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テストは返却されるまでがテストです。

どうも、明志多です。


この話は主人公の(まこと)のテスト回の後の話になります。


どうぞ、読んでみてください。

俺の勉強ばかりの三日間の中間テストが終わり、二日間の通常授業を挟んだ後の週末。


とは言っても、テスト結果が気になって、もやもやしているだけの週末は、自室でやるゲームにも身が入らない。


ボタンミスの連続で、いつも少し苦戦する程度の敵にすら負けてしまう。


結局は五回中二回もやられてしまった。


そんな事をしているとあっという間に日が落ちている。


俺は眠気を押し殺して、先ほど言われた母さんの三度目の


「早くお風呂入ってよ、じゃないと安子ちゃんが入れないんだから」


という言葉に、俺は渋々風呂場へ向かった。


脱衣所に入ると俺は、もそもそと時間をかけて、服を脱ぎ捨てる。


が、母さんの小言を思い出し、床でくしゃくしゃになった服を洗濯機へと入れる。




綺麗になった身体で湯船に浸かりながらゆっくりしていると、ガラス戸の向こうに気配を感じた。


見てみると、人影がその場で座っている。


「お兄ちゃん、今日元気ないけど大丈夫?」


どうやらバス停まで迎えに行った時の俺は妹に心配されるほど、考えごとに夢中だったらしい。


「大丈夫だよ。テスト結果が気になって夜しか眠れないだけだ」


「夜寝れれば、十分睡眠は取れてると思うけど……」


ガラス戸越しに呆れたような安子(あんこ)声が聞こえる。


「俺はいつもは昼も寝るんだよ」


一体誰が、夜が眠る時間で昼を起きている時間と決めたんだろうか。


あんなぽかぽかした陽だまりに居たら、眠くならない方が太陽に失礼ってもんだろ。


「そんなんだからテストの結果で悩む羽目になるんだよ?」


少しだけ真剣のトーンで安子が心配してくる。


「うるせ」


「アレだったら、あたしが教えてあげよっか? 勉強」


「なんで高校生の俺が中学生のお前に勉強を教わらなくちゃならないんだよ」


せめて、教えを乞え。


「お兄ちゃんが、その中学生より頭悪いからでしょ?」


「いいんだよ! 勉強なんて出来なくても俺は困らないから」


「今、テストの事で困ってる真っ最中じゃん」


「ぐっ」


今まさに自分のそんな発言を後悔している俺は、言葉に詰まる。


「あーあ、咲ちゃんが居たらねぇ」


「なんでそこであいつが出てくんだよ……」


安子は未だにその名前をよく口にする。


姉のように慕っていた安子からしたら当然の事かもしれませんが。


「だってお兄ちゃん、よく咲ちゃんに勉強教えてもらってたじゃん」


「あれは、あいつが勝手に教えてきてただけで、俺が頼んだ覚えはないよ」


「あんなに楽しそうだったくせに」


「あーもういいだろこの話。そんな事よりお前は絵の方は上手くやってんのかよ?」


「うっ、そ、それこそお兄ちゃんには関係なくない?」


俺の質問に、今度は安子は露骨に狼狽(うろた)えて話を逸らそうとする。


まったくもって似た者同士だと認めざるおえない。


「そうだけど、父さん達がコンクールが近いって話してたから少し気になってさ」


「あたしが(それ)の事で、お兄ちゃんに心配されることなんて、一ミクロンたりともないから」


それだけは確固たる自信があるのだろう。


俺も美術部員の妹にそこまで言われては、これ以上この件に口を挟む事など出来ない。


なので──


「安子、俺そろそろ本当にのぼせそうだから脱衣所の外に出てもらっていいか?」


思春期の妹の手前わざわざ口に出したくはなかったけど。


このままだと妹に救出してもらう羽目になりそうなので、俺は仕方なく言葉にした。


「え、あっごめんね。お兄ちゃん」


そう言って、ガラス戸から人影が消えて、遠ざかる安子の足音が聞こえた。


「まあ、悩んでも仕方ないしのんびりするか」


結果はもう決まっているんだし、この休みくらいゆっくりしよう。


それから浴室で大きく伸びをして、脱衣所に出る。


「……扉を閉めろ」


そこには開いたままになった脱衣所の扉があった。


それによって、入り口からは廊下が丸見えで、リビングのテレビの音もはっきりと聞こえてくる。


「はあ」


俺は安子のわざとなのか、うっかりなのか定かではないミスにため息をしながら扉を閉めて服を着た。


自分の部屋に戻って、ゲームの続きをしようか迷ったが、俺はなんとなく小学生の頃から使っている馴染みの勉強机の前に座る。


そして帰ってくるなり置いたままだった課題を終わらせてしまう事にして、ペンを持つ。



二日後の日曜日は優花(ゆか)にお礼をしようと遊びに誘ったが


『お礼の件ならプランは考えてあるから大丈夫よ』


と言われた。


どうやら優花の中で、俺の聞き覚えの無い予定が進行中らしい。


そう俺が電話が口で考えていると、


『それから、お礼と言うなら軽く済まそうというのは今回は許さないから』


言うだけ言って、電話を切られてしまう。


やっぱり数日前の帰り道での言葉は本気だったらしい。


『身体で払うしか無いと思わない?』


俺は優花の言葉を思い出しながら、腹のあたりをさする。


いや、だから内臓(こっち)事じゃないんだけど。



予定がなくなってしまったので、俺は、安子の部屋の扉を叩く。


「あれ? お兄ちゃんあの女とデート行くんじゃなかったの」


部屋の扉を開けた安子が、不思議そうに尋ねてくる。


「ああ、フラれちまってな。安子が暇なら久しぶりにゲームでもやらないか?」


それはそうと、安子の優花への、あの女呼びはそろそろ本気で定着しそうだった。


「しょうがないなぁ、可哀想なお兄ちゃんの為にこのベスト妹賞を十四年連続受賞しているあたしが付き合ってあげる」


何やら初耳な賞の名前が聞こえたが答えはYESのようなので、よかった。


「おう、手加減はしてやるからな」



そして、数時間後。


さっきまで余裕は消え去り、初心者相手に連敗をしている男の姿がそこにはあった。


「お兄ちゃん、このゲーム弱いね」


安子が満面の笑みで言う。


「ま、まだ、本気を出してないだけだよ」


「あはは、五十連敗してもまだ本気出さないんだ。お兄ちゃん素質あるね」


「まあ、兄が妹に本気出すにはまだちょっと足りないかなぁ」


五十連敗の件に関しては、お前が勝つたびに勝利画面で、次のゲームを開始する選択肢を即座に選び続けているからだ。


くそっ! 完全に選ぶゲームを間違えた!


アクションゲームならまだこうはならなかったのに!


まさか安子がパズルゲームにここまで早く適応するとは……


「お兄ちゃん、このゲーム簡単だけど割と楽しいね!」


「ああ、そうかよ。それはよかったな」


安子の活き活きとした声とは対照的に俺の声はどんどん無感情になる。


妹の蹂躙は、あと何戦続くのだろうか……



その後、安子が百連勝に到達した所でゲームは終わった。


時計を見ると午後の八時を過ぎていて、安子はもう寮に向かわなければならない時間だ。


「あー楽しかったなぁ。ゲームでここまで熱中したの久しぶりかも」


さっきまでの自分の容赦なさを思い出したのか、安子は少し照れ気味で言う。


「寮はゲーム禁止なのか?」


「ううん。でも周りにやってる子もいないし、あたしも持ってないから」


確かに、昔から安子は家で勉強したり、やるとしてもオセロなどのボードゲームやトランプくらいだったからなぁ。


「気に入ったならこれ持ってけよ」


俺は部屋のその辺に置いてあった、今やっていたゲームハードの携帯機版のゲーム機を安子に渡す。


「これにも同じゲームが入ってるから向こうでの息抜きに使ってくれ」


「え、でもお兄ちゃんが出来なくなっちゃうじゃん」


安子は変な所で遠慮をしている。


もっと、遠慮してほしい所は色々あるというのに。


「こっちはあんまりやってないから平気だよ」


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて借りちゃおうかな」


「おう、これも忘れずにな」


と、やっと俺の手からゲーム機を受けとって安子に、充電器も忘れずに渡しておく。


「うん、ありがと。お兄ちゃん! またボコボコにしてあげるね!」


嬉しいそうに笑う安子にお礼ともにそんな事を宣言されたので、俺は微妙な笑顔になってしまう。


それから安子が制服に着替えるのを待ってから、俺達は両親に見送られてバス停へと向かった。


六月も間近なこの季節の夜の静かな大通りは、昼に比べて少し気温が下がりたまに吹く風が気持ちいい。


二か月前までの寒さも完全に過ぎ去り、とてもすごしやすい気温になっていた。


バス停に着くと、今日は時間通りに来ていたバスがすでに止まっている。


「送ってくれて、ありがとね」


着いているのだから、立ち止まる必要もないので、安子もすぐに乗り込もうとする。


「ああ、いってらっしゃい」


俺はバスのステップに片足を乗せた安子の背中に、言いながら小さく手を振る。


「うん、いってきます」


振り向いた安子は恥ずかしいそうにしていたが、小さく手を振り返してくれていた。



出発するバスを眺めながら、俺は明日のことを考えていた。


明日のテスト返却が終わったら、優花のお礼の事もあるだろうし、次に安子が帰って来たら今日の借りを返さなければ。


走り出したバスが三つ目の道を右折して見えなくなる。


その時には俺はもうテストの後の予定に頭の中が埋め尽くされていて、帰り道は自然と早足になって歩いていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます!


最近のテスト回書いてるとすごい懐かしくて、思わず若返りそうになりますね。


それではこの話が面白いと思って頂いた方には、ブクマ、ポイント評価などして頂けると、作者が喜びます!


それでは次回もお付き合いしてくださる方々は

またお会いしましょう。

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