テスト期間の終わりは放課後デートの始まり。
どうも、明志多です。
この話はテスト回の続きにテスト返却の話です。
ほとんど、タイトルのまんまです笑
テスト期間が終わって三回目の、六月に入って最初の登校日。
朝の教室はすでに、いつも通りの騒がしさを取り戻していた。
その為、担任の長谷川先生が来る朝のホームルームまでの間、勉強をしようとする者などもう居ない。
居るのは週末のテレビで面白かった事や、昨日見つけたばかりの子猫や子犬の動画に可愛い以外の言語を奪われたクラスメイトの声で溢れている。
要するに、俺のクラスは平和を取り戻していた。
やっぱり、このくらいの方が俺個人としては快適だ。
先週までのクラスは教室の空気が妙にピリピリしていて、正直居心地が悪いというか嫌な感じだった。
まあ、前日までテストの存在自体覚えていなかった俺が、その空気に馴染める方がおかしいんだけど。
でも、ここで一つ言いたい事があるとすれば、まだテスト返却が終わっていないって事くらいか。
横で、こちらをずっと眺めている優花は余裕そうである。
そんな優花を見て、一部のクラスメイトが怨嗟の視線を向けてくる。
もう慣れてきたとはいえ、クラスでのそういう行動はやめてほしい。
黙っていれば、可愛いと言われても素直にうなずける子が転校早々付き合い始めた相手が……
クラスで目立ちもしない日陰者の俺とあっては多少良く思わないものも居るみたいだしな。
人気者にも意外な事に、俺と同じ日陰者の中にも。
今のところ直接危害を加えられたりはしていないが、学生の色恋沙汰は本当に大変だなと、今更ながら思っている。
元々ぼっちだったのだから、色恋の方もほっといてくれたりはしないだろうか。
とか、悩んでる俺と違って優花は気にしていないようだけど。
優花は俺を眺めるのにやっと飽きたのか、さっきからやっている復習の続きに戻った。
テスト返却の日に呑気なもんだなぁ。
あ、そっか、優花の場合、予知夢で自分のテストの結果を事前に知っているから、この余裕なのか。
「テストが終わっても、却ってくるまでは安心できないのがなんとも歯痒いな」
予知夢など見れない俺がなんとなく、現在の感想を呟く。
「自分が手持ち無沙汰という理由で、彼女の自習を邪魔するなんて、誠くんはさすが外道ね」
優花はペンを走らす手を止めて、大して気を悪くしてもなさそうに、こちらを向いて微笑んだ。
「確かに言ってる事は合ってるけど、そこまで酷い行いではないだろ!」
「外道はみんなそう言うのよ。あと語尾に必ずゲドーと付くわ、必ずね」
優花は大事な事なので、二回言ったらしい。
「お前はみんなって程多くの外道と関わってきたのかよ……」
そんなに外道に関わりがあるのなんて、ヒーローか悪の親玉くらいだろ。
コイツは間違いなく後者だけど。
あと、外道って自分からゲドーって言ってくれるの?
行動の割にずいぶん口元が親切だな。
「…………」
俺が言った言葉に、優花は何も言わない。
ただ自習をする手を止めて、俺の次の行動を試すような視線で見つめている。
「いや、言わねえよ?」
だって俺、外道じゃないし。
「はあ、誠くんもつまらない男になったゲドーね」
優花が長い綺麗な黒髪を大袈裟にかき上げてドヤ顔で言う。
俺は不覚にもその仕草に一瞬だけ、目を奪われてしまう。
「って、お前が言うのかよ!?」
確かに、割と彼氏への酷い言動が多いけど、自覚あったんだなぁ。
「だって、言わないと勿体ないじゃない」
「……うん、まあ頑張ったんじゃないか」
言ってる事は全く理解出来なかったけど俺はうなずいた。
顔を真っ赤にしてキャラにない事を言った、優花の勇気は褒めてあげよう。
「ええ、そうね。話は変わるけれど、今日の誠くんの運勢は最悪だったわよ」
優花は話題を変えるついでに嫌な事を言われた。
「腹いせに、さらっと俺の今日モチベーションを奪うのやめてくれ……」
「それで、ラッキーアイテムは──
と、優花が言いかけたところで
「よ〜す、席に着け〜」
と、担任の長谷川先生が気怠げな挨拶とともに扉が開いたままの教室に登場した。
日直の号令に合わせて、起立、気をつけ、礼を済ませて、朝のホームルームが始まった。
自分のラッキーアイテムは気になったが、それよりも言いそびれた優花のフグみたい顔になって俺を睨んでいた。
え、なんで俺が悪い感じになってんの?
それからは、いつも通りホームルームを終え自分の教科である現代文に向かう長谷川先生と、入れ替わりで入って来た先生の授業が始まる。
俺は答案用紙が却ってくる度に、安堵していた俺とは対照的に、優花は顔色一つ変えずに涼しい顔で受け取ている。
間違っていた所を担当教室が丁寧に解説しながら黒板に書いた答えを見て、自分が見違った所を少し直していく。
最後の間違いを直したところで、授業終了の鐘が鳴った。
挨拶を済ませて先生が廊下へ出たところで、クラスの空気が緩む。
一部机の顔突っ伏している生徒も見えるが。
窓の外を見れば、午後五時にしては外はまだ明るい。
これの授業で、テスト返却は全て終了したので、安心して気が緩んでも仕方ないかもしれない。
などと余韻に浸っている俺の隣の席で優花は、さっさと教科書などをまとめて帰り支度をほとんど済ませている。
今日は急ぎの用でもあるのかも知れないな。
そこに長谷川先生がやって来て、いつも通りやる気のないホームルームをして、クラス中が足早に帰路についていく。
「誠くん、私達も早く行きましょうか」
あれ? 用があって早く帰りたい訳じゃなかったのか。
まあ、いいけど。
「そうだな。ここに長居する用もないしさっさと帰るか」
支度を済まさせて先に歩いて行った優花を追いかけて、俺も長谷川先生の「おつかれ〜」という声を聞きながら、ビリっけつで教室を出る。
靴を履き、校門を出たところで、優花が俺の手首を掴んで足を止める。
「ねえ、今朝私が言いそびれた誠くんのラッキーアイテム聞きたいわよね?」
「え、別に。テストの点も平均点は超えてたし割と良い日だったぞ」
今更、運気を上げる必要もないしな。
「……聞きたいわよね?」
ニッコリと笑顔の優花が掴んだ俺の手首へと力を込めて言う。
「…………聞きたいです」
どうせ、ろくでもない事を言い出すに決まってるよなぁ。
しかし、この状況では優花が歩き出してくれないと俺も動けないので、素直にうなずく。
「誠くんの今日のラッキーアイテム、というのは……」
「というのは?」
優花は勿体ぶるように、少し間を置くので、仕方なく聞き返す。
さっさと言え。
「最もあなたが好きで、可愛いと思っている最愛の彼女が、誠くんの今日のラッキーアイテムよ」
「…………」
俺は胡散臭いラッキーアイテムの話をしている優花に疑いの目を向ける。
大体、それだと俺と同じ星座の男は彼女が居る事が前提になっちゃってるじゃん。
女性ならそれ以前の問題だ。
俺が言うのもなんだけど、そんな占い朝から希望も何もあったもんじゃない。
「あ、それとクレープもラッキーアイテムだったわ」
と、今思いついたように、優花は付け足す。
おそらく、今思いついたんだろうな。
「嘘でも、さすがに隠す気くらいは持て」
「そういうことだから、今から行きましょうか」
げんなりしている俺に優花が唐突に言う。
「ん? どこに行くんだ」
「誠くん、あの日の私達の約束を忘れてしまったの?」
「……あの日?」
俺は自分の記憶を掘り起こして優花との今までの会話を思い返していく。
思い返せば返すほど、自分の優花への寛大の対応を褒めてあげたくなる。
そんな思考の寄り道をしていると一つの約束を思い出す。
……あった。
そんな約束を、俺は優花が初めて我が家に泊まりに来た日の放課後の教室で、確かにしていた。
「あの誠くんが兄さんに、恋人であるにも関わらず友達だと名乗った日の事を忘れたの?」
どうやら、優花と俺のあの日の認識には若干のズレがあるようだった。
「うん、そんなに正確に出来事を説明しなくても思い出したから」
というか、完全に根に持たれていた。
「それはよかったわ。では、行きましょう」
と、優花は手首を握っていた手を俺の手のひらに持ち替えて歩き出す。
「へいへい、ついて行きますよ」
俺は観念して歩き出す。
まあ、約束していたのは事実だし、俺もまだ話し足りないと思っていた所だったので。
こちらとしても、放課後デートは願ったり叶ったりだったする。
これ以上ワガママになって、欲しいとは思わないので。
俺は微かに歌を口ずさんで歩いている優花の隣を、やれやれという体を装って歩く。
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それでは、宜しければ、次回もお付き合いください。




