいるが、さっきから村川は駅に向かっている様子がない。


いや、方向は駅の方に向かってはいるけど、歩く速さはさっきまでの半分以下に遅くなっている気さえする。


「なあ、おかしな質問と承知で聞くけどさ、どこ向かってるんだ?」


「ふふ、さすがの誠くんでも今回ばかりは疑問くらいは持てたのね」


いつもの事だけど、村川の返答は要領を得ない。


「よくわかんないけど、駅に向かってるにしては時間がかかり過ぎてるからな」


本当に、何度杖をついたおじいさんに抜かされたかわからない。


「どこにも向かってないのよ。まだ一つやり残してることがあるから」


歩道橋の上、前を歩く村川が振り返ってそんな事を呟いた。


「……そうか」


「誠くんにどうしても伝えなかきゃいけない事が、あるの」


そう言いながら、俺の目の前に立つと村川はそっと俺の耳から耳栓を抜き取る。


そして、自分の両手で俺の耳を塞いだ。


静寂の中で感じる村川の手の温もりが心地いい。


そんな事を思いながら、俺は村川が顔を真っ赤にして口を動かしている姿を眺めている。


「はぁ、ごめんなさい。時間をとらせたわね」


「ああ。全然全然、問題ないよこのくらい」


正直、俺は手を離された時何分そうしていたのかわからないほど、目の前の女の子の表情に視界の全てを奪われていた。


「やっぱり、どうしても気恥ずかしいわねこういうのは」


「あ〜それなんだけどさ」


「ごめんなさいね。今回はこんな方法になってしまったけれど、今度は、ちゃんと言葉で伝えるから」


「いや……だからさぁ」


「さっきからなによ珍しく歯切れがわるいわね? 申し訳ないけれど、こればかりは待ってくれないかしら」


「うん、そうしたいんだけどな。えっとなんて言うか……聞こえてたんだよな、村川の心の声が」


「……え」


「いや、だから待つも何も全部聞こえてたんだよ…………なんか、すまん」


自分でも知らなかったけど、俺の能力は“自分で耳を塞ぐ”ってことに意味があるようで、他人が塞いでも効果はないみたいだった。


「……死ぬわ」


俯いて身体を震わせていた村川が涙目になって呟いた。


「待て、一旦落ち着こう。な?」


「穴があったら入りたいとはこのことよ。だけど、穴がないからここから飛ぶわ!」


そう叫ぶと、村川は歩道橋の手すりに手をかけた。


「待てって! 」


さすがに、これは冗談でも笑えない。


俺は咄嗟に村川を羽交い締めにして、動きを止めた。


「ちょっと誠くん!? あなた、なにをしているの!?」


「そりゃこっちの台詞だよ! まだ返事もしてないのに早まってんじゃねえ! 」


「けど、違うのよ!  私が見た未来と違うの!  自分でもわからないけど、きっと意識のうちにしなくてもいいことをしたり、意識的にしなきゃいけないことができなかったのよ! ……だから、あなたの反応も違うの!」


数日前に、未来が変わって不安じゃないのかと聞いた時、そんな事は普通の事だと村川は言っていた。


だから、それを聞いた時俺は、村川は大抵の事じゃ動じない落ち着いた奴なんだなぁと思っていた。


でも、そうじゃなかったんだ。


村川はただ予知夢で事前に知っているからあまり顔に出さないだけで、わからない事や恥ずかしい事で、不安がったり照れたりする普通の女の子だったんだ。


「わかったから! 一旦落ち着けよ。じゃないとちゃんと俺も好きだって返事を出来ないだろ!」


「……え?」


俺がそう言いながら腕を離すと、村川はこちらを向いたまま固まっている。


「本当はもっとちゃんと言いたかったけど 、これ以上後だと今日は言えなそうだったからな」


「嘘よ、それは私を落ち着かせる為に、わざと私が食いつきそうなことを言ってるんでしょう?」


「俺も人の事は言えないけどさ、お前も本当疑り深いよな」


「だって、誠くん。こっちではそんな素振り一度も見せた事ないじゃない」


つまり村川の予知夢の俺はそういうのしっかりやれてた訳か。


「まあ、このタイミングで伝えたのにそういう狙いがなかったと言ったら嘘にはなるけれど、俺が村川優花を好きだっていうのは紛れもない事実だよ」


本当は、今日知った俺の能力の話を済ませてから告白しようと思ってたんだけどな。


あそこまで取り乱した姿を見たら、村川を安心させるのが先だって思ってしまってそれどころじゃなかった。


まあ、能力の話は後日折りを見て話すしかなさそうだ。


「うぅぅ、心の声が聴こえるくせに遅いのよっ! もっと早く気づいてフォローしなさいよ! この……変態!」


村川は溢れ出る涙を止めずに、嗚咽混じりの声で俺を責め立てていたが、その表情はどこか晴れやかだ。


まあ、変態ってのは腑に落ちないんだが。



それから村川が泣き止むまでの間、俺は特に喋るわけでもなく隣に立って、すっかり暗くなった街を照らすライトの群れを、歩道橋から見下ろしていた。


「じゃあ、もうやり残しもないだろうしいい加減帰るか? 疲れたし」


「あなたのそういうとこ腹立たしさを通り越して逆に安心するわ。それに疲れたのには同意よ」


それからは特に盛り上がる会話もなく、駅まで歩いて電車に乗った。


やっと地元に戻った俺達は、駅を出てお互い家に向かって歩き出す。


「一応確認なんだけど、もう私達付き合ってるのよね?」


二手に分かれた帰り道の真ん中、別れ際に村川がそんな事を言った。


「お、おお。俺も経験無いからよくわからないけど、そう思ってるぞ」


「そうよね。ごめんなさい変なことを言ったわ。じゃあ私こっちだからまた学校で」


「大丈夫、俺も気持ちは分かる。帰り道、気をつけてな」


俺達はそう言って、いつもの別れの挨拶をする。


そして、頬を朱色に染めた恋人へと手を振って、お互いの帰路へと弾んだ足取りで歩き出して行く。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

この作品に面白い所があったなら幸いです。

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