お家デートを乗り越えた後のボーナスステージ(さらなる試練)
どうも、明志多です。
この話は引き続き、妹とのお出かけ回の続きでございます。
よければ、読んでください!
引き続き妹の買い物に付き合わされる事が決まった俺は、雑貨店でキーホルダーを見ている妹を横目に少し離れた場所でマグカップを見ている。
国旗の柄の物やよく知らない、もしかするとこのお店のかも知れない。
丸っこい謎のキャラクターがうつ伏せで寝そべっている物などがある。
その中で一つ俺が気になった物があった。
気になったと言ってもマグカップ自体のデザインはよく見るありふれた物だ。
以前の俺ならゆっくり見ていても目にも止まらぬようなデザインだろう。
そんなありふれた、置くときの向きによって左右の柄を繋げてハートが出来る。
見ようによっては折角作ったハートが一瞬で真っ二つになるデザインのマグカップを手に取る。
優花はこういうのを二人で買いたいとか思ったりするのだろうか?
普段は表に出さずとも意外とカップルらしさみたいな物を気にしたりするからな、優花は。
案外素直に喜んだりするかもしれないな。
「お兄ちゃん、なんでペアデザインのマグカップ見てんの? きもいよ」
いきなり話しかけてきた妹の兄の行動への感想はとても辛辣だった。
「俺も一様、恋人って呼ぶ関係性の奴が居るから、たまたま目に止まっただけなんだけどな」
「何言ってんのお兄ちゃんは、あたしの来い人じゃん」
「そんな呼ばれたらすぐ来る、召使いみたいな関係性の話は一切していない」
なんだ来い人って。
その言い方だと、どっちかっていうと「来い」と言うお前の方が来い人だよ。
「そんなことより、あっちに可愛いストラップあったから、来てきて」
「はいはい、行くから待ってくれって」
と来る人の俺はすぐに返事をする。
それから手に持っていたマグカップを、一瞬の逡巡に割り込まれてから棚に戻して妹の後を追う。
歩きながら、そんな自分のらしくなさに笑ってしまう。
「ほら、これ」
妹が手に持っていたのは、プラスチック製の淡いピンク色の勾玉のような形のキーホルダーだった。
「お前、本当にピンク好きだな」
「別にいいじゃん、可愛いんだから」
まあ、安子にしては大人しい方だとは思うから、いいんだけどさ。
「で、どう思うの?」
「まあ、いいんじゃないか? おしゃれとかは俺には分からないから、何の保証にもならないけど」
「お兄ちゃんがいいと思うなら、おしゃれかどうかは別にいいの」
「いや、どんな基準だよ。俺が言うのも何だけど、中学生なんだし身だしなみとか少しは気にした方がいいぞ?」
「あははっ、それほんとにお兄ちゃんに言われたくない。空から降ってくる雨に、泣いて顔濡らさない方がいいって言われたような気分」
「そこまでは卑下してはなかったよ!? 誰のダサさが自然現象なんだよ!」
ていうか、なんだよそのめちゃくちゃロマンチストな雨。
青空も星空も隠してる癖に格好つけてんじゃねえよ、早く退いてやれよ。
「はぁ、おなかいたい。ダサいのが自然とか、もうすでに不自然じゃんっ」
「それはもういいよ……さすがに笑いすぎだぞ? 妹よ」
なんなんだこいつ? 何がそんな可笑しいだよ。
もう安子のツボが浅いのか深すぎて、まだ俺には理解できない次元にでもあるのか?
妹が何で笑っているのか、さっぱり分からない。
「はぁはぁ、じゃあ、あたしこれ買ってくるから」
息を切らした安子が、疲れた顔で言ってくる。
「おう、さっさと行ってこい」
★
その後も安子は色々な店内に入っては、ひとしきり商品を眺めては何も買わずに店を出てしまう。
「安子、今日は何しにここに来たんだっけ?」
俺が店内の中央辺りにあるレトロな雰囲気の柱の一番上に設置された時計を見上げる。
時刻は、午後五時を過ぎていた。
「は? お兄ちゃんこの数時間で脳みそ退化でもしてんの? 買い物でしょ」
もう四時間近くも、俺は妹と買い物して馬鹿みたいな会話繰り広げていた事になる。
はぁぁぁぁ、時間もったいねぇぇ。
この四時間を家で過ごしていたら、どれだけの敵を倒せていたのだろうか、コントローラーをこの手持って。
「いや、買い物してないじゃねえかよ」
「さっきの雑貨店でキーホルダー買ったよ?」
「そんだけじゃん! お前、俺を荷物持ちで連れてきといて、持つ荷物が見当たらないってどういう事だよ」
「え、あたしお兄ちゃんに荷物持たせる為について来てもらったんじゃないよ?」
「は? え、じゃあなんで俺をわざわざ買い物なんかに連れてきたんだよ」
お前無理矢理、俺の予定に買い物を捻じ込んできたじゃん。
すると、安子は急にモジモジしだして自分の服の裾をいじり出した。
「だって、あたし帰ってくるの久しぶりだしさ。お兄ちゃんも久しぶりに兄妹二人で何かして過ごしたら、ほら、あの……楽しいかなって」
目を泳がせながら、語った安子の声はどんどん小さくなり、最終的には辛うじて聞こえるほどの絞り出すような声になっていた。
「それなら、早く言えよ」
そうしたら俺も、もう少し楽しもうって気になっただろうに。
「だって、あたしがお兄ちゃんのこと普通にお出かけしよって誘ったら『なんで?』とか絶対言うじゃん」
「そりゃ言うだろ。目的も分からないのに出かけようとか言われたら、理由を聞くのは当然だよ」
「それでもやなの! お兄ちゃんは、あたしに黙ってついてくればいいの!」
自分の妹にこのフレーズだけ切り取ったら、
めちゃくちゃ漢気あることを言われてしまった。
おい、兄を差し置いて漢気見せてんじゃねえよ。思わず、ときめきそうになったじゃねえか。
まあ、それはさておき。
「安子、わかったから落ち着いてくれ」
「やだ、あたし今すっごい恥ずかしい思いしたのに、このままじゃ引っ込みつかないもん」
恥ずかしい自覚があるなら最初からやめてくれると助かるんだけどなぁ、お互いに。
今の安子の大きな声で、道行く買い物中の他のお客様方にもジロジロ見られて、最悪だ。
「ママーあのひとかのじょにおこられてるー」
「シッ! 指差さないの。お兄さんが悪いこと謝るところの邪魔しちゃいけません!」
あの〜奥さん、どうして俺が悪い前提なんですか?
そして、お父さん気の毒ですが俺はあなたの同類ではないので、そんな同情を込めた生暖かい視線で見つめないでください。
「安子、お前何にやけんだよ」
「にやけてないし! 口の中が痒かっただけ!」
「ああ? そうなんだ……で、じゃあ俺は何すればいいんだよ」
これ以上見世物になるのも嫌だし、この場を去りたいが、妹相手に能力を使うのは気が引ける為、俺は我が家のお姫様のご要望を尋ねる。
「……つもの」
「ごめん、聞こえかったからもう一回言ってくれ」
「だから……いつもの」
「はい?」
「もうお兄ちゃん察し悪すぎ! 頭撫でてって言ってんの!」
怒りで真っ赤になった顔で安子が怒鳴っているが、俺が今聞き返したのは聞こえなったからではない。
自分の耳を疑ったから嘘であって欲しいと思ったから、聞き返したのだ。
「ここで、か?」
「してくれるまで、あたし一歩たりとも動かないから!」
この先ほどから老若男女様々な人が行き交っているショッピングセンターの通路のど真ん中で、頭を撫でろと正気で言っているのか、俺の妹は。
どうする? このまま安子を置いて一人で帰るか?
だが、それを両親が知ったら妹を溺愛している人達のことだ。
絶対に一時間は説教される羽目になるだろう。
はぁ、本当に彼女が出来てからというものピンチばかりが襲いかかってくるなぁ。
もしかして今神様フリーなのか? これはその腹いせなのか。
「……わかったよ」
悩んではみたものの、結局逃げ道は全て通行止めで、残された救いは早く終わらす以外にはなかった。
俺は安子の目の前に立ち差し出された頭を、さらさらと髪が乱しながら撫で回す。
数回が終わって、手を離そうとすると安子が俺の手首を掴んで離れるのを拒否した。
「まだ、だめ」
ぐぉぉぉぉ! 無茶苦茶恥ずかしいじゃねえかこれ! 何回やったら終わんだよ!
その後、撫でる回数が二十を超えた所で俺の手は解放された。
「んふぅ、よく頑張ったねお兄ちゃん! もう許してあげる」
「ああ、そりゃ、ありがとな」
恥ずかしさに耐える為、最初から最後まで目を瞑っていても正直危なかった。
羞恥の極限状態だった為か能力のスイッチが若干入っていたらしい。
終始何処かの変態の犬の鳴き声のような「くぅぅぅぅぅぅん」というの心の声が聞こえていた気がする。
まあ、それは気にしたくもないので速やかに記憶から消しておこう。
「よぉし、もう用事もないしさっさと帰ろうぜ!」
なるべく周りに視線を合わせないように、薄目で安子を見ながら、俺が今日一番のテンションで言うと……
「あたし、最後にもう一個寄りたい場所あるんだよね」
と、負け試合の延長という冷酷な判断が下る。
俺の妹は、同じ血が通っているのか怪しいほど、血も涙もなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
僕は書いてて割と楽しかったのですが、大丈夫でしたか?面白いと思って貰えていたら嬉しい限りなのですが。
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それでは、よろしければ次回もお付き合いくださいませ。




