放課後のデート、夕焼けの下で重なる影。
どうも、明志多です。
この話は放課後デートをしようという話の続きで、
一応、第一部の終わりの話になります。
学校から駅までの道をしばらく歩いて、優花と俺は駅前の小さなクレープ屋に到着した。
最近オープンしたとあって、客足は行列が出来るほどではないしても、俺達と同じ放課後の買い食いで立ち寄る制服姿の女の子が、後からあとから注文をしている。
店員の女性はそんな客足にも慣れている様子だ。
テキパキと手慣れた手つきで、次々と注文品を完成させて、女子学生達に手渡していく。
そんな店員さんの動きに関心していたら、とっくに前の優花の注文は終わり、俺の番が回ってきた。
「あ〜このいちごのクレープを一つ下さい」
俺はカウンターのメニューを見て、少しの逡巡の後、一番無難だと思ったいちごがぎっしり包まれている物を注文する。
「かしこまりました。少々お待ちくださいね」
というと、店員さんに本当に少々の時間で、注文の品を渡される。
「毎度、ありがとうございます。デート楽しんで下さいね」
と、にこやか笑顔で言われてしまう。
俺は思わず、人見知りを発動して
「あ、ど、どもっす」
と、なんとも愛想にない返しをしてしまった。
店員さんはそんなこちらの反応を見て、微笑ましそうに笑っていた。
気まずくなった俺はすかさず目を逸らす。
これ以上、余計な事を言われる前に早歩きで優花の元へと戻る。
「誠くん、あなた何しているの?」
早歩きで戻ってきた俺に、優花は当然の質問をする。
「ちょっと店員のお姉さんに優しい目をされてしまってな」
「ごめんなさい、聞いてみても全然分からなかったわ」
「お、おう」
俺の伝え方が悪かったのか優花はとても微妙な表情になって首を横に振る。
「まあいいわ。クレープも買った事だし行くわよ」
「いや、どこにだよ? 座る所ならあそこのあるぞ」
俺は大きな木のしたを囲うように置かれている、影に覆われたベンチを指差す。
「ああ、それなんだけれど」
「どうした?」
足を止めた優花は、ベンチへは向かおうとせず
「実は私、もう一つ行きたい場所があるのよね。付き合ってくれる……」
「まあ、俺もここまでついて来て今さら
「……わよね」
と、やれやれといった調子で答えようとした俺の言葉を、優花が遮る。
「いや、最後まで言わせろや!」
「クレープは歩きながら食べましょうか」
優花は言うだけ言って、さっさと歩き出す。
「ねえ、せめて聞いて! おい、待てって、これ意外と不安定で走れないんだって!」
俺はクリームといちごがぎっしり詰まったクレープを片手に持っている。
その為、バランスを気にしながら少し間抜けな格好の早歩きで、前を歩いている優花を追いかけた。
★
行き先も言わずに歩き出した優花は、人通りが少なくなっていく代わりにカエルと虫の声が賑やかな田舎道を早歩きで進んで行く。
「おい、本当にどこ向かってんだ? こっちの方には特に何もないぞ」
「いいえ、逆よ。むしろこっちにしかない所に用があるの」
こっちの道の先にあるのは、だだっ広い田んぼと何もいなそうな浅い川くらいしかないと思うけどな。
それにしても、遮る物がほとんどないような田舎道を歩いてると、風が吹くたびに優花の長い髪が揺れて大変そうだ。
今も崩れた髪を両手で整えている。
ん、あれ?
「おい、優花。クレープどこにやったんだ?
」
俺は自分の右手にある、まだ半分ほど残っているクレープに視線を移す。
「どこにやったも何も食べ終わっただけなのだけれど?」
優花は当たり前の事のように言ってのける。
「早っ!?」
歩き始めて十数分の内に、もう食べきっていたのかよ。
甘いものは別腹というが、優花の場合は別空間に丸呑みにしてるんじゃないかと疑ってしまう。
「誠くん。もうすぐ着くから、それ早く食べちゃってね」
「なんで? 着いてからじゃ食べれないのかよ」
「ええ、それがあると邪魔になると思うわよ」
「じゃあ、なんでクレープ屋から先に寄ったんだよ。絶対間違いだろそれ」
文句を言いながら、俺はクレープの包装紙を剥がして、勢いよく頬張る。
口の中にクリームの優しい甘みといちごの酸味が広がって、物理的に口の中がクレープでいっぱいだった。
「ほら、目的地はもうすぐだから」
「あ……そういえばこれがあったっけか」
その時やっと、振り返らずに言った優花の向かう先の高台の上にそびえ立つ、古めかしい外観の時計塔が視界に入った。
「よくここまで気が付かなかったわね」
「俺も遠目に見たことがあるだけで近くまで来るのは、ほとんど初めてだからな」
「そうなのね。私は転校して来たばかりの頃は、この街の名所だったりするものと思ったいたけれど、違うのね」
「う〜ん、どうなんだろうな」
ぶっちゃけ、俺どころか父さんが生まれる前からあるって聞くしなぁ。
あるのが当たり前過ぎて、思い入れがある人でも無い限り、わざわざ訪れたりはしないかも知れない。
「まあ、目印にはなるとは思うけどな」
二人で喋っていると外側から見るよりも、あっさりと高台の頂上についてしまう。
目の前から見ると、もう首が痛くなるほど見上げないと文字盤を確認するのは難しそうな高さだ。
「私はずっと見えていたけれど、意外と遠くて驚いているわね」
高台の隅にあるベンチに優花が腰を下ろす。
「そりゃあ、放課後の寄り道としては割と歩いたしなぁ」
言いながら俺は、夕焼けに染められた優花の隣に座る。
「ねえ……最初に会った日のこと、誠くんは覚えてる?」
沈んでいく太陽を見つめていた優花がこちらを向いて、唐突な質問を投げかけてくる。
「ついこの前も話したしな。それに見ず知らずの女の子に『お礼を言いに来た』なんて言われた日のことを忘れるのは無理そうだな」
「それに友達になってあげるとも言ったわよね?」
「ああ、お前があの日来てくれたから、俺の学校生活は独りぼっちじゃなくなったんだもんな」
あの日、優花が来てくれなかったら、あと二、三日は孤独を抱えた学校生活を送ることになってた訳だ。
「実はあれね、逆だったの」
「ん?」
唐突な優花の言葉に俺は意図を理解できず首を傾ける。
「誠くんに会いに行く日の前の土曜日に、実は私、占いを見たのよ。『あなたにとって運命の出会いがある』って」
あの日の前の土曜日って事は、ちょうど優花が予知夢を更新する前日という事になる。
「そして日曜日に、眠った私はクラスで浮いていた私に、学校の案内をしてくれたり、お昼に誘ってくれる隣の席の男の子に出会う夢を見たの」
「俺が見ず知らずの転校生の優花を助けたって事か?」
なんだか信じられないけど、そっちの俺は凄く優しい奴だったのかな?
「ええ、誠くん『お前、毎日不安そうだな。俺で良かったら友達になるけど?』って目を合わせず言っていたわよ、ふふ」
その時の俺の醜態を思い出しているのか、クスクスと優花は笑っている。
「うわ、全然格好ついてないどころかありがた迷惑じゃん」
やっぱ、あっちでも俺は俺だったみたいだ。
でも、優花は俺の言葉に対して首を振って否定する。
「ううん、誠くんは心の声で私が能力者って気づいていたみたい。だから私達は能力者同士、友達になったのよ」
「それにぼっち同士な」
「ええ、それで、あんな占いの後にそんな夢を見たから私、気付いたら誠くんに逢いに行っていたわ」
「なるほどな」
だから、あの時の優花は妙なテンションだったのか。
「誠くんに素通りされた時は思わず泣きそうになったわね」
「い、いや! それは俺は悪くないだろ。その時は知らないんだし」
悪いことをした覚えは無いのに、優花の言葉に身に覚えの無い罪悪感が込み上げてくる。
「そうね。だから一生懸命説明して友達になってもらったわ。予知夢で出来た彼氏くんが友達になちゃったのは残念だったけれどね」
その少し寂しそうに肩をすくめる優花を、俺はどうしようもなく見つめる。
図書館の帰りに優花がしていた我慢の気持ちが少しだけ分かってしまった。
「でも、私が運命を信じるには十分な夢だったの。……誠くん。もう一度聞くわ。」
「なんだよ? 改まって」
「私は今、あなたにとって必要な存在に成れていますか? あなたの役に立てていますか?」
祈るように震えた声で言う優花が、キラキラと夕陽を反射する潤んだ瞳でまっすぐに俺を見つめている。
「役に立っているなんて、思うわけないだろ。優花は俺の道具じゃないんだから、優花には沢山、助けてもらってるよ」
本当、優花が居なかったらどれだけ寂しい日々だったか。
考えるだけでゾッとする。
「優花が居ない日常なんて、もう考えられないくらいだよ」
「嬉しいわ。誠くん出会えて私は、本当に嬉しいの」
俺の言葉を聞いて、優花の瞳から一つずつゆっくりと滴がこぼれ落ちる。
「ありがとうな、優花にそう言ってもらえると俺も嬉しいよ」
「じゃあ誠くん、今度こそ私の頑張りにご褒美をくれるかしら?」
泣きながらはにかむ優花は、それでもしっかりと報酬の催促をしてくる。
流石は我が彼女、抜け目がない。
「ご褒美って言うと、どっちへのだよって、気もするけどな」
そう言って、俺はいつかの帰り道で優花にされたように、優花の頬に手を添える。
「もう御託はいいから……」
それだけ言うと、優花は目を閉じた。
流石の俺も……ここまで待たせて、ここまで何もかもが揃っているような状況で、躊躇するようなことはしたくなかった。
ゆっくりと近づく顔に緊張が高まっていく。
人生でここまで顔を近づけた人間なんて果たして俺に居たのだろうか。
俺が触れた手から優花が震えているのが伝わってくる。
まあ、お互い初めてだろうし無理もないだろう。
俺は震える優花の頬から後頭部へと手を回して、ゆっくりと顔を近づけて目を閉じた。
二人の影が離れた後。
俺は、目の前に座っている潤んだ唇と赤くなった顔の優花を見つめている。
優花も俺から目を離そうとはしない。
おそらく、俺も同じような顔している自覚はある。
そんな満たされた気持ちで、見つめ合う空間の気恥ずかしさに耐えられそうにない。
俺は少しからかってやろうと優花の心の声に耳を傾けてみるが──
……幸せってやつは、どうやら声にはならないものらしい。
それから夕陽も沈み、オレンジ色の空が黒く染まって、家々の明かりで街が照らされていった。
その間、俺達は言葉は交わさなかった。
ただ、触れ合う肩と肩の温もりでお互いに幸せを伝え合った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
この物語を最後まで書けたのは、読んでくださる皆様と応援してくださった皆様のおかげです!
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本当にありがとうございました!
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